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1章 死神の白魔法
35 午前8時の脱走計画 ③
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「ああああぁぁあぁぁ!!!」
雄叫びを上げたリフレシアの渾身の飛び蹴り
それを大きくたたき落とす大きな金槌のように縦に振り下げられたセラムの拳。
二人の攻撃は互いの攻撃を真正面に受けながら、二人の受けた攻撃の衝撃はとても素手と蹴りとは思えない程の威力に大きな音と風圧を放つ。
彼女はその一瞬の判断で攻撃を上手く急所から外し受け切るも腕に受けてしまい、その腕は龍の腕その物であり鱗はまさに硬質だったにも関わらず、その腕からは鱗が何枚も砕き剥がれ血を流す程の威力。
対するセラムも蹴られた顔からは血とアザが出来てはいるものの平気な顔ですぐに立ち上がる。
明らかに一撃の破壊力はセラムが勝っている。近接戦の技術も上、このまま彼女が戦うのはかなり部が悪いとあからさまに出ている。
戦う二人は間合いを取る、お互いに離れた隙に私はすぐ様彼女に近寄り、その場凌ぎの痛み止めと回復魔法をこなしながら助言をした。
「あの人の一撃はどれも重い上に戦い慣れているから適当な攻撃は基本躱わされてしまう」
「この腕を見れば分かる。骨に至らぬまでも肉にまで響いている。元の姿ならば魔法も容易く使えるのだが、人の体はまだ浅い・・・使い方がいまいち分からん」
「このままインファイトを繰り返した所で歯が立たない所かあなたが殺られかねない」
ピクリと眉をひそめセラムを睨む彼女、丁度、簡易的な治療に回復魔法を唱え終えたタイミングだった。彼女は見た事のない怒りの表情を見せた。
「上等だ・・・、このままあいつの独壇場のさせるのにも頭にきていた、あいつの土俵で完膚無きまで叩きのめす」
「元の姿に戻るのは・・・分かってるよね、それに私達の目的はこの場から離れる事、忘れてないでしょ?」
「俺にあいつから逃げろと?」
「最初から戦う事を視野に入れた作戦じゃない、それに言ったでしょ?セラムには今のあなたでは勝てない、長期戦になれば確かにこちらには多少有利に働くけれど、逃げていったエリミネーターが仲間を呼べば一気に不利になる。今は我慢して」
「俺がこんだけ殴られてんのに黙って逃げろって言うのか・・・冗談じゃない、あと20発はあいつに拳を叩きつけなきゃ気が済まねえ」
「・・・分かった。多少の時間稼ぎはするからちょっとでもダメージを与えて、弱らせてから逃げよう」
「どうするつもりだ?」
防御、硬化魔法”シェルター”こんな初歩的な魔法だけでは心許ない、”マグ・メル”を使い砂で彼女の体を鎧の様に覆い固め防具を作り出し、近くには数十体の彼女の体を模し似せた砂の塊を同時に作る。説明するまでも無いと言えるほどシンプルなもの。数で押し、砂で作った彼女の模倣人形を彼が相手にしている間に不意打ちでリフレシアが同時に死角から攻撃を与える。
意地が悪い、そういった顔つきの彼女は私の方を見てニヤリと笑う。どうやら伝わったらしい。
「あとは好きに動いて、どれだけ出来るか分からないけど」
「良い作戦じゃないか」
彼女は作り出した砂の塊達を率い、セラムの元へ真正面から堂々と向かい、大量の砂の模倣人形と彼女を恐れる事なく、彼自身もその場から離れず迎え撃つ形で構えていた。
一時凌ぎの砂の大群は彼女と共に襲い掛かるも簡単に蹴散らせられる。けど状況は違う、相手はどれだけ強い人間だろうが相手にするのは数十と防御強化された一匹。
先程の一方的な戦闘とは違いセラムは防御と攻撃を同時にこなせる程器用では無い。彼女の容赦ない攻撃と砂の模倣人形と巧みに入れ替わりながら、目を眩ませる様に上手く視界から避け至る所からセラムに攻撃を加える。
彼女は彼の攻撃にも気に求める事なく、体で受けつつも辛うじてセラムに対しダメージを与えられてはいる。
「ハハハハハ!!こいつは凄いぞ!当たっても痛く無い」
「小癪な・・・」
セラムの攻撃は確かに彼女に何度も直撃している。しかし防御魔法に”マグ・メル”による砂の鎧。少し不安だったものの想定以上に”マグ・メル”の作り出す砂の鎧の防御力は高かく働いている。
さっきまでの戦闘が嘘の様にリフレシアが有利に働き、セラムにより次々に倒されていく砂の模倣人形はあ、彼の前に崩れ落ちるも私はそれ以上に更に数を増やし砂の模倣人形を作り出し遠くから指示を出し応戦。彼女の攻撃は止まる事ない。
彼の苦手とする長期戦、そしてリフレシアの攻撃を受け少しずつではあるものの彼へのダメージは目に見えるほどに受けてはいるはずなのに。
