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第24話 兵士は礼節もわきまえる
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「ガルド。ウィーのとこ行くんだろ?ほら、今日から手足を」
「そうだ。今日から少しずつ始めてみる」
「そっか、そっか~。……あのな、手加減しろよ?」
「当然だ」
「分かってんのかな」
苦笑しつつ、また金属を弄っていたセオに目をやると、彼はため息をつきながらも手を止めずにいた。
「手足を再生するというのは興味がある。だが、手足を作って付けるのではなく、治療すると言うなら、今の彼女にそれを生み出す力があるとは思えない」
「わかってる。だが治ると言われても不安だろう。少しだけ進めてみる」
「ふむ、いいだろう。同行する」
ということで、三人で出向くことになった。
借りている家の前に行くと、丁度家の前にアルシアがいた。
アルシアは、朝から散歩がてら草花を摘んでいたようで、花籠を抱えたまま戻ってきていた。
「そう。大丈夫だと思うけどお姉さんも見ていてあげましょう!手足の再生なんて見るのは何十年振りかなー」
何十年?見るのは構わないがフォルクが固まり、セオは目を背けている。まぁ、いいか。
家に入ると、ウィーはいつもの寝床で毛布にくるまり、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見た。
「ガルド、おはよう。来てくれて嬉しいな」
手足がないウィーは、自分で体を起こすこともできない。そのまま寝そべった姿勢で、嬉しそうに俺を見つめる。
「調子はどうだ?」
「うん……元気。ガルドが来てくれたから、もっと元気になった」
「俺達もいるぜ。絶対治るからがんばれよ」
「大分マシな顔色になったな。だが肉付きが薄すぎる。ガルド、無理はするなよ。あまり栄養を使いすぎると腹の機能が落ちて余計長引く」
うるせぇな。ちょっと下がってろ。
「じゃあ、今日はちょっと試してみるか。腕の再生……いけそうなら少しずつな」
「え?う、うん、お願い」
「では、触るぞ」
俺はベッドのそばに腰を下ろし、ウィーの肩口にそっと触れる。
「ガルドの手、あったかいね」
「お、おう」
(グローリアスタッチ)
魔力を練り、意識を集中すると、光が彼女の肌に染み込むように広がっていく。
「っ……あ、んっ……!」
ウィーの身体がびくっと震え、小さく切ない声が漏れた。
「はぁっ…うっ!……くぅ!……」
「お、おい……っ!」
フォルクが顔を真っ赤にして騒ぎ出した。
「こ、これ……いいのか!?不味くないか!?加減しろっつっただろうがぁ!」
「黙ってろ」
セオが無表情に釘を刺す。
「でも声!な、なんかすごい声出たぞ今!?」
「それだけ回復が深く作用してるってことよ。たぶん。いいところなんだから静かに見守りなさい」
アルシアが鋭い目でフォルクを制した。
「うぅ……ガルド、恥ずかしい……声が………」
「気にするな。あいつは思春期なんだ」
治療を続けると、肩の付け根から淡い光と共に、ほんのわずかに肉が盛り上がる。ほんの僅かな腕、それでも希望の証。
「で、出てる!これ、腕だぞ!ウィーの腕!」
フォルクが驚きの声を上げる。
「……ほんとうに、生えてきているな」
セオも目を見開いた。
「すごいねぇガルド君。でも君は…」
アルシアが呟くように言った。
ウィーは、涙ぐんでその小さな腕の兆しを見つめた。
「うそ…ほ、ほんとに?本当に私の腕が…」
「治ると言っただろう。俺を信じろ。しっかり食べて、栄養が溜まったら治していく」
「うん…あん!…いっぱいたべっ!たべるね……ちゃん!とっ!治るために……んっ…くっ!」
彼女の目には希望の光が灯っていた。そしてアルシアの目には怪しい光が灯っていた。
◇◆◇◆◇
ウィーの呼吸が静かになり、ようやく眠りについたのを確認して、俺たちはそっと席を立った。
「ようやく落ち着いたな」
フォルクが気まずそうに頭をかいた。
「俺、途中で出ていこうかと思ったんだけど、なんか負けた気がしてさ」
「そもそもお前は最初からいなくてもよかったんだぞ」
「まあまあ、いいじゃない。おかげでいいものが見れたわ。本人は幸せそうだったわよ?動けるようになったら色々覚悟しないとね」
そう声をかけてきたアルシアは、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
軽口のようなその声に何か含まれているような気もしたが、深く追求するのはやめた。
そんな空気の中、玄関の扉が控えめに叩かれた。
トン、トン──。木を通じて響く音は、しっかりとした重さがあった。
「何かあったかな」
扉を開けると、若い男が立っていた。
「失礼、討伐依頼を遂行した冒険者の方は――こちらに?」
鎧も姿勢もしっかり整っている。背筋ぴんぴん。力強い目でこちらを睨みつける。
この小さな村じゃ、明らかに浮いてるな。
「……ああ。俺がガルドだ。あんたは?」
「レオネル・グランツ。ノルデン男爵様よりの使者です」
貴族様の使者?なんで?
