悪役の運命から逃げたいのに、独占欲騎士様が離してくれません

ちとせ

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9.社交パーティー

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「カイ様、お召し物のご準備が整いました」

侍女の声に、カイはゆっくりと鏡の前に立った。

そこに映るのは、雪のように白い肌に、艶やかな黒髪。宝石めいた蒼の瞳は、昔読んだゲームの「悪役貴族カイ」のビジュアルそのもの——いや、改めて見れば、ヒロインの存在感が霞むほどに完成された美貌だ。

(……こんな顔、目立つに決まってるんだよなあ)

カイは重いため息をついた。
原作の断罪ルートでも、この美貌が災いして王族や貴族に目をつけられ、嫉妬と陰謀の渦に巻き込まれた。

(絶対、波風立てない……!)

心にそう誓い、カイはゼクスとともにパーティー会場へと向かう。

しかし、宮廷主催の格式高い夜会では、基本的に貴族は個人で振る舞うのがマナーとされていた。
護衛は入口で待機、主の動向を遠巻きに見守るのが通例である。

「ここからはおれひとりで大丈夫だから」

「……承知しました」

ゼクスは一瞬だけ何かを言いかけたが、それを呑み込み、カイに一礼する。

カイが一歩会場へ足を踏み入れると、すぐに周囲がざわついた。

「……あれがリヒテンベルク公子?」
「なんて綺麗な……」

(や、やばい。断罪回避のためには目立たないが鉄則……!)

慌ててカイは視線を伏せ、会場の壁際へとそそくさと移動しようとした——そのとき。

「やあ、カイ。久しいな」

聞き覚えのある声に、背筋が凍る。

現れたのは、原作ルートの破滅トリガー——第一王子・シグヴァルトだった。
金髪碧眼の華やかな王子は、笑みを浮かべてカイに近づき、当然のように手を取る。

「君ほどの美貌、今日の主役にふさわしい。今夜は僕の傍にいてくれるね?」

(やばい、このルート知ってる!王子に絡まれて、自惚れまくったあげく最終的に断罪されるやつ!)

なんとか手を離そうとするが、シグヴァルトはスリスリとカイの手の感触を楽しんでいる。
さりげなく手を引こうとしても、分かっているだろうに離してくれる気配がない。

そのまま口元まで手を持っていかれそうになり…

(…!?──こんな場面を他の人に見られたら面倒なことにしかならない…!)

焦ったカイが意を決してその手を振りほどこうとしたその瞬間——

「シグヴァルト様。失礼をお許しください、閣議の件でお時間をいただきたいと執務官殿が——」

使用人が駆け寄り、王子に耳打ちする。シグヴァルトは舌打ちしながらも、しぶしぶと離れていった。

「……後でまた、お話しよう。逃げるなよ、カイ」

(いや、怖いからやめて……!)

カイは内心で悲鳴をあげながら、早々に会場の目立たないところへ場所を移した。

早く帰ろう。そう心に決めたカイは素早く会場全体を見まわし、どこに誰がいるのか確認する。

そうして伯爵家の代理として挨拶すべき相手には最短ルートで回る。
ひと通り挨拶を終え、気づけばパーティー会場に来てから結構な時間が経っていた。

これ以上この場にいても、災難が増えるだけだ。

こっそり出口へ向かった——その背後に、またしても足音。

「おや、もう帰るのかい?」

ふいに肩を取られ、振り返れば、シグヴァルトがそこにいた。

(えっ、王族なのにまだ帰ってなかったの!?)

「せっかくの夜会だ。二人きりで、静かなところへでも——」

そのまま肩に手を回され、誘導されそうになる。
なんとか角が立たないように断らなければ…とカイが内心あたふたしていると。

「シグヴァルト殿下。カイ様をお返しいただけませんか?」

その冷たい声に、空気が一変した。

カイの前にすっと立ちふさがったのは、ゼクスだった。

他の護衛はだいたい、主人が出てくるまで別室で待機していることが多い。
ゼクスはカイがいつ抜け出しても良いように、会場の出口にスタンバイしてくれていたのだ。

「……なんだ、ずっとここで待ってたのか」

「護衛の務めとして当然です」

シグヴァルトが不機嫌そうにゼクスを睨む。しかしゼクスは一歩も引かない。

「これ以上はご遠慮ください。主の安全を優先します」

しばしの沈黙ののち、王子は鼻を鳴らして踵を返す。

「……みごとな忠犬ぶりだな」

その背を見送りながら、カイは心臓の鼓動が早まるのを感じていた。

(ゼクス……いつから、来てたの……)

ゼクスが自分を守ってくれたことに嬉しさを感じるが、カイはすぐにハッとした。

「ゼクス、王子にあんなこと言っちゃって大丈夫なの…?」

「……カイ様のためなら、私は何者にも屈しません」

しっかりとカイの目を見て、揺るぎない意志を伝えるゼクス。

カイは顔が赤くなりそうなのを感じて急いで目を逸らした。

「……さあカイ様。帰りましょう」

「……ありがとう、ゼクス」

帰ろうというその言葉にどうしようもなく安心し、カイはホッとしたように微笑んだ。

ゼクスは何も言わず、カイのその笑顔を見つめた。

その視線に、どこか言葉にできない熱が宿っていたことに、カイはまだ気づいていない——。

 
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