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太陽と向日葵
③
しおりを挟む「うわぁ…すっご」
突き抜けるような青空と一面に広がる鮮やかな黄色が網膜を焼く。
電車で約30分、駅からはバスで15分。
入園チケットを買って入った先のその光景に思わず足を止めた。
そのうちに夏が終わることが嘘だと思えるほどの眩しさに目を細めると、隣に立つ美好くんが笑った。
「先輩、感動しすぎ」
「いやいや感動するだろこんなん、美好くんは反応薄すぎだから」
「してますよ俺も、感動。いい時期終わっちゃったかと思ったけど、まだ全然綺麗ですね」
よかった、って微笑む美好くんの方が目の前の花よりよっぽど綺麗でどうすればいいかわからなくなる。
そんなキャラでもないのに一緒にいるとキザなことばっかり思っちゃうんだけど、俺。
「まだ入ったばっかりですから、行きましょ」
「うん」
美好くんの後に続いて俺も歩き出す。
白地にブルーのラインが入ったシャツは美好くんの爽やかさを引き立てていて、俺よりも大きいその背中につい手が伸びそうになる。
少し足を速めれば簡単に追いつけるくらいの距離が、やたらと遠く思えるのはいつものこと。
離れたところから指を咥えて眺めるよりも、うっかり近づけてしまった今の方がもっと届かないことを思い知る。
こんなところで一緒にいても俺はただの先輩で、友達で。それ以上の何かにはなれない。
美好くんの背中を見つめる度にそう思う。
マップの順路通りに園内を見て回っていると、不意に美好くんが足を止めた。
「先輩、あれ欲しい?」
まるで子どもを相手にするような問いかけだと思ったのはあながち間違いではなくて、あれと言って美好くんが指をさしたのはキッチンカーの横に立つソフトクリームの絵が描かれた可愛らしいのぼりだった。
「あーいいね、暑いから食べたい」
「じゃあ買ってあげる」
「え?」
いいよそんなの、と言う俺の言葉をスルーして美好くんはさっさとキッチンカーの方へと歩いて行ってしまう。慌てて後を追いかけたら、「先輩、味は?」と聞かれて反射的にバニラと答えてしまった。バニラ二つで、と指を二本立てた美好くんはスマートにお会計を済ませて気付いたら俺の手には綺麗に巻かれたソフトクリームがあった。
「え、ホントにいいの?」
「この間落としたの、流石に可哀想なので。どうぞ」
「って言いつつ笑ってるけど。…ありがとう」
「どういたしまして」
揶揄うように笑われる。
それさえ好きだなって思って心臓がぎゅってした。末期だ。
こんなことされたら、そんな顔で笑われたら、もっと好きになっちゃうのに。美好くんにとっては全部意味のないことだから責任なんてとってくれない。
「初めて美好くんに奢られちゃった。記念に写真撮ろーっと」
「わざわざ撮るようなもんじゃないでしょ」
「何言ってんだよ、これは歴史的瞬間なの」
「大げさ」
何枚か撮った中で一番綺麗に撮れた写真とメッセージをその場で送ると、通知に気付いた美好くんがスマホを操作してトーク画面に既読が付いた。
「ふはっ、テンション高。俺のことばっかりだし」
「うん、美好くんパワーで今日も幸せだぜ」
「ははっ、それは良かったです」
俺が美好くんに送ったのは今日のいいこと日記だ。
今日も美好くんがかっこいい、美好くんと一緒にひまわり畑に来た、美好くんが初めて俺にアイス奢ってくれた。早くも三つで今日はウルトラ幸せハッピーデイである。
「やべ、アイス溶ける!いただきまーす」
やわらかく溶け出したアイスのてっぺんに慌てて齧り付くと、まろやかなバニラの甘みとひんやりとした冷たさが口の中に広がって自然と頬が緩んだ。
「んー!うま。今まで食べたアイスの中で一番おいしいわ」
「だから大げさですって」
「ホントだし、美好くんが買ってくれたから世界で一番おいしい」
「…あっそ」
ぐって何かに耐えるように唇を引き結んだ後、目を逸らされた。かわいい。美好くんが照れてる時の反応だ。最近気付いた。
「ふふ」
「何笑ってんですか?ムカつく」
「べっつにー?」
知らなかった顔を、こんな近くで知っていける。
俺にとっては奇跡みたいなことだよ、美好くん。
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