「このたびの討伐、男爵より労いの言葉を預かっています。“解決に感謝する。”――とのことです
「光栄です。お伝えいただき、ありがとうございます」
俺が頭を下げると、レオネルは一瞬だけ黙って、また表情を引き締めた。
「また、可能であれば後日、屋敷のほうでお話を伺いたいとのこと。時期は問いません」
「わかりました。準備が整い次第、伺います」
それだけ伝えると、彼は静かに身を引いた。
帰り際まで、まるで軍の儀礼のように整った動き。
……本気でやってるのは分かる。けどまあ、固い。
相手が誰であれ、冒険者ってだけで信用してないのも伝わってくる。
それでも――ちゃんと話そうっていう意思があるだけ、だいぶマシだ。
彼を見送って部屋に戻った。面倒な事になったな。
「誰?あの、妙にシュッとした人」
「使者だ。ノルデン男爵のな。多分ここの領主か代官だろう」
「え、貴族?マジで?なんか悪いことしたっけ俺……」
「してたらもう捕まってるだろう」
「礼の言葉を伝えに来ただけか?」
「それと、できれば屋敷に来いってさ。話があるらしい」
セオが顎で示す。隣のベッド。
ウィーがまだ眠っている。状態は悪くないが、このまま置いていくわけには行かない。
「……今すぐ来いと言うわけじゃないんだろう?」
「ああ。後日、時期は問わないだとさ。気は遣ってる……つもりなんだろうな」
「それでも礼を伝えに来たんだ。まともな男爵ってことだろう」
セオがそう言って、窓の外に目を向けた。
「行くのは治療が終わってからでいい。ウィーの容体を見てからだな」
ノルデン男爵か。村長にでも聞いておかなければ。
大した話じゃなければいいんだがな。折角の機会だ、こちらかも聞いてみたいことがある。
◇◆◇◆◇
翌日。
朝の光が差し込む落ち着いた部屋の中。今日も変わらず、ウィーは簡素なベッドに寝ていた。
「貴族に呼ばれてるんだよね?」
「あぁ。だが治療が終わってからでいいんだ。安心しろ」
少しの沈黙。
そして、ウィーのまぶたがゆっくり開いた。
「……移動先でも、治療は受けられるよ」
囁くような声。それでも、はっきりと言葉を選んでいるのがわかった。
「貴族を待たせるのは……あんまり良くないでしょ」
「……気にするな。あっちは“時期は問わない”って言ってきた。今はお前の回復が――」
「平気」
被せるように、ウィーが言った。
「もうずいぶんよくなったの。全部ガルドのおかげ。だから……」
だから、連れてってほしい――その言葉は、口に出されなかった。
けれど、それ以上言わせるまでもない。
「……そうか。分かった、そうしよう」
彼女は目を閉じる。けれど、どこか満足そうな顔をしていた。
治療の続きは、移動先で。
貴族の用件は、早めに済ませておくべきだろう。
「じゃあ、そのつもりで動くか」
誰に言うでもなく、そう呟いて立ち上がった。
出発の準備は、思ったより早く整った。
馬車には魔石がいっぱいに積んであるが、俺達三人が乗るくらいはなんとかなる。
それに加えて――
「もちろんそのつもりよ、お姉さんに任せなさい!」
アルシアが同行してくれることで、乗ってきた馬車が使える。ウィーにはこちらの馬車に乗ってもらうことにした。
「彼女をこのまま置いていけるわけがないでしょ。それに……貴族のところで何があるかわからないしね」
