転生令嬢エヴァの婚約破棄から始まる愛と妄想の日々

キョクトウシラニチ

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4章 白豚腐女子×軟派騎士=?

4-9

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 エヴァがゼストからの婚約を受け入れ、ゼストの実家のキュベール伯爵家に挨拶を終えたことにより、正式に二人は婚約者となった。

 3週に一度のゼスト様のトーン家への訪問はいつしか週に一度になり、泊りになり、週に3度になり、いつの間にかほとんどトーン子爵屋敷に住んでいる状態になった。

 そして段々とチャラ男が本領を発揮し始めていた。

「エヴァ、お茶しよう」
「あ、はい。いらっしゃいませ。ゼスト様」
 急に執筆中のエヴァの後ろにやってきて、ゼスト様はうずうずと待ちきれない風に体を揺らして催促してくる。
 犬みたいでクソ可愛いやんけ!

 エヴァが渋々机から立つと自然に椅子を引いて、手を取られてサロンまで連れて行かれる。
 そこには既にラウラがお茶を手配していて、ゼスト様がお土産に買ってきてくれたお菓子とお茶が用意されていた。

「今日はお勤めが早く終わったのですね」
 エヴァは当たり障りのない話題を振る。
「ああ、今日は第二騎士団との合同演習だったけど、第二に体調不良者が多くてさ。延期になって、早く帰って来れたんだ。エヴァに会いたかったし、駆け足で帰ってきた」
 ニコニコと笑いながら、ゼスト様は歯の浮くようなセリフを吐く。
「ーーっ」
 慣れない私はどうしても恥ずかしくて仕方ない。目を瞑って顔を熱くさせ、返答も出来ない。
「エヴァ顔真っ赤にして可愛いー」
 飲んでるのはお砂糖の入れてない紅茶なのに甘すぎる。
 私はこの二ヶ月程でやっと理解した。ゼスト様はチャラい。チャラいけど、決しておバカでも無いし、下衆でも屑でも無い。そして犬系の人懐こいチャラさなのだ。
 この感じでお父様にも気に入られ、屋敷の使用人を味方に付けて、エヴァは完全に退路を断たれたのである。
 対面に座ったゼスト様は私の手を卓上でスリスリと触る。
「ねぇ、エヴァ、結婚式はいつにしようか?」
 ああ、誰も助けてくれなくなった…
 この美丈夫に自分が触られているというだけでエヴァはのぼせてしまう。
「ひゃぁ…」
 ゼストの指はエヴァの指と指の間に入り込み、絡みついている。大きくて皮が分厚い騎士の手だ。凄い筋も血管も浮いていて、「男」という手をしている。肌色もエヴァとは全然違う。指と指の間の境目をくすぐり、エヴァの手がジンジンと変な感覚がして来た。
「ねぇエヴァ、一年とか待てないよ。俺たちも王太子夫妻みたいに三ヶ月後に結婚しちゃおうか?」

「はわわわ」
 エヴァの口からは変な音しか出せなくなる。

 後ろから冬も本番になるのに上半身を脱いで湯気が出た状態のお父様がやって来て、大きな声がサロンに響く。さっきまで鍛錬してたのは分かるけど、貴族なんだから、上は着ようよ…
「そうしろ、そうしろ!エヴァ、もともとこの秋に婚姻するつもりだったんだ、よし、初春に結婚式をあげよう!な!ゼスト!」
「はい!副団長!」
「こらこら、お義父様だろう!ゼスト」
「あ、すみません!お義父様!」
「こんな男前が息子になるなんてなあ!ガハハ!」
 騎士二人の野太い笑い声が響く声と反対に、エヴァはいよいよ退路を断たれていることに気付いて震えていた。



