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神様が死んだ日
end.
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真っ白な部屋の中で、頭に包帯を巻かれたきよの消え入りそうなほどに微かな呼吸だけが聞こえる。
鼻腔をくすぐるツンとした消毒液の匂い。
その中で眠るきよは生きているのか死んでいるのかわからなかった。
だから早く俺の名前を呼んで欲しいのに。
世界でただ一人、女みたいで気に入らないこの名前を、お前にだけは呼ぶことを許しているんだから。
「きよ」
起きろよ。
手を握ってもなんの反応もなかったけど、そこに温もりがあることに安堵した。
命に別状はありません、という診断結果もお前が目を覚ますまでは信じられないのに。
「ねえ、お前の言うこと信じるから。
起きてもう一回、ちゃんと言えよ」
お前がいつも、やたらと泣きそうな目で俺を見ていた意味がやっとわかった。
お前が俺に向ける想いと、そこら辺の有象無象から渡される想いが同じなわけないのに。
なんでそんなこともわからないかな。
「どうしてそんなにアホなんだよ、きよ」
きゅ、と握る手に力を込めたら弱い力で握り返されたような気がした。
「きよ?」
「……ぅ、めぃ…?」
慌てて視線をやると、薄く開いた目がぼんやりと俺を映して名前を呼んだ。
「大丈夫か?痛いとこは?」
「ゔぅ、あたま、いったい…てかぜんぶいたい、なにこれ」
「階段から落ちたんだから当たり前だろ!…とりあえず医者呼ぶから」
ナースコールを押してきよが目覚めたことを伝えると、すぐに医者がやってきて軽い診察の後に「今のところ異状はないので安静にしていてください。何かあったらまたすぐに呼んでくださいね」と言って出て行った。
再び静かになった病室の中で、わかりやすく気まずそうな顔をしているバカに話しかける。
「お前さ、なんであの時助けたの。下手したら死んでたかもしれないのに、わかってんの?」
「…そう言われても、体が勝手に」
「だからお前はバカだっつってんだよ」
「た、助けたんだからいいだろ別に!」
「よくねぇよ!もしそれでお前が、きよが死んだら、俺は…っくそ、」
「…うええ、ちょ、めい!?」
そうだよ。
もしもお前が目を覚まさなかったらって、俺は気が気じゃなかった。
もう二度と会えなくなったらって。
緊張が解けた瞬間、それが目に見える形で溢れ出してしまう。ぽろぽろと俺の意識とは関係なく流れ落ちる涙がうざったくてしょうがない。
ああ全部、お前のせいだ。
「きよ。俺のことが好き?」
近付いて頬に触れたら、真っ黒な瞳が俺を見つめる。
「うん、好き。ごめん」
それにじわじわと水の膜が張るのを眺めていた。
涙を湛えて潤んでいく様があまりに綺麗で、俺は目を離せずにいる。
ごめん、なんて。お前は本当に俺のことばっかりで。
「ねえ、きよ。好きってなに。お前の俺への好きって、どういう好き?」
恋なんて知らないから、それがどんなものなのか俺に教えて欲しかった。
「ど、んなって…ずっとそばにいたくて、離れたくなくて、」
「うん」
「他の誰にも、取られたくなくて。おれ以外の人間には笑わないで欲しいって思うような、そういう重くて汚い感情だよ…ははっ、引いただろ?」
なんでかきよは自分を卑下するように笑ったけど。俺はその言葉に拍子抜けしてしまった。
だって、
「…なにそれ、そんなこと?それなら俺は、初めて会った時からきよのことが好きだったってことになる」
「は、あ…?バカ明、違うだろ。お前のそれは初めての友達とか幼なじみとかそういうのが特別なだけで。お、おれのはもっと!キ、キスとか、もっとそれ以上のことまでしたいっていう好きなんだよ!おれはお前に、愛されたいんだよ…っ、」
あ、こぼれる。
ぎりぎりで保たれていた滴がきよの瞳から落ちてあっけなく布団の上で弾けて消えた。
その一雫さえ、もったいないなんて俺は思うのに。
お前は何一つわかってないんだ。
「馬鹿だねお前。この世界で一番きよを愛してるのが誰かわかる?俺だよ。お前の親でも友達でもない。お前が望むなら、俺はなんだってしてあげるのに」
布団なんかに取られるのは癪だったから、今度はこぼれ落ちるよりも先にそれを舌で舐め取って。ついでにそのままご所望の通りに唇を重ねた。
初めて触れるやわらかさとその熱に、勘違いでもなんでもなく、確かに胸の奥がくすぐられる。
「っ、め、めい…!?」
ちゅ、とわざとらしく音を鳴らして離れれば真っ赤に潤んだ顔と目が合って、どうしようもないほど愛しさが込み上げた。
ねえきよ、俺らふたりして馬鹿だったみたい。
ずっと要らない遠回りをしてた。
愛も恋もなにもかも、そんなのは最初から全部お前のものだった。お前以外なんてありえなかった。
