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わくたかむの社
肆
しおりを挟む「なんというか、体良く雑用係に任命された感じだよね」
聖仁さんのその一言にみんなのため息が重なる。
神社実習が始まって一週間。まだまだ始まったばかりなのに、私たちの作業場として与えられた会議室にはやる気のないため息で溢れていた。
「福豆詰める作業の方がマシだな」
け、と顔を歪める亀世さん。
3年生の中では頭脳担当で、体を動かすことはそこまで好きじゃない亀世でさえこの様子だ。
「任務ですよ、これ」
恵衣くんが書類に目を落としながら苦い顔をする。
私や泰紀くんが同じ発言をしたら、間違いなく「馬鹿なのか? 任務なんだから黙ってやれよ」だったと思う。
それにしても、任務とはいえ1日8時間近くこの会議室に閉じ込められ書類との睨めっこを強いられると、さすがに参ってしまう。
文字を追いかける作業は目が疲れるし睡魔との戦いだし、亀世さんの言う通り手を動かす福豆の梱包作業の方がまだマシな気がする。
「聖仁さぁん……さっきから同じ行ばっか読んじまう……もう頭がおかしくなりそうだ助けてくれ……」
私たちの中では一番肉体派な泰紀くんがしおしおした顔で嘆く。
「頑張れ泰紀。あと三十分すれば昼休憩だから」
動いてねぇから腹も減らねぇよ、と泣き言を漏らす。
全くもってその通りだ。
『この二か月間を通して君たちに任せたい仕事がある。それがこれだ』
神社実習二日目、初日は奉仕奉告祭だけで一日が終わったので本格的な奉仕は今日からだ。朝拝が終わり、私達は社務所の会議室に呼ばれた。
実習の間私たちの面倒を見てくれるらしい禰宜頭が、両手に抱えきれないほどの大量の書類やらファイルをテーブルの上にバサバサと置いた。
私達はお互いに顔を見合せ、恐る恐る自分の前にある書類に手を伸ばす。
「平成××年関東地方行方不明事件一覧」「東京都方行方不明者名簿20××年」「20××年神隠し被害者一覧」
そんな書き出しのファイルや書類に眉根を寄せる。
行方不明に神隠し、物騒な言葉が並んでいる。
『現世で行方不明事件が発生しているのは知っているな】
『はい。でも本庁はそれどころじゃなくて捜査に乗り出せていないんですよね』
聖仁さんの言葉にその通りだ、と禰宜頭が苦々しい顔で頷く。
本庁は今内通者の発覚や幽世で起きた戦の事後処理、黒狐族の調査でてんやわんやなのだと聞いている。
『そこで、本庁からわくたかむの社に関東地区から中部地方にかけての神隠し事件を調査するよう依頼があった。君たちにはその調査チームの手伝いをしてもらいたい』
神隠し事件の調査。
何か任務を任せてもらえればとぼんやり考えていたけれど、まさかの任命に胸が騒ぐ。
『君たちには過去の神隠し事件を洗い出して、関連しそうなものを私たちに報告して欲しい』
禰宜頭は資料の山に視線を落とした。
過去の事件を洗い出すって、まさかこの大量の資料の山に全部目を通せってこと?
『他にも頼むかもしれないが、当面はこれだけに集中してくれ。分からないことは権宮司を捕まえて聞くといい。それじゃあよろしく頼む』
パタンとしまった扉。資料の山と皆の顔を見比べる。
そうしてこの地獄のような洗い出し作業が開始したというわけだ。
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