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第六話 魔物が残したもの
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「それじゃあ、パーティ機能を試してみる。さっき話した通り、俺にもよく分かっていないんだ。だが、いろいろ便利になるはずだ」
「うん、試してみよう!」
フィリアは興味津々といった様子で頷く。エリスも「まあ、損はなさそうだしね」と肩をすくめた。
機能の使い方はなんとなく分かる。特別な事は必要ないはずだ。
「よし、二人は俺とパーティを組んでくれるか?」
「いいよ!」
「はい」
瞬間、二人と何かが繋がったような気がした。しかし、それは一瞬のことで、すぐに消え去った。
「……もしかして終わった?」
フィリアが首を傾げる。エリスも首をひねっている。
「まあ、今のところ何も起こらないな。戦闘を経験したら変わるかもしれない」
俺は適当にごまかしつつ、新たに見えるようになった情報を確認した。
(……これは?)
視界の端に、PTメンバーの情報が表示されている。
――――――――――
名前:ガルドリック
年齢:15歳(23歳)
職業:勇者
レベル:2
HP: 3780
MP:1610
耐久:183
筋力:195
敏捷:120
知力: 166
魔力:265
幸運:10
スキル:「勇者の適応」
名前:フィリア
年齢:17歳
職業:賢者
レベル:1
HP:60
MP:150
耐久:8
筋力:8
敏捷:13
知力:30
魔力:30
幸運:65
名前:エリス
年齢:19歳
職業:弓士
レベル:1
HP:80
MP:30
耐久:12
筋力:10
敏捷:21
知力:15
魔力:10
幸運:16
スキル:〈精密射撃〉
――――――――――
(弓士はわかるが……賢者?)
俺は思わずフィリアの方をちらりと見る。彼女はにこにこと笑っているが、本人は魔法使い志望のはずなのに「賢者」とはどういうことだろうか。
(学者や指導者のことか?魔法使いではないのか……。いや、エリスがギルド員ではなく弓士になっているのだから、賢者も戦闘スタイルのことなのかもしれない)
その疑問を口に出そうとしたが、何も言えなかった。フィリアが憧れていたのは「魔法使い」だ。もし「魔法使いじゃないぞ」なんて指摘してしまったら、彼女を傷つけることになるかもしれない。
俺と比べて随分数値が小さいのも気になる。俺が勇者になったからだろうか?それにフィリアの知力がエリスの倍というのは……いや、考えないでいよう。これはきっと何か違うものなんだ。
エリスにスキルというのがあるが、俺の「勇者の適応」と似たような物か?フィリアにはスキルも無いんだな。
それと、なぜ二人とも微妙にサバを読んでるんだ。お前らまだ10代だろ。
「まあ、問題なさそうならいいか」
俺はそれ以上は追及せず、PT機能の確認を終えた。
「なんだかよくわからないけど、成功しているの?」
エリスが肩をすくめる。
「これで、強くなってるのかな?」
フィリアも特に変化は無いようだ。
「……多分な。ともかく、依頼の確認をしよう」
俺は話題を切り替えることにした。
馬車の揺れに身を任せながら、俺たちは魔物について改めて確認する。
エリスが手元の紙を軽く叩き、視線を上げた。
「じゃあ、もう一度確認するわよ」
彼女が真剣な口調で話し始めると、俺もフィリアも自然と姿勢を正した。
「この魔物に正式な名前はないけど、目撃証言を元に『黒鬼』と仮称されているわ。体高はおよそ二メートル強、全身が黒く、特徴的なのは目が一つしかないこと。手足は長く、人型の魔物ね」
俺は頷きながら、その姿を頭に思い描く。人間に近い形状をしているって事はオーガの亜種だろうか?『黒鬼』と名付けられているんだから、おそらく見た目はそれに近いということなんだろう。
「戦闘能力は?」
「報告では、単純な力ならトロール並み。ただし、動きはそれより速いみたい。特に目的があるようには見えないのに、物を壊したり奪ったりする傾向があるの。人間を襲うけど何故か殺さないという点も特徴的ね」
フィリアが首を傾げながら口を開く。