優に100、150以上無限に作り出される砂の模倣人形をほんの十数分で戦い倒しながら、彼女の攻撃も徐々に通らなくなっていっていく。戦闘経験による慣れ、ここまで粘り続けダメージを負いながらも攻撃速度もその威力も弱っていない。
一筋縄では行かない、そして彼自身一方的な状況下を甘んじ受け止め力で状況を変えようとする程単純な人では無い。次に出る行動は・・・。
彼の行動を予測し次の作戦を立てるも、遂にリフレシアの数多の攻撃を受け止め、彼女の片足を掴みまるで軽やかな鞭でも振るうかの様に地面へと何度も叩きつけ、私のいる反対の方へ遠く投げ飛ばし、数十と囲む砂の模倣人形の蹴散らしながら私の元へと走ってくる。予想通り、根本である私を叩きに来た。
「カペラァァァー!!!」
雄叫びと共に襲い掛かるセラム、逃げ切ろうとは毛頭思っていない。遠くまで投げ飛ばされたリフレシアも走って彼を追いかけるが間に合うはずもない。
砂を操る"マグ・メル"は魔力を使い”砂上の夢”を引き起こさせ自在に操れる、彼女に砂の鎧を作った時、その頑丈で強力な防具さえ作れてしまう再現力に思いついた事、ぶっつけ本番の一か八か・・・・。
走りながらその拳を振り上げる彼に対し、私は"マグ・メル"を砂で覆い巨大な盾を作り出し、姿勢を低くし防御を重点にした姿勢で構えるも、凄まじい破壊力を持ったその拳は砂の盾を意図も容易く粉砕し、攻撃の衝撃には耐えうる事は出来ず。
その圧倒的な力に押され、まともに攻撃を受けずとも"マグ・メル"を持つ腕は張り裂け、今にも爆発しそうなほどの衝撃と痛み。気が付けば"マグ・メル"と共に20m近く地面を転がっていた。
まともに体に受けていたら致命傷どころでは無い。ただでさえ軽い私の体は遠くへと飛ばされ握りしめていた"マグ・メル"はその衝撃と威力に耐えかね手放してしまい、私が飛ばされた違う方向へ転がってしまっていた。
直様立ち上がるもその目の前にはセラムがすぐそばまで迫っている。必死に"マグ・メル"の元へと駆け寄りなんとか手にしようとしたその腕は自身の意識と反し手で触れる事は出来たものの、持ち上げる事が出来ない。ビリビリと痺れる手、きっと彼の攻撃を受け止めた衝撃でまともに腕に力が入らなくなっている。
焦る私の目の前にはすでに力強く拳を振り上げ叩きつけようとするセラムがいた。
「あ・・・あぁ・・・」
「潔く死ね」
「死ぬのはテメェだ!!」
遠くへいた彼女は私の元まで必死の形相で走り寄り、走った勢いが乗った彼女の一撃は見事に彼の顔に叩きつけられ、その一撃は耳元にまで響く程に重く、鈍い音が響く。殴り飛ばされ、その痛みに転げ回遠くで悶えるセラム。
私は寸前の瞬間彼女に再び助けられた。
「・・・ありがとう」
「バカ!なんでまともに攻撃受け止めようと思ったんだ!」
「ごめん、作戦があったんだけど」
「打ち合わせ無しに独断でやるな。俺にも話せ」
「うん・・・、でもまたすぐに襲いかかってくる。だから簡単に言うね、セラムの足止めをして欲しい出来るだけその場から動かさず」
彼女はその言葉に少し苦笑いしながら「簡単に言うな・・・」と答える。
腕は未だ痺れる、地面に落ちた"マグ・メル"も持ち上げる事も出来ない。
けれど使う事は出来る、"マグ・メル"に手をかざし唱え再び砂でリフレシアの模倣人形を作り出せる。
一時凌ぎ、もう攻撃も作戦も見切られている。とはいえ相手の集中力や体力を削るのには十分過ぎる程に効果はある。注意が私ではなく彼女に向けば今はいい。
「”ラピス・ラズリ”」
自動回復魔法、戦闘中私が呪文を唱えずとも少しの間自然に回復してくれる上級白魔法。
白く澄んだ気体の様に細かく魔力の粒子を作り出し、リフレシアを魔力の粒子が包み込み傷を癒す。これである程度の攻撃なら致命傷は避けられる。けど効力は長くと持たない上に今の私では魔力を消費し続けると後の彼女の回復も援護も出来なくなる。
私が干渉出来ない程の距離で彼女は戦ってくれている、そのせいで回復も防御の加護さえ届かず彼女をバックアップする事が出来ない、届く距離にいればまた私が狙われると判断したに違いない。私を戦闘に巻き込まない為とはいえ無茶がある。
だからこれが最低限出来る彼女を助ける事が出来る魔法。
「リフレシア、その魔法はあまり持たない。それに硬化魔法ももうすぐ効力が・・・」
「・・・何分位だ」
「5分・・・」
「上等だ」
彼が立ち上がり始めた時、彼女は再び砂の模倣人形を従え再びセラムに向かって走って行く姿。
勇敢な彼女のその姿に彼に勝てるのではと密かな期待と不安を抱く。
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