サイコ島

Yapa

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第2話 蚊を叩き潰すような一瞬の時間

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「揚羽」




ボクが声をかけると揚羽すごい勢いでふり向いた。



予想通りの美少女に仕上がっていたが、その表情は恐怖に歪んでいる。



気づいていないフリをして微笑を向けると、揚羽の表情は強張った。




「お…兄ちゃん…?」




揚羽はボクに気づいた。




「久しぶり、そっちに行ってもいいかな?」




「どうし…て?どうして今…?」




揚羽はまるで宙に浮かぶように崖から飛び降りた。




「揚羽っ!」




ボクはすぐさま飛び込むと、海中に沈んでいく揚羽を激しい波をかき分けてなんとかつかみ上げ、海上に顔を出した。



不幸中の幸いというべきか、揚羽は気絶していた。もしも意識があったらパニック状態で海中に引きずり込まれていたかもしれない。



ボクはラッコの姿勢になり、揚羽を上に乗せてバタ足した。ゆっくりとだが上がれる岸壁にたどり着いた。



揚羽の生足の素肌を傷つけないように岸壁に上がるのは骨だった。



息を切らせながらも揚羽の呼吸を確認してみたところ、なんと息をしていなかった。



まずい。助けた時は単に気絶しているだけだと思ったが、だいぶ水を飲んでしまったらしい。



気道を確保し、人工呼吸を始めた。



岩肌で背中を傷つけてしまうのが気になるが、そんなことを気にしていていいレベルの事態ではない。ボクは必死になって胸を圧迫した。




「げほっ、え゛ほぅ」




揚羽は水を吐き、苦しそうだが自発呼吸を始めた。



よかった!



ボクは心底安心した。




「だいじょうぶですかぁ~?」




背後から声がした。



見ると、明らかに輩の一味のような男が二人近づいてきていた。



だが、人は見かけで判断してはいけない。ただの地元民かもしれない。




「あれっ?アゲハちゃんじゃ~ん!」



「ほんとだ。お兄さんこれどうゆうこと?」




ほぼ確定。輩の一味だろう。どう見ても同じ高校生でもないし、アゲハの交友関係にはなさそうだ。6歳までしか知らないけど。




「お兄さん、だまってないでなんとか言いなよ」




なにやらイラついて輩の小さいほうが言ってくる。歳は30前後。ビーチサンダル履き、ポケットに手を突っ込んでいる。



ボクは男の素足を踵で踏んだ。




「あぎゃっ!なにす」




最後まで言わせず、男の顔面に頭突きをお見舞いする。



もう一人のデブの方がつっかけてくる。



デブは運動靴でダボッとしたジャージを着ていた。



ボクは小さいほうを突き飛ばして、つっかけてくるデブに渡した。



デブは小さいほうを突き飛ばして突進してくる。



ボクはその場にしゃがみこんで、ちょいと水平移動した。



デブはボクにひっかかり、転んだ。




「うぎゃっ!」




岩肌の上だから効果覿面だった。




「て、めえ、なにす」




小さいほうがうめいていた。



ひとりだけいれば十分なので、すぐに声をあげてしまいそうな小さいほうに近づいて行って、うしろに回ると、首をぐりんっ!と髪をつかんで勢いよく回した。



たちまち小さいほうは黙って死んだ。



デブがそれを見ていて「ひ」と恐れをなしたようだった。うまく立ち上がることも出来ず、だまってボクが近づいていくのを見ていた。



ボクはデブの方に近づいてしゃがむと、片っぽの目玉をえぐりとった。




「~~~~~っ!」




正確には、えぐりとったというよりも、抜き出した。まだケーブルみたいな視神経がくっついていたし、医者に見せれば回復可能だろう。




「確認なんだが、君らは揚羽の家に上がり込んでいる輩でまちがいないね?」




デブはプルプルと震えていて、うまく応えられないようだった。



だから、ボクは目玉をプニプニと押してやった。



すると電気が走ったみたいにデブはビクンビクンとなった。




「どうなの?」




デブは小刻みにうなずいた。



ボクは目玉を握りつぶした。



デブはさめざめと泣いた。



泣きたいのはこちらの方だ。デブのでろでろした液が手の平にくっついてしまった。




「おに…いちゃ…ん?」




蚊の鳴くような声が聞こえた。



揚羽がぼんやりとだがこちらを見ていた。



唐突だが、昔とある猟奇殺人犯の卒業文集がニュース番組で取り上げられていたのだが、その中の一節「まるで蚊をたたきつぶす一瞬のような学校生活だった」というような表現が紹介されていて才能を感じたものだ。



というわけで、ボクもその才能にあやかってデブの首をごきりっ!と回して蚊をたたきつぶすように手軽に殺した。



揚羽が起き抜けなのに目を丸くしていた。
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