「人を殺さないってことは、悪い魔物じゃないのかも?普通、魔物はみんな人間を狙うよね」
「殺そうとしないだけで見つかれば襲われるわよ、油断しないで。魔物は通常、狩りの本能で動くはず。でも、この魔物は物を壊して荒らすことが主目的みたい。ただの暴れ回る野生動物にしては、行動が統一されすぎている気もするわ」
俺も違和感を覚えたが、ここで考えすぎても仕方ない。
「魔物の生態まで考える必要はないだろう。俺たちはその黒鬼を討伐すればいいはずだ」
「ええ、討伐依頼の達成条件は討伐のみ。可能なら遺骸を持ち帰るように、って指示もあるけど……」
「了解した。だが、損傷を気にしながら戦える相手じゃ無さそうだ」
「そうね。ただ、目撃証言が増えてる以上、何かしらの手がかりは残るはずよ」
エリスの言葉にフィリアも頷く。
「……なんだかよくわかんないけど、頑張るよ!」
「おう。しっかりな」
俺は軽く笑って、フィリアの頭をぽんと叩いた。
◇◆◇◆◇
暫く進んだところで馬車の御者が手綱を引き、ゆっくりと速度を落とした。
「旦那がた、どうもアレのようですよ」
御者が顎で示した先には、道の脇に横倒しになった馬車の残骸があった。
木枠がひしゃげ、車輪が外れたその姿は、明らかに襲撃の痕跡を残している。
「荒らされてるわね……」
エリスが冷静に状況を見定める。倒れた馬車の周囲には荷物が散乱しており、皮袋や木箱が破られ、中身が無造作に放り出されていた。
「何もいない?」
フィリアが不安そうに周囲を見回した。
通常、襲われた痕跡がこれほど顕著ならば、犠牲者が出ているはずだ。しかし、それらしき跡は見当たらない。目標の痕跡で間違い無さそうだ。
俺たちは慎重に馬車へと近づいた。
「……ッ!」
その時、馬車の向こう側から素早い影が飛び出した。
緑色の肌、ひょろりとした体躯、鋭い耳――ゴブリンだ。
奴らは元々集団で行動することが多く、単体ではそれほどの脅威にはならない。残された物資に釣られて漁りに来たか。
「三匹か……」
エリスが冷静に数を数える。ゴブリンたちはこちらに気づくと、一斉に奇声を上げ、手にした棍棒や石を振りかざした。
「まずは、君たちの実力を見させてもらう。俺は守りに徹する」
俺はそう告げ、盾を構え前に出る。
ゴブリンたちが投石を始めるが、当然後ろに逸らすようなことはしない。
反対にエリスが静かに弓を引き絞る。しかし、すぐには放たない。じっくりと間合いを計っている。
「フィリア、魔法を使えそうか?」
「う、うん……! やってみる!」
フィリアは気合を入れ、杖を握りしめる。
「……ファイアボール!」
彼女が唱える。しかし、何も起こらない。
「うーん、おかしいな」
首を傾げるフィリア。彼女は再び杖を握りしめ、もう一度呪文を唱える。
「ファイアボール……!」
だが、それでも魔法は発動しない。
「もう…」
エリスがその様子を見て、ふっと薄く笑った。
そして、悠然と狙いを定め、ひゅん、と放つ。
矢は一直線に飛び、投石の準備をしていたゴブリンの額に突き刺さる。
ゴブリンは短い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。
◇◆◇◆◇
結局フィリアの魔法は発動せず、俺の盾に阻まれたゴブリン達はエリスの弓で術で排除された。
「おかしいなぁ、これで発動する気がするんだけど」
「気がするだけなのかよ」
「魔法が使いたいのは分かるけど、そんなので街の外に出てるなんて……」
エリスが頭に手をやり、頭痛を堪える様子を見せた時だった。
体の奥から何かが込み上げてくる感覚。
それは以前にも経験したことがある。身体の奥から熱が湧き上がり、力が増していくような感覚。それと同時に、視界の片隅に浮かび上がる文字。
『レベルアップしました』
俺だけに見えているはずの表示が、また浮かんでいた。
「……あれ?」
フィリアが首をかしげる。
「なんか、急に力が湧いてくるような……不思議な感じがするんだけど」
「私も……。ちょっと体が軽くなったような……」
エリスも同じく、戸惑った様子で拳を握りしめていた。
俺はこっそりと画面を確認する。
――――――――――