 エヴァが自分の部屋に帰ってから、ゼストは執事のコメットと話し合っていた。

「コメット、何分だった?」
「お嬢様から手を離されるまで、おおよそ12分でした」
 コメットから報告されて、ゼストは小さく溜息をついた。
「少し伸びてきたな」
「ええ…でもこのままでは夫婦生活できるまで数カ月や数年かかるかもしれません…、ショック療法をしてみれば?そうすれば、なにか変わるかもしれません」
「うーん」
 ゼストは困っていた。
 今まで彼が相手をして来た令嬢や娼婦とエヴァは全く違う性質だったからだ。
 手を繋ぐのも、甘い言葉も彼女は慣れていない。
 ゼストは本来性欲が強く、せっかく婚約者としてある程度の性的接触が許される身になったというのにエヴァに全く手出しできていない。(エヴァは知らないが貴族でも婚前交渉は良くある事なのだ)彼はもう我慢が限界まで来ていた。
 目の前にあるふわふわでツルツルのエヴァを触りたくてしょうがないのに、愛を囁いただけで鼻血を出し、手を握ると目を瞑って震えてしまい、キスをすると掌底を喰らい、ハグをすると失神してしまう。
 少しずつ距離を詰めてはいるが(ゼストの感覚では)、嫌がられてはいないのは分かるが、恥ずかしいのと何か抵抗してしまうポイントがあるのかもしれない。
 執事のコメットに相談したところ、前の婚約者とはエスコートで手を握る以外接触はなかったので全く男性に接触することに慣れていない。だが、いろんな本を読むお嬢様は閨事の事は分かっているはずという事であった。
 自分にも従姉妹に悪戯をされたというトラウマがあるので、彼女にも何かあるかもしれない。
 だが、彼女ともっと仲良くなりたいし、正直色々したい。
 父親のトーン子爵も普通の貴族子女なら体面を考えて半年から一年かける婚約期間を短くしていいと思ってくれているようだし、前までの自分なら今すぐエヴァの寝室に押しかけて、言いくるめて色々していただろう。
 だけど今は彼女を傷つけると思うと何もできずに、今日も自分の手で慰めることしかできない。
 ゼストは婚約が決まってから、いやその前からずーっと悶々としていた。


 というわけで、トーン子爵家の使用人の協力のもと、イチャイチャデートをすることに決まった。


 -----



「では行こうか、エヴァ」
「はい。ゼスト様」
 今日は婚約者になって、初めてのゼスト様との夜会デートだ。
 またもや貴公子の衣装で決めたゼスト様はさながら夜の帝王といった風貌だ。
 エヴァにしたら伝説の歌舞伎町ホストである。背景にシャンパンタワーが見える。顔は洋画スターだが。

 馬車に乗り込み、少し進むと屋敷の玄関でラウラが手を振っていた。
 え?あれ?ラウラついて来ないの?
 え?
 エヴァが後ろの窓をチラチラと気にしていると、いつのまにかゼスト様が対面ではなく隣に座っていた。ギョッとすると、手を取られる。
 ゼストが真っすぐこちらを見ながら、エヴァの右手をふわりと両手で包んで彼の口に持っていく。
 エヴァが目を離せずその様子を見ていると、ゼストは音を立てて柔らかい唇を手の甲に当てた。
「今日は二人きりだよ。エヴァ」
 ひいいい!むりー!ラウラの裏切り者―!!
 エヴァが緊張で汗を流しているのに、さらにゼストは追い打ちをかけてくる。
「そうだなぁ…婚約者としてもう少し仲良くなりたいから、今日はずっと手を繋ごうね」
「あ、え…あ、その、え?」
「うん。エヴァの手、可愛いね」
 チュチュと何度もゼストの唇がエヴァの右手をくすぐってくる。
 むーりーーー!!
 目を瞑ってプルプルしていると、クスクスとゼストが笑っていた。
「や、…ふざけないでくださいましっ」
 顔を背けながらエヴァが非難しても、ゼストは手を離さない。
「ダメ。婚約者と離れたくないもん。俺の言う事聞きなさい。じゃないと…手以外も触るよ?」
 可愛い言い方なのにチャラい!!
「手だけでっ!手を、手を、お出ししますっ」
「ふふっ」
 貴公子の恰好をしているのに、たまに本来のオラオラ系騎士が見え隠れして、エヴァは体が火照ってくる。
 熱があるのかな?
 あ、熱があれば、デートは中止になるわね。うん。発熱しろ、私の体よ。

 無駄な足掻きを考えながら、たまにゼストにちょっかいを出されつつ、いつの間にか馬車はデートの夜会会場に到着していた。

 今日の夜会はハデス侯爵家で開催される。ハデス侯爵家はキュベール伯爵家の傍系で、いわば本家がハデス家で、分家がキュベール家であろうか。領も隣同士で、ハデス家の傍系は他にも男爵位含めいくつか存在する。歴史のある立派な侯爵家だ。
 招待状はゼストに届いていて、婚約者を連れて行くというと二つ返事で了承された。
 そして、今回の「イチャイチャデートでエヴァを男慣れ(ゼスト慣れ)させよう作戦」に使わせてもらう事になったのだった。