セオもすぐに動いた。アルシアの馬車の荷台を改造し、簡易な吊り下げ式のベッドを作る。更に天井幕も設置して刺激を軽減すると共に保温機能まであるという。
「揺れが直に来ないようにしておいた。布が買えたのと魔石が大量にあったので魔力糸が大量に作れた。手に入れた能力のおかげだ」
「ずいぶん奮発したな」
素材は村で分けてもらった古布と魔石。丈夫さも軽さも申し分ない。
ウィーを運ぶには最適だ。
その翌日には出発。
来た時には暗い村だったが、少しずつ明るい空気になりつつある。失った物は大きいが、また立ち上がるだろう。
森にも動物が戻り、放棄された村にも人が戻るはずだ。
魔物の影が消え、畑には人の手が戻り、子供の笑い声が聞こえた。
その光景を背に、俺たちは村を離れる。
目的地はノルデン男爵の屋敷がある、近隣では比較的大きな村、オッフェ。
ノルデン男爵はローバン侯爵に仕える貴族で、周辺の村を統治している小領主だ。
村にも食料支援を行っていたし、評判の領主らしい。
馬車での移動は半日ほど。
ウィーが吊り下げベッドの上でうとうと眠っている間に到着出来た。
オッフェ村の入り口に着くと、古びた木の門が迎えてくれた。門番はいない。
町と言うほどではないが、広場には人が集まり、商店が一つ、宿も一つ。
物静かながら、最低限の物は揃っている村だった。
「……飯の匂いが、する」
フォルクが涙ぐみながら言った。
俺も正直、同感だった。
すぐに宿をとって食事にした。
宿の食堂で出されたのは、暖かいスープと焼きたてのパン、香草を混ぜ込んだソーセージ。
「……うまいな……」
「昔は平気だったんだけどなぁ、今じゃ麦粥続きはきついわ」
セオもフォルクも、アルシアも、皆が静かに食事を進めていた。
ウィーには特別食だ。食料が売っていたので色々と補充ができた。これを使って、消化しやすく栄養価の高いものを作る。勿論美味しくしないとな。
金を払って宿の厨房を借りることが出来た。
新鮮な卵とミルクが手に入ったので、オムレツとミルク粥を作ろう。
まずは豆を煮る、柔らかくなったら潰して、卵・チーズ・ミルクと一緒に練る。
後はこれをゆっくり蒸し焼きにするだけだ。
焼いている間にミルク粥を作る。
こちらはミルクで麦を煮るだけでほとんど終わり。麦がふっくらしたら火を止めて、塩とバターを溶かし込んで、最後に蜂蜜をかけて完成
ついでにおやつも作っておく。
干し芋を軽く蒸して柔らかくし、バターと混ぜて練る。クルミ等の木の実を少々砕き入れ、ドライフルーツも混ぜ込んで団子にしておく。
これはアルシアに渡しておけばいいだろう。……全部自分で食ったりはしないはずだ。
「出来たぞ。アルシア、これを食べさせてやってくれ。上手く出来たし、栄養も多いはずだ」
「あー…、ちょっと用事があってね。ガルド君任せた!」
というので、俺が食べさせた。
凄く喜んでくれて、しっかり食べてくれた。この分なら治療もスムーズに進むはずだ。
◇◆◇◆◇
宿の二階。簡素だが掃除の行き届いた部屋。
ウィーとアルシアは別室で休んでいて、俺とセオ、フォルクの三人は荷の整理をしていた。
「んでどうする?今から男爵のところにいくか?」
「いや。今日は休もう。明日でいいだろう」
「お前たちは何を言っているんだ。今のままふらっと行ったら、向こうが構えるぞ」
セオの顔は、いつになく真面目だった。
