言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー

三坂しほ

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三学期

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三学期といえば神社実習だ。

約二ヶ月間実際のお社でほかの神職さまに交じって神職としての活動を行う実習で、一年の時は志らくさんがいるまなびの社で奉仕した。


「今年の実習先はどこなんだろうな」

「僕今度もまなびの社がいいなぁ」

「まなびの社は当たりだったよね」


三学期が始まり、部活動が終わったあとから門限までの時間にみんなで集まり、冬休みに教えてもらったことを練習する自主練時間を設けるのが私たちのルーティーンになった。

今日も屋内演習場で自習練に励む私たちは、用意した模擬戦用からくり人形タロちゃん────顔がくいだおれ太郎に似ているので誰かがそう呼び始めた────と対峙しながら雑談する。


「多くは望まねぇから、せめてゲーセン近くにあるといいな~」

「映画館もあって欲しい。あとコンビニ」


まなびの社は郊外だったけれどバスや自転車を利用すれば直ぐに街にでることができ、奉仕終わりはよく皆で遊びに出かけた。

寮ぐらしで自由に外に出ることができない私たちは娯楽に飢えている。こういう機会がないと気軽に遊びに出掛けられないので、実習先が市街地か郊外かはかなり重要なポイントだ。


「いつ発表されるんだろうね」


なんて言いながらタロちゃんと向き合った────が、設置したはずのタロちゃんが忽然と姿を消しており「え?」と声を上げた。



次の瞬間、後ろ襟を何かに掴まれて両足が地面から離れた。親猫に運ばれる子猫のようにプランと宙にぶら下がる。

何とか首を捻って確認すると私の襟首を掴んでいたのはタロちゃんだ。生気のない真っ黒な瞳がじっと私を見つめており何だかちょっと不気味だった。


「今の数秒で全員的に背後を取られた実践なら間違いなくもう死んでいるぞ」


句読点が抜けた独特な早口が入口から聞こえてみんなが振り返る。


「嬉々先生!」


腕を組み、不揃いの前髪の間から私たちを睨むのは呪法の教科担任である玉富嬉々先生だ。


「えっ、今日って嬉々先生なんですか」

「なんだ松山来光不満があるならはっきり言え」

「ないですないです、すみませんッ!」


顔を引きつらせて部分と両手を振る来光くんに皆はぷぷぷとこっそり笑う。

本庁や神修、まねきの社に勤務しているかむくらの神職さまたちは、手が空いていればこの時間に稽古をつけてくれることもある。

どうやら今日は嬉々先生が見てくれるらしい。

直ぐに真面目モードに切り替えたみんなは各々の持ち場について自主練を再開する。


冬休みの間の特別稽古でも嬉々先生は私たちに呪いに関するありとあらゆる知識を教えてくれた。相変わらず嬉々先生は何を考えているのか分からず怖いけれど、特別稽古を経て皆かなり嬉々先生に対する苦手意識が薄れたようで、今では気軽に質問するようになっている。

それは私も同じなのだけれど、今は別の少し困った問題を抱えている。

それは何かと言うと……。


「おい椎名巫寿いつまでぶらさがっている気だ自分で降りられるだろ」


歩み寄ってくる嬉々先生と目が合いそうになり不自然なほど勢いよくぐりんと顔を背けた。


「貴様どういうつもりだ何か隠しているのか」


嬉々先生は私の頬を掴み自分の方へ向けさせる。目が合うなりギュッと眉根を寄せて私を睨む。


「なんだその気の抜けた顔は」


にやけそうになる頬を必死に叩き気持ちを引き締める。


余計なことを考えちゃ駄目。自主練に集中しなきゃ。

絶対に、嬉々先生がクマちゃん柄のパジャマを着ている姿なんて想像しちゃ駄目……!


堪えきれずに「んふっ」と小さく笑い声を漏らす。嬉々先生がとんでもなく恐ろしい顔で私のことを睨んでいるけれどそれもポーズにしか見えない。


やっぱ無理だよこんなの! 恨みますよ奏楽そうらく先生!


「椎名巫寿、罰則一ヶ────」

「す、すみません! 集中します!」


危うく罰則を食らいそうになりタロちゃんの手から飛び降りて演習場の真ん中へ駆け出した。


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