 夜会会場は侯爵家の大広間で行われていて、王城ほどではないがなかなかの盛況ぶりである。

 ゼストは宣言通り、一度もエヴァを離さなかった。
 手を繋ぐのも恋人繋ぎだし、手を繋いでいないときも腰に手が回されていて、変に意識してしまう。
 エヴァがお手洗いの時も付いてきて廊下で待っているし、他の男性と話そうものなら(ウェイターが飲み物を振舞っていたのを貰おうとしただけ)彼が前に出てきて、話しもさせて貰えない。
 まるで、何かから守るようにずうーーっとエヴァに張り付いているのである。エヴァはもしかして、自分は誰かに命を狙われているのかと危惧しそうになる。

 主催のハデス侯爵が現れると会場の音楽が止んで、彼の挨拶が始まる。
 招待された貴族たちは彼を注視して、会話を一時停止させる。
 ハデス侯爵は現国王の弟君で、ハデス侯爵家に婿入りした元王族だ。昔はかなり女泣かせだったと聞いた事がある。40を過ぎて、エヴァの父と同じくらいなのに、30代にしか見えない美貌の紳士だった。叔父だけあってどことなくジョージ王太子に似ている。
 挨拶が終わるとハデス侯爵夫妻は招待客からの挨拶を受けていた。エヴァとゼストもそこに行こうと人垣の近くにいた時、後ろからエヴァに声を掛けられた。
 女性の声はなんとナンシー王太子妃だった。
 ナンシーはジョージ王太子と共に王太子の叔父のハデス侯爵の夜会に出席していたのだ。二人はお揃いの白の衣装に、それぞれの髪と瞳の色を入れた装いでいかにも熱々夫婦の出で立ちだ。
「こんなところで会えるなんて思ってもいなかったわ!エヴァ、お久しぶり!」
「ああっナンシー様!お久しゅうございます。お元気でしたか?」
「ええ。貴女こそ、お元気でいらした?ごめんなさいね。なかなか時間が取れなくて、お茶に招くと言っていながら、まだ招待できてなくて」
 ナンシーは久しぶりに会えたエヴァの肩に抱き着きながら、会えた嬉しさに頬を緩ませて言った。
「いいえ。お忙しいのは聞き及んでおります。偶然でもこの夜会で会えて嬉しいですわ!」
 二人は再会の抱擁をしていると、お互いのパートナーの事を思い出して、それぞれ自己紹介をした。
 男達はそれぞれ関心がなかったようだが、王太子はエヴァに感謝の念があるらしく、ニコニコと受け答えをしていた。彼はエヴァのお陰でナンシーと仲直りできたと知っているのだ。
 その王太子の視線にエヴァの腰に添えるゼストの手に力がこもっていた。

 王太子夫妻が会場にいることが知れてしまい、人垣がこちらにもできてきた。エヴァは長話はできないなと思い、再会を約束して一度話を終えた。
 それからハデス侯爵夫妻にも挨拶をしてから、ゼストが誘うので、一曲ダンスを踊った。
 淑女教育の一環でダンスは習っていたが全然下手糞なエヴァは、ゼストの力強いリードのお陰でなんとか踊りきった。会場の端で息を整えていると、ゼストは飲みやすい果実水を持ってきてくれた。
「ごめんねエヴァ。どうしても一度君とダンスが踊りたくてさ。辛くないかな?」
「…は、はい…有難うございます。ゼスト様のリードが完璧だったので踊れましたわ」
 受け取った果実水を飲んで落ち着こうとしていると、ゼストはニコリと笑ってエヴァに顔を寄せてきた。
「息を荒くしている君も色っぽくて素敵だ」
「…!!」
 ひぃぃぃ!!
 顔に血が集まるのを感じて、エヴァはプルプルと震えた。
 こ…こういう時はBLに変換して…
 ちゅっ
 寄せた顔がもっと近づいて、ゼストの熱い吐息がエヴァの頬にかかると同時に頬に口づけられる。
 少し遠くにいる令嬢達のキャーっという押さえた悲鳴が聞こえてきたが、エヴァはそれどころではない。
 限界が来てしまい。逃げるようにエヴァはその場から離れてしまう。
「エヴァッ…?」
「お化粧直しに行って参りますわっ!」
 ゼスト様が追ってくる気配があるが、頼むからちょっと落ち着かせて下さい。本当に公衆の面前で失禁しそうだったのだから。
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