「どんなに田舎でも、貴族は貴族。招かれているとはいえ、訪問するなら“お伺い”を立てるのが筋だ。田舎貴族と言えど、侮ってかかれば無駄にプライドを傷つけるかもしれん」
「お伺い、ね……」
わかっちゃいたが、めんどくせぇ。
「まずは手紙を書け。それを使者に持たせて、男爵家に渡す。返事を待ってから訪ねるのが礼儀だ。私の物を貸してやろう」
「その手紙、内容はどんな感じだ?」
「最初に招待いただいたお礼。その上で、都合のよろしい時にお目通り願いたい――というのが定番だ。こちらは住民でもない冒険者なので変にへりくだらず、無礼がないようにな」
「要はたっぷり気使いして丁度いい塩梅にしろってことだよな?」
「その通り」
「……よし、わかった。書くか」
机に向かい、筆を取った。
文章はセオが横でぼそぼそ指示してくれるのを、そのまま写す形にした。
――招待の礼。
――明日以降、都合のよろしい時にお話を伺いたい。
――改めての紹介と、同行者の数。
丁寧過ぎず、無礼もなく。ちょうどいい塩梅に。字が汚いのは冒険者だし目を瞑ってくれると思いたい。
「で、これを誰に持たせる?」
「宿の主人に頼めば雇い人を紹介してくれるだろう。少し金はかかるが、慣れているはずだ」
「……手間が多いな、貴族ってのは」
「そうだな。しかし、その“手間”を踏んでおけば、あとが楽になる。大事なのは、最初に“筋”を通すことだ」
俺は封をして、封蝋を押した。
それから宿の主人を呼び、一通り事情を説明すると、丁寧に使いの若者を紹介してくれた。
「じゃあ、よろしく頼む」
手紙を預けると、青年は夕暮れの道を走っていった。
ここまで済ませて、俺は深く深く息を吐いた。
――――――――――
「ごはんよ~!特別に作ってくれたの」
「はぁぁ、置いといて」
「困ったわねえ。あ、そうだ!」
「食事を作ったんだ。食べられるか?」
「たべりゅぅぅ!」
「素直ないい子だなぁ」
「そうだ。今日から少しずつ始めてみる」
「そっか、そっか~。……あのな、手加減しろよ?」
「当然だ」
「分かってんのかな」
苦笑しつつ、また金属を弄っていたセオに目をやると、彼はため息をつきながらも手を止めずにいた。
「手足を再生するというのは興味がある。だが、手足を作って付けるのではなく、治療すると言うなら、今の彼女にそれを生み出す力があるとは思えない」
「わかってる。だが治ると言われても不安だろう。少しだけ進めてみる」
「ふむ、いいだろう。同行する」
ということで、三人で出向くことになった。
借りている家の前に行くと、丁度家の前にアルシアがいた。
アルシアは、朝から散歩がてら草花を摘んでいたようで、花籠を抱えたまま戻ってきていた。
「そう。大丈夫だと思うけどお姉さんも見ていてあげましょう!手足の再生なんて見るのは何十年振りかなー」
何十年?見るのは構わないがフォルクが固まり、セオは目を背けている。まぁ、いいか。
家に入ると、ウィーはいつもの寝床で毛布にくるまり、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見た。
「ガルド、おはよう。来てくれて嬉しいな」
手足がないウィーは、自分で体を起こすこともできない。そのまま寝そべった姿勢で、嬉しそうに俺を見つめる。
「調子はどうだ?」
「うん……元気。ガルドが来てくれたから、もっと元気になった」
