言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー

三坂しほ

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不穏

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「午後の授業が、全部休講?」


昼休み、食堂でご飯を食べたあと外は雨が降っていたので教室で雑談していると、日直の仕事で職員室に呼ばれていた鬼市くんがそんな情報を持ち帰ってきた。

返却されたノートを配りながら鬼市くんが「ああ」と頷く。


「急だね。職員会議とか?」

「いや、俺たちのクラスだけだ。午後の授業って漢方薬学と呪法だろ。科目担当の先生、二人とも赤狐せきこ族だから」


途端、表情を険しくしたのは信乃くんと瓏だった。

赤狐族だから休講になるって、一体どういうこと?


「何だよ、仲良く揃って里帰りかぁ?」

「……ある意味そうやろな。里帰りつーより、緊急招集の方やろうけど」


緊急招集?とみんなが首を傾げる。

信乃くんは神妙な顔で続けた。


「先週頃から黒狐族と一悶着ありそうやってきな臭い噂は耳小耳に挟んどったんや。俺んとこの信田妻しのだづま族にも赤狐族から応援要請が来てたからな。おそらく、赤狐族の里で戦が始まったんやろ」


戦、という言葉があまりにも馴染みがなく皆は一瞬反応に遅れた。そして「い、戦ァ!?」と素っ頓狂な声を上げる。


「まぁお前らには聞き馴染みないやろうけど、幽世じゃしょっちゅうある話や。領地拡大だの勢力誇示だの。妖は血の気が多いからな」

「戦の相手、黒狐こっこ族。昔から、戦好き」

「そうそう。こいつのこと攫った一族な」


ボブボブと頭を叩かれた瓏くんは少し迷惑そうにでもどこか嬉しそうな顔でその手を払い除ける。

「騒がしくなりそやな」と目を細めた信乃くんに、私も妙な胸騒ぎを感じて目を伏せる。

八瀬童子族の里で知り合った子供たちの顔が脳裏を過ぎる。戦のせいで親を失った子供たちだ。またあんな子供たちが増えるんだろうか、と思うと胸が痛い。

窓の外はシトシトと嫌な雨が降り続いていた。


「とにかく午後は休みになったわけやし、寮の広間で茶でもしばくか」

「そうだな。俺らがここで論じたところでなんにも変わらないし」

「要請があれば、動くだけ」


そんな感じでいいのかぁ?と泰紀くんが頬をかく。

私も最初はそう思ったけれど、確かに鬼市くんたちの言う通りだ。私たちがここで色々案じたところで何かが変わる訳でもない。

今自分が出来ることをやるだけだ。


「みんな午後どうする?」


来光くんの問いかけにみんなは腕を組む。

部活が始まるまであと三時間はあるし、割となんでも出来そうだ。


「俺は筋トレでもしようかなぁ」

「俺は課題進めるよ。古典ちょっとやばいし」

「あ、嘉正。だったら僕も一緒にいい? 分かんないとこあるんだよね」

「俺と瓏は信田妻の里に戻るわ。赤狐族が今どんな感じなんか、親父から聞いときたいし」


次々と予定を決めて行くみんなに、私はどうしようと首を捻る。そうだ、と手を打った。


「私は八瀬童子の里に行こうかな」


丁度療養所の先生から、私が作った祝詞について聞きたいことがあると連絡があったところだ。三時間もあれば問題なく行って戻ってこられるだろう。


「悪い巫寿。俺この後河太郎先生に日直の仕事頼まれてるから、違う日でもいいか」


鬼市くんが申し訳なさそうに手を合わせた。


「行き方は覚えたし一人でも大丈夫だよ?」

「また変なやつに声かけられたらどうするんだ。それに赤狐の里で開戦したなら鬼脈も騒がしいだろうし」


ちょっと心配しすぎな気もするけれど、確かに用心はした方がいいのかもしれない。

じゃあやっぱり鬼市くんが一緒に行ける時を待った方がいいのか、そう思って「分かった」口を開きかけたその時。

自分の席で静かに本を読んでいた恵衣くんが大きなため息をついて本を閉じた。顔を向けると目が合う。


「────仕方ないから俺が、」

「あ、だったら俺付き合おっか?」


恵衣くんの言葉を遮って、そう手を挙げたのは慶賀くんだった。


「どうせ暇だし、俺も里の子供らともまた遊ぶ約束してっから全然付き合うぜ」

「ああ慶賀、助かる。"お前になら"任せられる」


笑みを浮かべて慶賀くんの肩を叩いた鬼市くんは、半分腰を浮かせた恵衣くんにその笑顔を向けた。


「どうした、恵衣?」


その瞬間、間違いなく何かがブチッとちぎれるような音がした。思わずゴクリと唾を飲む。

恵衣くんの周りだけが吹雪いているように見えるのは私だけだろうか。

いつもよりも3倍増しの不機嫌オーラを放つ恵衣くんは眉を釣りあげて鬼市くんを睨むと大股で教室を出ていってしまった。


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