名前:ガルドリック
年齢:15歳(23歳)
職業:勇者
レベル:2 → 3
HP: 3780 → 3960
MP:1610 → 1620
耐久:183 → 213
筋力:195 → 217
敏捷:120 → 135
知力:166 → 177
魔力:265 → 270
幸運:10
スキル:「勇者の適応」
名前:フィリア
年齢:17歳
職業:賢者
レベル:1 → 2
HP:60 → 120
MP:150 → 300
耐久:8 → 16
筋力:8 → 16
敏捷:13 → 26
知力:30 → 60
魔力:30 → 60
幸運:65
スキル習得:「ファイアボール」「ブレスヒール」
名前:エリス
年齢:19歳
職業:弓士
レベル:1 → 2
HP:80 → 160
MP:30 → 60
耐久:12 → 24
筋力:10 → 20
敏捷:21 → 42
知力:15 → 30
魔力:10 → 20
幸運:16
スキル:〈精密射撃〉
――――――――――
やはり、二人ともレベルが上がったらしい。
そして、フィリアにスキル取得という記述が加わっていた。
一つはさっき使おうとしていた魔法か。もう一つは回復魔法、神官の扱う術だ。魔術師と神官の魔法って両方扱える物だったんだな。
なんにしろ、フィリアが魔法を使える様でよかった。
先程は魔法を使おうとしても発動しなかった。しかし、今なら使えるかもしれない。どう伝えた物か。
「二人とも、これがパーティ機能だ。パーティを組んで戦闘を経験する事で成長が加速する」
「えっと、どういうこと?」
「二人はこれまで以上の力を手に入れたはず――」
俺が言いかけたその時だった。
ガサリ、と森の奥から草木が揺れる音がした。次いで、ズシン……ズシン……と地響きのような足音。
振り返った俺の視線の先、木々の隙間から真っ黒な巨体が現れた。
情報よりも巨大な体躯。全身が煤けたような黒に包まれ、異様な一つ目がぎょろりと動く。
「向こうから来てくれたか」
目標の魔物だ。
こいつがこの馬車を襲った張本人。俺たちの討伐対象。
「来るぞッ!」
俺が叫ぶと同時に、巨体が一直線にこちらへと駆け出してきた。
即座に剣を抜き盾を構えた。さっきのゴブリンとは比べ物にならない威圧感。レベルアップした二人の力を試したいが、まずは俺が動く。
魔物が腕を振り上げた。真正面から受け止めるつもりで盾を突き出し、衝撃を足で受け流す。思ったより重くはない。確かに強いが、十分に状況をコントロール出来ると判断した。
「エリス、フィリア。攻撃しろ!」
背後で弦を引く音がし、次の瞬間、魔物の肩口に矢が深々と突き刺さった。エリスの精度は見事なものだ。魔物は苦痛の声を上げるが、倒れない。
「フィリア!もう一度魔法を試すんだ!」
「で、でも……。いや!今度こそ!」
フィリアが杖を掲げ、呪文を唱える。先ほど不発だった魔法だが、今度は赤い光が彼女の杖の先に集まり——
「ファイアボール!」
杖から放たれた火球が魔物の胸に命中した。爆発と共に黒い肌が焼け焦げ、魔物は苦悶の叫びをあげる。
「トドメは俺がやる!」
一気に踏み込む。魔物の動きは鈍っている。振り下ろされた腕を盾で弾き、剣を突き立てた。
魔物が大きくのけ反り断末魔を上げる。俺が剣を引き抜くと、黒い巨体は煙となって消えていく。
「消えた!?」
フィリアが驚きの声を上げる。だが、その場にはひとつの物が残されていた。
「これは?」
何かが刻まれた魔石。それだけが魔物の残した物だった。
「うん、試してみよう!」
フィリアは興味津々といった様子で頷く。エリスも「まあ、損はなさそうだしね」と肩をすくめた。
機能の使い方はなんとなく分かる。特別な事は必要ないはずだ。
「よし、二人は俺とパーティを組んでくれるか?」
「いいよ!」
「はい」
瞬間、二人と何かが繋がったような気がした。しかし、それは一瞬のことで、すぐに消え去った。
「……もしかして終わった?」
フィリアが首を傾げる。エリスも首をひねっている。
「まあ、今のところ何も起こらないな。戦闘を経験したら変わるかもしれない」
俺は適当にごまかしつつ、新たに見えるようになった情報を確認した。
(……これは?)