だって、
「俺の特別なんてお前しかいないんだよ、きよ」
(初めて出会ったあの日から、君はずっと僕の神様)
鼻腔をくすぐるツンとした消毒液の匂い。
その中で眠るきよは生きているのか死んでいるのかわからなかった。
だから早く俺の名前を呼んで欲しいのに。
世界でただ一人、女みたいで気に入らないこの名前を、お前にだけは呼ぶことを許しているんだから。
「きよ」
起きろよ。
手を握ってもなんの反応もなかったけど、そこに温もりがあることに安堵した。
命に別状はありません、という診断結果もお前が目を覚ますまでは信じられないのに。
「ねえ、お前の言うこと信じるから。
起きてもう一回、ちゃんと言えよ」
お前がいつも、やたらと泣きそうな目で俺を見ていた意味がやっとわかった。
お前が俺に向ける想いと、そこら辺の有象無象から渡される想いが同じなわけないのに。
なんでそんなこともわからないかな。
「どうしてそんなにアホなんだよ、きよ」
きゅ、と握る手に力を込めたら弱い力で握り返されたような気がした。
「きよ?」
「……ぅ、めぃ…?」
慌てて視線をやると、薄く開いた目がぼんやりと俺を映して名前を呼んだ。
「大丈夫か?痛いとこは?」
「ゔぅ、あたま、いったい…てかぜんぶいたい、なにこれ」
「階段から落ちたんだから当たり前だろ!…とりあえず医者呼ぶから」
ナースコールを押してきよが目覚めたことを伝えると、すぐに医者がやってきて軽い診察の後に「今のところ異状はないので安静にしていてください。何かあったらまたすぐに呼んでくださいね」と言って出て行った。
再び静かになった病室の中で、わかりやすく気まずそうな顔をしているバカに話しかける。
「お前さ、なんであの時助けたの。下手したら死んでたかもしれないのに、わかってんの?」
「…そう言われても、体が勝手に」
「だからお前はバカだっつってんだよ」
「た、助けたんだからいいだろ別に!」
「よくねぇよ!もしそれでお前が、きよが死んだら、俺は…っくそ、」
「…うええ、ちょ、めい!?」
そうだよ。
もしもお前が目を覚まさなかったらって、俺は気が気じゃなかった。
もう二度と会えなくなったらって。
緊張が解けた瞬間、それが目に見える形で溢れ出してしまう。ぽろぽろと俺の意識とは関係なく流れ落ちる涙がうざったくてしょうがない。
ああ全部、お前のせいだ。
「きよ。俺のことが好き?」
近付いて頬に触れたら、真っ黒な瞳が俺を見つめる。
「うん、好き。ごめん」
それにじわじわと水の膜が張るのを眺めていた。
涙を湛えて潤んでいく様があまりに綺麗で、俺は目を離せずにいる。
ごめん、なんて。お前は本当に俺のことばっかりで。
「ねえ、きよ。好きってなに。お前の俺への好きって、どういう好き?」
恋なんて知らないから、それがどんなものなのか俺に教えて欲しかった。
「ど、んなって…ずっとそばにいたくて、離れたくなくて、」
「うん」
「他の誰にも、取られたくなくて。おれ以外の人間には笑わないで欲しいって思うような、そういう重くて汚い感情だよ…ははっ、引いただろ?」
なんでかきよは自分を卑下するように笑ったけど。俺はその言葉に拍子抜けしてしまった。
だって、
「…なにそれ、そんなこと?それなら俺は、初めて会った時からきよのことが好きだったってことになる」
「は、あ…?バカ明、違うだろ。お前のそれは初めての友達とか幼なじみとかそういうのが特別なだけで。お、おれのはもっと!キ、キスとか、もっとそれ以上のことまでしたいっていう好きなんだよ!おれはお前に、愛されたいんだよ…っ、」
あ、こぼれる。
ぎりぎりで保たれていた滴がきよの瞳から落ちてあっけなく布団の上で弾けて消えた。
その一雫さえ、もったいないなんて俺は思うのに。
お前は何一つわかってないんだ。
「馬鹿だねお前。この世界で一番きよを愛してるのが誰かわかる?俺だよ。お前の親でも友達でもない。お前が望むなら、俺はなんだってしてあげるのに」
布団なんかに取られるのは癪だったから、今度はこぼれ落ちるよりも先にそれを舌で舐め取って。ついでにそのままご所望の通りに唇を重ねた。
初めて触れるやわらかさとその熱に、勘違いでもなんでもなく、確かに胸の奥がくすぐられる。
「っ、め、めい…!?」
ちゅ、とわざとらしく音を鳴らして離れれば真っ赤に潤んだ顔と目が合って、どうしようもないほど愛しさが込み上げた。
ねえきよ、俺らふたりして馬鹿だったみたい。
ずっと要らない遠回りをしてた。
愛も恋もなにもかも、そんなのは最初から全部お前のものだった。お前以外なんてありえなかった。
だって、
「俺の特別なんてお前しかいないんだよ、きよ」
(初めて出会ったあの日から、君はずっと僕の神様)
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