X.E.N.O.

スプライトふみを

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第一章

2.鮫

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 昼を過ぎたころ、俺はやっぱり心配になってきた。いや、考えすぎかもしれないが、万が一沙良紗さらさが襲われたりしたら……。
 しかし昼間から襲うだろうか? それに事件が起きているのは隣町だけだ。でも沙良紗はもう20歳だし彼氏と夜にホテルへ、なんてことも考えられる。20の時の俺もINしてたし、アイツも彼氏と……ヤるよなぁ。

 違う! 今はそんなことを考えている場合じゃない。
 とりあえず行きそうなところに片っ端から行ってみるか。

 いざ出動と思った矢先、俺のスマホに着信の通知が来た。相手を確認すると『澤口竜也』と表示されていた。
 
 「もしもし? どうした?」
 『出たよ』
 「は? 何が?」
 『XENOが出たんだよ!』

 その言葉を聞いて一気に血の気が引いた。

 「な、何言ってんだよ。XENOなんか悪魔とかそういう類のモノなんだから、いるわけないだろ」
 『今、星岬海浜公園に会社の後輩とBBQやりに来てたんだが、ついさっきカップルが上下黒づくめの男に襲われているのを見たんだ。谷本の言っていた通りの女が狙われていた』
 「おい、その襲われた女ってのは沙良紗じゃないだろうな!?」

 俺が声を荒げると、ソファーで漫画を読んでいた魁が驚いて目を丸くさせ、こちらを見上げた。

 『いや、妹さんじゃねぇ』

 頭の中で最悪のケースを想像してしまっていたが、澤口の言葉を聞いて胸をなでおろす。

 『それでな、その現場に一人の女が現れてそいつと戦って撃退したんだ。その戦いの中で相手の被っていたフードが脱げて顔が見えたんだよ。鮫のような顔がな』
 「鮫?」
 『ああ。ありゃ着ぐるみとか特殊メイクじゃない。本物の怪物の顔だった』

 澤口の声は少し震えている。本当に恐ろしい物を見たような感じだ。

 『とにかく一連の事件はXENOの仕業だと俺は思う。もうこの街にまで来てるんだ。もしかしたら親父さんが残した物が役立つ時かもしれない』

 「またな」と言って澤口は電話を切った。

 信じていなかった。いや、存在を信じたくなかったXENOが身近なところに現れた。
 今開けるべき時なのか? そんな疑問と共に沙良紗の顔が頭をよぎる。

 
 ――やるしかない。

 俺は2階の親父の部屋へと向かった。


 部屋へ入るや否や俺は乱暴にクローゼットを開け、ずっと開けまいとしていたトランクケースを引っ張り出した。そして一度深呼吸をしてから恐る恐るロックを外し、ケースを開けた。
 中には古びた藍色のコートが入っていた。広げてみると割と薄手で丈が長い。他には黒のアンダーアーマーと忍者穿いているようなダボついたズボンがあった。その下には仕切り板が1枚あり、外してみると、見たことも無い道具が詰まっていた。

 「なんだよこれ……」

 一体何に使うのかわからないものが大半だが、中には拳銃やサバイバルナイフなど用途が俺にでもわかる物があった。

 「これ銃刀法違反なんじゃねぇのか」

 中身を全部取り出し、床に並べていく。すると最後にICレコーダーがあった。
とりあえず再生してみる。

 『ついにこの時が来たか! 我が息子よ! お前ならこれを使って戦ってくれると信じていたぞ!』
 
 まぎれもなく親父の声だ。
 
 『父さんは長年このガジェットを使ってXENOを討伐してきた。凄いだろ! 恐らくお前がこれを聞いてる頃には多分……21歳くらいかな? 父さんはそれくらいの頃はもうバリバリ戦っていた!』

 残念。もう26になっちまったよ。

 『とにかく、お前がこれを聞いているということは周りにXENOが現れたのだろう。奴らと戦うには相応の覚悟と力が必要になる。覚悟はお前自身の問題だが、力なら助けになってやれる。それがこのガジェット達だ!』