視界の端に、PTメンバーの情報が表示されている。
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名前:ガルドリック
年齢:15歳(23歳)
職業:勇者
レベル:2
HP: 3780
MP:1610
耐久:183
筋力:195
敏捷:120
知力: 166
魔力:265
幸運:10
スキル:「勇者の適応」
名前:フィリア
年齢:17歳
職業:賢者
レベル:1
HP:60
MP:150
耐久:8
筋力:8
敏捷:13
知力:30
魔力:30
幸運:65
名前:エリス
年齢:19歳
職業:弓士
レベル:1
HP:80
MP:30
耐久:12
筋力:10
敏捷:21
知力:15
魔力:10
幸運:16
スキル:〈精密射撃〉
――――――――――
(弓士はわかるが……賢者?)
俺は思わずフィリアの方をちらりと見る。彼女はにこにこと笑っているが、本人は魔法使い志望のはずなのに「賢者」とはどういうことだろうか。
(学者や指導者のことか?魔法使いではないのか……。いや、エリスがギルド員ではなく弓士になっているのだから、賢者も戦闘スタイルのことなのかもしれない)
その疑問を口に出そうとしたが、何も言えなかった。フィリアが憧れていたのは「魔法使い」だ。もし「魔法使いじゃないぞ」なんて指摘してしまったら、彼女を傷つけることになるかもしれない。
俺と比べて随分数値が小さいのも気になる。俺が勇者になったからだろうか?それにフィリアの知力がエリスの倍というのは……いや、考えないでいよう。これはきっと何か違うものなんだ。
エリスにスキルというのがあるが、俺の「勇者の適応」と似たような物か?フィリアにはスキルも無いんだな。
それと、なぜ二人とも微妙にサバを読んでるんだ。お前らまだ10代だろ。
「まあ、問題なさそうならいいか」
俺はそれ以上は追及せず、PT機能の確認を終えた。
「なんだかよくわからないけど、成功しているの?」
エリスが肩をすくめる。
「これで、強くなってるのかな?」
フィリアも特に変化は無いようだ。
「……多分な。ともかく、依頼の確認をしよう」
俺は話題を切り替えることにした。
馬車の揺れに身を任せながら、俺たちは魔物について改めて確認する。
エリスが手元の紙を軽く叩き、視線を上げた。
「じゃあ、もう一度確認するわよ」
彼女が真剣な口調で話し始めると、俺もフィリアも自然と姿勢を正した。
「この魔物に正式な名前はないけど、目撃証言を元に『黒鬼』と仮称されているわ。体高はおよそ二メートル強、全身が黒く、特徴的なのは目が一つしかないこと。手足は長く、人型の魔物ね」
俺は頷きながら、その姿を頭に思い描く。人間に近い形状をしているって事はオーガの亜種だろうか?『黒鬼』と名付けられているんだから、おそらく見た目はそれに近いということなんだろう。
「戦闘能力は?」
「報告では、単純な力ならトロール並み。ただし、動きはそれより速いみたい。特に目的があるようには見えないのに、物を壊したり奪ったりする傾向があるの。人間を襲うけど何故か殺さないという点も特徴的ね」
フィリアが首を傾げながら口を開く。
「人を殺さないってことは、悪い魔物じゃないのかも?普通、魔物はみんな人間を狙うよね」
「殺そうとしないだけで見つかれば襲われるわよ、油断しないで。魔物は通常、狩りの本能で動くはず。でも、この魔物は物を壊して荒らすことが主目的みたい。ただの暴れ回る野生動物にしては、行動が統一されすぎている気もするわ」
俺も違和感を覚えたが、ここで考えすぎても仕方ない。
「魔物の生態まで考える必要はないだろう。俺たちはその黒鬼を討伐すればいいはずだ」
