言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー

三坂しほ

文字の大きさ
299 / 357
わくたかむの社

しおりを挟む


「なんというか、体良く雑用係に任命された感じだよね」


聖仁さんのその一言にみんなのため息が重なる。

神社実習が始まって一週間。まだまだ始まったばかりなのに、私たちの作業場として与えられた会議室にはやる気のないため息で溢れていた。


「福豆詰める作業の方がマシだな」


け、と顔を歪める亀世さん。

3年生の中では頭脳担当で、体を動かすことはそこまで好きじゃない亀世でさえこの様子だ。


「任務ですよ、これ」


恵衣くんが書類に目を落としながら苦い顔をする。

私や泰紀くんが同じ発言をしたら、間違いなく「馬鹿なのか? 任務なんだから黙ってやれよ」だったと思う。

それにしても、任務とはいえ1日8時間近くこの会議室に閉じ込められ書類との睨めっこを強いられると、さすがに参ってしまう。

文字を追いかける作業は目が疲れるし睡魔との戦いだし、亀世さんの言う通り手を動かす福豆の梱包作業の方がまだマシな気がする。


「聖仁さぁん……さっきから同じ行ばっか読んじまう……もう頭がおかしくなりそうだ助けてくれ……」


私たちの中では一番肉体派な泰紀くんがしおしおした顔で嘆く。


「頑張れ泰紀。あと三十分すれば昼休憩だから」


動いてねぇから腹も減らねぇよ、と泣き言を漏らす。

全くもってその通りだ。


『この二か月間を通して君たちに任せたい仕事がある。それがこれだ』


神社実習二日目、初日は奉仕奉告祭だけで一日が終わったので本格的な奉仕は今日からだ。朝拝が終わり、私達は社務所の会議室に呼ばれた。

実習の間私たちの面倒を見てくれるらしい禰宜頭が、両手に抱えきれないほどの大量の書類やらファイルをテーブルの上にバサバサと置いた。

私達はお互いに顔を見合せ、恐る恐る自分の前にある書類に手を伸ばす。

「平成××年関東地方行方不明事件一覧」「東京都方行方不明者名簿20××年」「20××年神隠し被害者一覧」

そんな書き出しのファイルや書類に眉根を寄せる。

行方不明に神隠し、物騒な言葉が並んでいる。


現世うつしよで行方不明事件が発生しているのは知っているな】

『はい。でも本庁はそれどころじゃなくて捜査に乗り出せていないんですよね』


聖仁さんの言葉にその通りだ、と禰宜頭が苦々しい顔で頷く。

本庁は今内通者の発覚や幽世で起きた戦の事後処理、黒狐こっこ族の調査でてんやわんやなのだと聞いている。


『そこで、本庁からわくたかむの社に関東地区から中部地方にかけての神隠し事件を調査するよう依頼があった。君たちにはその調査チームの手伝いをしてもらいたい』


神隠し事件の調査。

何か任務を任せてもらえればとぼんやり考えていたけれど、まさかの任命に胸が騒ぐ。


『君たちには過去の神隠し事件を洗い出して、関連しそうなものを私たちに報告して欲しい』


禰宜頭は資料の山に視線を落とした。

過去の事件を洗い出すって、まさかこの大量の資料の山に全部目を通せってこと?


『他にも頼むかもしれないが、当面はこれだけに集中してくれ。分からないことは権宮司を捕まえて聞くといい。それじゃあよろしく頼む』


パタンとしまった扉。資料の山と皆の顔を見比べる。

そうしてこの地獄のような洗い出し作業が開始したというわけだ。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神戸・栄町 困り顔店主の謎解き紅茶専門店

hana*
キャラ文芸
レトロな建物が立ち並ぶ、神戸・栄町。 カフェ激戦区とも呼ばれるこの町の、とあるビルの2階でひっそりと営業している紅茶専門店には、長身でイケメンでいつもにこやかで誰にでも親切、なのになぜかいつもトラブルを招き寄せるという困った体質の店主がいる。 店に訪れるのは、婚約破棄された会社員、紅茶嫌いのカップル、不穏な女子大生のグループ……。 困り顔店主が、お客さんのお悩みを紅茶の香りとともにほわっと解決!?

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

私の守護霊さん『ラクロス編』

Masa&G
キャラ文芸
本作は、本編『私の守護霊さん』の番外編です。 本編では描ききれなかった「ラクロス編」を、単独でも読める形でお届けします。番外編だけでも内容はわかりますが、本編を先に読んでいただくと、より物語に入り込みやすくなると思います。 「絶対にレギュラーを取って、東京代表に行きたい――」 そんな想いを胸に、宮司彩音は日々ラクロスの練習に明け暮れている。 同じポジションには、絶対的エースアタッカー・梶原真夏。埋まらない実力差に折れそうになる彩音のそばには、今日も無言の相棒・守護霊さんがいた。 守護霊さんの全力バックアップのもと、彩音の“レギュラー奪取&東京代表への挑戦”が始まる──。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。 こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?! 私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。 バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。 その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。 鬼が現れ戦う羽目に。 事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの? この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。 鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます! 一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。 はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

現代巫女奇譚

上蓑せつな
キャラ文芸
久しぶりに見たイトコオジは、最後に会った日と何も変わらないようだった。 中学生最後の年。急に倒れてしまった芹沢芹奈の前に、十年前に行方をくらましたイトコオジの芹沢拓海が現れた。見覚えのあるウルフカット、パーカーの上からジャケットを重ね着した姿。三十歳近いのにまるで高校生のような格好をしている彼は、勤め先の学校に芹奈を入学させるように勧めるのだった。 中学校の卒業式に拓海は約束通り迎えに来た。またつまらない日々が始まる。そう思っていた芹奈の高校生活は少しずつ変わっていき、やがて自身にあった力と過去を受け入れていく。

処理中です...