神様が死んだ日

おつきさま。

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神様が死んだ日

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『…うん。どうしてもゲームが欲しくて、ごめんな明。でも別にお前の情報勝手に流してたとかじゃねーし、三人で遊ぶのも悪くなかったじゃん?だからいいだろ?』


その瞬間、俺の神様は死んだ。












世界でただ一人の幼なじみ。
きよは俺の、神様だった。



それは比喩でもなんでもなく、きよはまさしく俺の全てだったのだ。
俺にとってこの世界は、画面の向こう側に見るよくできた偽物となんら変わりなく。
温度もなく執着もなく、ただガラス一枚隔てて無関心に眺めるだけのものだった。
何故なら俺にとっての世界とはこんなつまらない現実などではなく、きよなのだから。
きよが俺の全てで、世界で、神様で、絶対だった。
俺を構成する世界は、きよかそれ以外かで出来ていた。
初めてきよが俺に声をかけてくれたあの瞬間から、それは覆ることがなかった。



きよと出会うまでの俺の世界は、退屈とガラクタに満ちていて。
他の人間と比べて綺麗に造形され過ぎてしまったらしい顔と、莫大な資産と強い権力が備わった相楽の家に生まれたこと。
そのたった二つの要素が相楽明というなんでもない人間を特別な存在へと仕立て上げた。
俺自身には何もないというのに、物心がつく前から徹底した教育を施されて完璧以上の結果を求められる日々。
両親と過ごした記憶も自分の生まれた日を祝われた記憶もなく、家を出て幼稚園に行けば同い年の子どもにもその親にも、果てには俺よりも立場が上であるはずの先生にまで気を遣われて特別に扱われる毎日。
特別、と言えば聞こえはいいけれど、簡単に言えば腫れ物に触るようなそれに近かった。


「ハサミは危ないから、めいくんは折り紙だけでいいわよ」
「転んだら危ないから、かけっこはだめよ」
「きれいなめいくんはお砂でなんてあそばないよね」
「めいくんはボールあそびなんてしないよね」
「ピアノをひいてるほうがにあうもんね」


なんで?俺だってみんなと同じようにハサミを使ってどうぶつを作りたい。
みんなと同じようにおにごっこをしたり、泥だんごをつくったり、サッカーがしたい。
汚れるのなんて気にならない。
ピアノなんてちっともたのしくない。


誰も俺の意見なんて聞こうともしなかった。
俺が怪我をして親が出てきたらまずいから、イメージと違うから。
そんなくだらない理由で遠ざけられて、俺はこうだと決めつけられた。
そのくせ、俺が少し何かをするとみんな過剰に褒めてきて、俺の機嫌を損ねないように俺に気に入られるように、嘘の笑顔を貼り付けて俺に対してだけ態度を変えた。
何もかもが気持ち悪くて、うんざりで。



それからの俺は、いつも教室の端で一人で絵を描いていた。
それは俺のイメージに合うようで、それをしていれば周りに何かを言われることもなく、邪魔しちゃいけないと勝手に思われて、誰も近付かないから楽だった。
どちらかというと絵を描くのは嫌いだったけど。

「ねえ、なにかいてるの」
「え?」

ある日そう声をかけてきたのは、話したことのないおなじクラスの男の子。
俺はそいつのことを知っていた。
見かける度にいつも誰かと楽しそうに笑っている姿が、印象的だった。


「めいくんもいっしょにあそばない?」


どいつもこいつも、俺にだけ態度を変えたのに。
そいつはいつも通りの笑顔を俺に向けた。
俺以外に見せるのとなにも変わらない特別でもなんでもないその笑顔が、だからこそ俺には他の何よりも特別なものに見えた。

「めいくんは、なにしてあそびたい?きめていいよ!」

へらりと笑う顔が太陽のようで、俺の世界は一瞬でその光に眩んだ。
その笑顔が、言葉が。
どれだけおれにとっての救いだったか、きよはなにも知らない。









きよが笑えば、それだけでこの世界に生きている価値が生まれる。
この笑顔の隣にいられる間だけ、自分が自分でいられるような気がしていた。
きよだけが俺を普通にしてくれた。
きよの笑った顔も、声も、指先も、髪の一本から足の爪先までもが全て尊くて、宝物のようだった。
誰にも壊されないように、侵されないように、大切に大切に手を繋いで。
俺はきよと、二人だけの世界で生きていた。



まさかそれが壊れるなんて、それが他でもないきよの手によるものだなんて、一体どこで予想できただろう。
繋いでいたはずの手は、いつのまにか解けていた。
いつだって俺を安心させてくれたはずの笑顔が酷く醜いものに思えて、吐き出される言葉を聞いていられなくて、気付いたら俺の手はきよを殴り付けていた。




その日、神様は死んだのだ。





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