「ええ、討伐依頼の達成条件は討伐のみ。可能なら遺骸を持ち帰るように、って指示もあるけど……」
「了解した。だが、損傷を気にしながら戦える相手じゃ無さそうだ」
「そうね。ただ、目撃証言が増えてる以上、何かしらの手がかりは残るはずよ」
エリスの言葉にフィリアも頷く。
「……なんだかよくわかんないけど、頑張るよ!」
「おう。しっかりな」
俺は軽く笑って、フィリアの頭をぽんと叩いた。
◇◆◇◆◇
暫く進んだところで馬車の御者が手綱を引き、ゆっくりと速度を落とした。
「旦那がた、どうもアレのようですよ」
御者が顎で示した先には、道の脇に横倒しになった馬車の残骸があった。
木枠がひしゃげ、車輪が外れたその姿は、明らかに襲撃の痕跡を残している。
「荒らされてるわね……」
エリスが冷静に状況を見定める。倒れた馬車の周囲には荷物が散乱しており、皮袋や木箱が破られ、中身が無造作に放り出されていた。
「何もいない?」
フィリアが不安そうに周囲を見回した。
通常、襲われた痕跡がこれほど顕著ならば、犠牲者が出ているはずだ。しかし、それらしき跡は見当たらない。目標の痕跡で間違い無さそうだ。
俺たちは慎重に馬車へと近づいた。
「……ッ!」
その時、馬車の向こう側から素早い影が飛び出した。
緑色の肌、ひょろりとした体躯、鋭い耳――ゴブリンだ。
奴らは元々集団で行動することが多く、単体ではそれほどの脅威にはならない。残された物資に釣られて漁りに来たか。
「三匹か……」
エリスが冷静に数を数える。ゴブリンたちはこちらに気づくと、一斉に奇声を上げ、手にした棍棒や石を振りかざした。
「まずは、君たちの実力を見させてもらう。俺は守りに徹する」
俺はそう告げ、盾を構え前に出る。
ゴブリンたちが投石を始めるが、当然後ろに逸らすようなことはしない。
反対にエリスが静かに弓を引き絞る。しかし、すぐには放たない。じっくりと間合いを計っている。
「フィリア、魔法を使えそうか?」
「う、うん……! やってみる!」
フィリアは気合を入れ、杖を握りしめる。
「……ファイアボール!」
彼女が唱える。しかし、何も起こらない。
「うーん、おかしいな」
首を傾げるフィリア。彼女は再び杖を握りしめ、もう一度呪文を唱える。
「ファイアボール……!」
だが、それでも魔法は発動しない。
「もう…」
エリスがその様子を見て、ふっと薄く笑った。
そして、悠然と狙いを定め、ひゅん、と放つ。
矢は一直線に飛び、投石の準備をしていたゴブリンの額に突き刺さる。
ゴブリンは短い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。
◇◆◇◆◇
結局フィリアの魔法は発動せず、俺の盾に阻まれたゴブリン達はエリスの弓で術で排除された。
「おかしいなぁ、これで発動する気がするんだけど」
「気がするだけなのかよ」
「魔法が使いたいのは分かるけど、そんなので街の外に出てるなんて……」
エリスが頭に手をやり、頭痛を堪える様子を見せた時だった。
体の奥から何かが込み上げてくる感覚。
それは以前にも経験したことがある。身体の奥から熱が湧き上がり、力が増していくような感覚。それと同時に、視界の片隅に浮かび上がる文字。
『レベルアップしました』
俺だけに見えているはずの表示が、また浮かんでいた。
「……あれ?」
フィリアが首をかしげる。
「なんか、急に力が湧いてくるような……不思議な感じがするんだけど」
「私も……。ちょっと体が軽くなったような……」
エリスも同じく、戸惑った様子で拳を握りしめていた。
俺はこっそりと画面を確認する。
――――――――――
名前:ガルドリック
年齢:15歳(23歳)
職業:勇者
レベル:2 → 3
HP: 3780 → 3960