「俺達もいるぜ。絶対治るからがんばれよ」
「大分マシな顔色になったな。だが肉付きが薄すぎる。ガルド、無理はするなよ。あまり栄養を使いすぎると腹の機能が落ちて余計長引く」
うるせぇな。ちょっと下がってろ。
「じゃあ、今日はちょっと試してみるか。腕の再生……いけそうなら少しずつな」
「え?う、うん、お願い」
「では、触るぞ」
俺はベッドのそばに腰を下ろし、ウィーの肩口にそっと触れる。
「ガルドの手、あったかいね」
「お、おう」
(グローリアスタッチ)
魔力を練り、意識を集中すると、光が彼女の肌に染み込むように広がっていく。
「っ……あ、んっ……!」
ウィーの身体がびくっと震え、小さく切ない声が漏れた。
「はぁっ…うっ!……くぅ!……」
「お、おい……っ!」
フォルクが顔を真っ赤にして騒ぎ出した。
「こ、これ……いいのか!?不味くないか!?加減しろっつっただろうがぁ!」
「黙ってろ」
セオが無表情に釘を刺す。
「でも声!な、なんかすごい声出たぞ今!?」
「それだけ回復が深く作用してるってことよ。たぶん。いいところなんだから静かに見守りなさい」
アルシアが鋭い目でフォルクを制した。
「うぅ……ガルド、恥ずかしい……声が………」
「気にするな。あいつは思春期なんだ」
治療を続けると、肩の付け根から淡い光と共に、ほんのわずかに肉が盛り上がる。ほんの僅かな腕、それでも希望の証。
「で、出てる!これ、腕だぞ!ウィーの腕!」
フォルクが驚きの声を上げる。
「……ほんとうに、生えてきているな」
セオも目を見開いた。
「すごいねぇガルド君。でも君は…」
アルシアが呟くように言った。
ウィーは、涙ぐんでその小さな腕の兆しを見つめた。
「うそ…ほ、ほんとに?本当に私の腕が…」
「治ると言っただろう。俺を信じろ。しっかり食べて、栄養が溜まったら治していく」
「うん…あん!…いっぱいたべっ!たべるね……ちゃん!とっ!治るために……んっ…くっ!」
彼女の目には希望の光が灯っていた。そしてアルシアの目には怪しい光が灯っていた。
◇◆◇◆◇
ウィーの呼吸が静かになり、ようやく眠りについたのを確認して、俺たちはそっと席を立った。
「ようやく落ち着いたな」
フォルクが気まずそうに頭をかいた。
「俺、途中で出ていこうかと思ったんだけど、なんか負けた気がしてさ」
「そもそもお前は最初からいなくてもよかったんだぞ」
「まあまあ、いいじゃない。おかげでいいものが見れたわ。本人は幸せそうだったわよ?動けるようになったら色々覚悟しないとね」
そう声をかけてきたアルシアは、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
軽口のようなその声に何か含まれているような気もしたが、深く追求するのはやめた。
そんな空気の中、玄関の扉が控えめに叩かれた。
トン、トン──。木を通じて響く音は、しっかりとした重さがあった。
「何かあったかな」
扉を開けると、若い男が立っていた。
「失礼、討伐依頼を遂行した冒険者の方は――こちらに?」
鎧も姿勢もしっかり整っている。背筋ぴんぴん。力強い目でこちらを睨みつける。
この小さな村じゃ、明らかに浮いてるな。
「……ああ。俺がガルドだ。あんたは?」
「レオネル・グランツ。ノルデン男爵様よりの使者です」
貴族様の使者?なんで?