 親父が俺に残したのは戦うためのガジェットってことか。

 『それではガジェット№1から順に説明していく。耳かっぽじってよーく聞け!』

 №1 バスターコート。
『ここにあるガジェットは全て友人に特注で作ってもらった代物だ。そしてこのコートはXENOからの攻撃を軽減させるのに大きな役割を担っている。これを着ていれば腕がちぎれたりすることは無い。多分!』

 №2 耐切創アーマー
『これは非常に値段が張ったガジェットだ! 主に鋭利な刃物等から身を守る事が出来る。さらには、ケブラー以外にも特殊な繊維を配合しているから強い衝撃にも耐えることができる。肋骨折れた事があるけどな』

 №3 グライド
『この作業着のようなズボンは非常に伸縮性に優れ、しなやかに動くことができるように作られたものだ。さらに脚力増強をさせるタイツもセットで備えられている! 反面防御の方は期待しないでおいてほしい』

 それからも説明は続き、一通り試しに使ってみた。
 ガジェットは全部で№17まであった。

 
 準備が完了した俺はとりあえず街へ出て目ぼしいところは周ることにした。しかし、どこにも沙良紗らしき人物は見当たらない(喫茶店や映画館は中に入れないためパス)。
 メッセージアプリ「SIGN」で沙良紗へメッセージを送ろうとも思ったが、送ってもどうせ返信は来ないだろう。
 今は7月中旬。コートなんか着てられないので、持ってきた大きめのリュックに他の必要そうなガジェットと一緒に突っ込んできたが、これがなかなかに重い。
 
 そろそろ午後4時を回る。一体どこにいるんだ?



 ――一方速野家。
 
 「ただいまー」
 「おかえりーってお姉ちゃん帰ってくるの早くない?」

 居間から顔を出して沙良紗を出迎える魁。
 沙良紗はあからさまに不機嫌そうな顔をして帰宅してきた。髪はほどき、靴を乱暴に脱ぎ捨て、ズカズカと廊下を歩き、居間へ入ると朝と同じように冷蔵庫から豆乳を取り出して飲み始めた。

 「あームカつく!」

 持っている豆乳の紙パックを握りつぶし、ゴミ箱へ投げ入れる。

 「ど、どうしたの?」

 恐る恐る魁が訊ねる。すると沙良紗は食卓の椅子に座り、不機嫌な顔を崩さずに頬杖をついた。

 「別れた」
 「え?」
 「だから別れたの! なんかわけわかんないこと言われてさ。『君を守りたい。だから僕とは別れてくれ』だって」
 「そうなんだ……」

 魁は気まずそうに自室へ戻った。沙良紗は魁がいなくなるのを確認すると、テーブルへ突っ伏した。一体自分の何がダメだったのか。他に好きな人が出来たのか。そんなことを考えるとじわりと涙がにじんできた。



 陽が落ちかけ、街中以外は人通りも少なってきた。
 思いつく場所はもう無い。完全に尽きた。
 当てもなく川沿いにある「銀河公園」のベンチへ腰かける。

 「なんかバカみたいだな」

 深くため息を吐く。これだけ探していないってことはどこか店に入っているか、相手の家に行っているかだろう。今までの被害者は外にいて襲われているわけだし、別に心配することも無い気がしてきた。帰りも彼氏が車かタクシーで家まで送ってくれるだろ。
 
 ふと顔を上げると向かいのベンチには男女のカップルが座っていた。ここ銀河公園は昼間は子供たちが多いが、夕方を過ぎると恋人たちの溜まり場となる。人通りも少なくイチャつくにはうってつけの場所だ。だが、今日は少ない方だ。今いるのは向かいの二人だけ。さっきまでもう二組いたが、いつの間にかいなくなっていた。
 思えば最後に付き合っていた彼女と別れてから1年ほど経つ。ああやって二人の世界に入っている時ってのは幸せなんだよなぁ。
 そうやって過去を懐かしんでいると、公園の入り口から背の高い上下黒色のウインドブレーカーを着た男が歩いてきた。雨も降っていないのに何故か全身が濡れている。
 見た目は通り魔と一緒だ。どうにも怪しいが、確信は持てない。
 男はカップルの元へ歩みを進めている。まさかとは思うが……。


――そのまさかだった。彼女は男の顔を見て悲鳴を上げた。
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