MP:1610 → 1620
耐久:183 → 213
筋力:195 → 217
敏捷:120 → 135
知力:166 → 177
魔力:265 → 270
幸運:10
スキル:「勇者の適応」
名前:フィリア
年齢:17歳
職業:賢者
レベル:1 → 2
HP:60 → 120
MP:150 → 300
耐久:8 → 16
筋力:8 → 16
敏捷:13 → 26
知力:30 → 60
魔力:30 → 60
幸運:65
スキル習得:「ファイアボール」「ブレスヒール」
名前:エリス
年齢:19歳
職業:弓士
レベル:1 → 2
HP:80 → 160
MP:30 → 60
耐久:12 → 24
筋力:10 → 20
敏捷:21 → 42
知力:15 → 30
魔力:10 → 20
幸運:16
スキル:〈精密射撃〉
――――――――――
やはり、二人ともレベルが上がったらしい。
そして、フィリアにスキル取得という記述が加わっていた。
一つはさっき使おうとしていた魔法か。もう一つは回復魔法、神官の扱う術だ。魔術師と神官の魔法って両方扱える物だったんだな。
なんにしろ、フィリアが魔法を使える様でよかった。
先程は魔法を使おうとしても発動しなかった。しかし、今なら使えるかもしれない。どう伝えた物か。
「二人とも、これがパーティ機能だ。パーティを組んで戦闘を経験する事で成長が加速する」
「えっと、どういうこと?」
「二人はこれまで以上の力を手に入れたはず――」
俺が言いかけたその時だった。
ガサリ、と森の奥から草木が揺れる音がした。次いで、ズシン……ズシン……と地響きのような足音。
振り返った俺の視線の先、木々の隙間から真っ黒な巨体が現れた。
情報よりも巨大な体躯。全身が煤けたような黒に包まれ、異様な一つ目がぎょろりと動く。
「向こうから来てくれたか」
目標の魔物だ。
こいつがこの馬車を襲った張本人。俺たちの討伐対象。
「来るぞッ!」
俺が叫ぶと同時に、巨体が一直線にこちらへと駆け出してきた。
即座に剣を抜き盾を構えた。さっきのゴブリンとは比べ物にならない威圧感。レベルアップした二人の力を試したいが、まずは俺が動く。
魔物が腕を振り上げた。真正面から受け止めるつもりで盾を突き出し、衝撃を足で受け流す。思ったより重くはない。確かに強いが、十分に状況をコントロール出来ると判断した。
「エリス、フィリア。攻撃しろ!」
背後で弦を引く音がし、次の瞬間、魔物の肩口に矢が深々と突き刺さった。エリスの精度は見事なものだ。魔物は苦痛の声を上げるが、倒れない。
「フィリア!もう一度魔法を試すんだ!」
「で、でも……。いや!今度こそ!」
フィリアが杖を掲げ、呪文を唱える。先ほど不発だった魔法だが、今度は赤い光が彼女の杖の先に集まり——
「ファイアボール!」
杖から放たれた火球が魔物の胸に命中した。爆発と共に黒い肌が焼け焦げ、魔物は苦悶の叫びをあげる。
「トドメは俺がやる!」
一気に踏み込む。魔物の動きは鈍っている。振り下ろされた腕を盾で弾き、剣を突き立てた。
魔物が大きくのけ反り断末魔を上げる。俺が剣を引き抜くと、黒い巨体は煙となって消えていく。
「消えた!?」
フィリアが驚きの声を上げる。だが、その場にはひとつの物が残されていた。
「これは?」
何かが刻まれた魔石。それだけが魔物の残した物だった。
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高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
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