「このたびの討伐、男爵より労いの言葉を預かっています。“解決に感謝する。”――とのことです
「光栄です。お伝えいただき、ありがとうございます」
俺が頭を下げると、レオネルは一瞬だけ黙って、また表情を引き締めた。
「また、可能であれば後日、屋敷のほうでお話を伺いたいとのこと。時期は問いません」
「わかりました。準備が整い次第、伺います」
それだけ伝えると、彼は静かに身を引いた。
帰り際まで、まるで軍の儀礼のように整った動き。
……本気でやってるのは分かる。けどまあ、固い。
相手が誰であれ、冒険者ってだけで信用してないのも伝わってくる。
それでも――ちゃんと話そうっていう意思があるだけ、だいぶマシだ。
彼を見送って部屋に戻った。面倒な事になったな。
「誰?あの、妙にシュッとした人」
「使者だ。ノルデン男爵のな。多分ここの領主か代官だろう」
「え、貴族?マジで?なんか悪いことしたっけ俺……」
「してたらもう捕まってるだろう」
「礼の言葉を伝えに来ただけか?」
「それと、できれば屋敷に来いってさ。話があるらしい」
セオが顎で示す。隣のベッド。
ウィーがまだ眠っている。状態は悪くないが、このまま置いていくわけには行かない。
「……今すぐ来いと言うわけじゃないんだろう?」
「ああ。後日、時期は問わないだとさ。気は遣ってる……つもりなんだろうな」
「それでも礼を伝えに来たんだ。まともな男爵ってことだろう」
セオがそう言って、窓の外に目を向けた。
「行くのは治療が終わってからでいい。ウィーの容体を見てからだな」
ノルデン男爵か。村長にでも聞いておかなければ。
大した話じゃなければいいんだがな。折角の機会だ、こちらかも聞いてみたいことがある。
◇◆◇◆◇
翌日。
朝の光が差し込む落ち着いた部屋の中。今日も変わらず、ウィーは簡素なベッドに寝ていた。
「貴族に呼ばれてるんだよね?」
「あぁ。だが治療が終わってからでいいんだ。安心しろ」
少しの沈黙。
そして、ウィーのまぶたがゆっくり開いた。
「……移動先でも、治療は受けられるよ」
囁くような声。それでも、はっきりと言葉を選んでいるのがわかった。
「貴族を待たせるのは……あんまり良くないでしょ」
「……気にするな。あっちは“時期は問わない”って言ってきた。今はお前の回復が――」
「平気」
被せるように、ウィーが言った。
「もうずいぶんよくなったの。全部ガルドのおかげ。だから……」
だから、連れてってほしい――その言葉は、口に出されなかった。
けれど、それ以上言わせるまでもない。
「……そうか。分かった、そうしよう」
彼女は目を閉じる。けれど、どこか満足そうな顔をしていた。
治療の続きは、移動先で。
貴族の用件は、早めに済ませておくべきだろう。
「じゃあ、そのつもりで動くか」
誰に言うでもなく、そう呟いて立ち上がった。
出発の準備は、思ったより早く整った。
馬車には魔石がいっぱいに積んであるが、俺達三人が乗るくらいはなんとかなる。
それに加えて――
「もちろんそのつもりよ、お姉さんに任せなさい!」
アルシアが同行してくれることで、乗ってきた馬車が使える。ウィーにはこちらの馬車に乗ってもらうことにした。
「彼女をこのまま置いていけるわけがないでしょ。それに……貴族のところで何があるかわからないしね」
セオもすぐに動いた。アルシアの馬車の荷台を改造し、簡易な吊り下げ式のベッドを作る。更に天井幕も設置して刺激を軽減すると共に保温機能まであるという。
「揺れが直に来ないようにしておいた。布が買えたのと魔石が大量にあったので魔力糸が大量に作れた。手に入れた能力のおかげだ」
「ずいぶん奮発したな」
素材は村で分けてもらった古布と魔石。丈夫さも軽さも申し分ない。
ウィーを運ぶには最適だ。
その翌日には出発。
来た時には暗い村だったが、少しずつ明るい空気になりつつある。失った物は大きいが、また立ち上がるだろう。
森にも動物が戻り、放棄された村にも人が戻るはずだ。
魔物の影が消え、畑には人の手が戻り、子供の笑い声が聞こえた。
その光景を背に、俺たちは村を離れる。
目的地はノルデン男爵の屋敷がある、近隣では比較的大きな村、オッフェ。
ノルデン男爵はローバン侯爵に仕える貴族で、周辺の村を統治している小領主だ。
村にも食料支援を行っていたし、評判の領主らしい。
馬車での移動は半日ほど。
ウィーが吊り下げベッドの上でうとうと眠っている間に到着出来た。
オッフェ村の入り口に着くと、古びた木の門が迎えてくれた。門番はいない。
町と言うほどではないが、広場には人が集まり、商店が一つ、宿も一つ。
物静かながら、最低限の物は揃っている村だった。
「……飯の匂いが、する」
フォルクが涙ぐみながら言った。
俺も正直、同感だった。
すぐに宿をとって食事にした。
宿の食堂で出されたのは、暖かいスープと焼きたてのパン、香草を混ぜ込んだソーセージ。
「……うまいな……」
「昔は平気だったんだけどなぁ、今じゃ麦粥続きはきついわ」
セオもフォルクも、アルシアも、皆が静かに食事を進めていた。
ウィーには特別食だ。食料が売っていたので色々と補充ができた。これを使って、消化しやすく栄養価の高いものを作る。勿論美味しくしないとな。
金を払って宿の厨房を借りることが出来た。
新鮮な卵とミルクが手に入ったので、オムレツとミルク粥を作ろう。
まずは豆を煮る、柔らかくなったら潰して、卵・チーズ・ミルクと一緒に練る。
後はこれをゆっくり蒸し焼きにするだけだ。
焼いている間にミルク粥を作る。
こちらはミルクで麦を煮るだけでほとんど終わり。麦がふっくらしたら火を止めて、塩とバターを溶かし込んで、最後に蜂蜜をかけて完成
ついでにおやつも作っておく。
干し芋を軽く蒸して柔らかくし、バターと混ぜて練る。クルミ等の木の実を少々砕き入れ、ドライフルーツも混ぜ込んで団子にしておく。
これはアルシアに渡しておけばいいだろう。……全部自分で食ったりはしないはずだ。
「出来たぞ。アルシア、これを食べさせてやってくれ。上手く出来たし、栄養も多いはずだ」
「あー…、ちょっと用事があってね。ガルド君任せた!」
というので、俺が食べさせた。
凄く喜んでくれて、しっかり食べてくれた。この分なら治療もスムーズに進むはずだ。
◇◆◇◆◇
宿の二階。簡素だが掃除の行き届いた部屋。
ウィーとアルシアは別室で休んでいて、俺とセオ、フォルクの三人は荷の整理をしていた。
「んでどうする?今から男爵のところにいくか?」
「いや。今日は休もう。明日でいいだろう」
「お前たちは何を言っているんだ。今のままふらっと行ったら、向こうが構えるぞ」
セオの顔は、いつになく真面目だった。
「どんなに田舎でも、貴族は貴族。招かれているとはいえ、訪問するなら“お伺い”を立てるのが筋だ。田舎貴族と言えど、侮ってかかれば無駄にプライドを傷つけるかもしれん」
「お伺い、ね……」
わかっちゃいたが、めんどくせぇ。
「まずは手紙を書け。それを使者に持たせて、男爵家に渡す。返事を待ってから訪ねるのが礼儀だ。私の物を貸してやろう」
「その手紙、内容はどんな感じだ?」
「最初に招待いただいたお礼。その上で、都合のよろしい時にお目通り願いたい――というのが定番だ。こちらは住民でもない冒険者なので変にへりくだらず、無礼がないようにな」
「要はたっぷり気使いして丁度いい塩梅にしろってことだよな?」
「その通り」
「……よし、わかった。書くか」
机に向かい、筆を取った。
文章はセオが横でぼそぼそ指示してくれるのを、そのまま写す形にした。
――招待の礼。
――明日以降、都合のよろしい時にお話を伺いたい。
――改めての紹介と、同行者の数。
丁寧過ぎず、無礼もなく。ちょうどいい塩梅に。字が汚いのは冒険者だし目を瞑ってくれると思いたい。
「で、これを誰に持たせる?」
「宿の主人に頼めば雇い人を紹介してくれるだろう。少し金はかかるが、慣れているはずだ」
「……手間が多いな、貴族ってのは」
「そうだな。しかし、その“手間”を踏んでおけば、あとが楽になる。大事なのは、最初に“筋”を通すことだ」
俺は封をして、封蝋を押した。
それから宿の主人を呼び、一通り事情を説明すると、丁寧に使いの若者を紹介してくれた。
「じゃあ、よろしく頼む」
手紙を預けると、青年は夕暮れの道を走っていった。
ここまで済ませて、俺は深く深く息を吐いた。
――――――――――
「ごはんよ~!特別に作ってくれたの」
「はぁぁ、置いといて」
「困ったわねえ。あ、そうだ!」
「食事を作ったんだ。食べられるか?」
「たべりゅぅぅ!」
「素直ないい子だなぁ」
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フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
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