悪役の運命から逃げたいのに、独占欲騎士様が離してくれません

ちとせ

文字の大きさ
9 / 20

8.距離近くない?

しおりを挟む


「……ゼクス、ちょっと、近い」

思わずそう呟いたのは、朝の執務室だった。

カイは書類に目を通しながら、ふと横に立つ騎士を見上げた。
ゼクス・ヴァレンティア。リヒテンベルク家に仕える近衛騎士にして、“氷の騎士”と呼ばれる男だ。

騎士の服に身を包み、整った顔立ちに感情をほとんど浮かべない——
そんな彼が、最近、やけに物理的に距離が近い。

前までは護衛としてすぐ側にいたのは外出時だけだった。
屋敷内では連絡事項がある時や定期的に様子を見にくるときだけの接触だったのに。

そばにいる時間が徐々に増えている気がする──

「カイ様がご自身を大切になさらない分、私が命をかけて守るだけです」

カイが使用人を庇ったあの日からもうだいぶ経つというのに、あれからゼクスはこの調子だ。

今も、カイの肩越しに覗き込むように立っていて、ほんのわずかにゼクスの呼吸が頬にかかる。

(いやいや、気のせい。きっと護衛としての気配りだよな?)

カイは必死にそう言い聞かせた。

呼吸があたったくすぐったさで首をすくめたカイは、自分の仕草に無意識に照れた顔をする。

そんなカイを見てゼクスが目を細め、口角を上げていることに気づくこともなく。

「……どうしましたか?」

低い声が頭のすぐそばで響く。

「い、いや、なんでもない!」

慌てて書類に視線を戻すが、心臓の鼓動が少し速くなるのを自覚してしまう。




そもそも、ゼクスとは最初は最悪の関係だった。
ゲームの原作知識では、ゼクスはヒロインに忠義を誓う騎士であり、カイの悪事を軽蔑していたはず。

(それが今じゃ、やたらおれに優しいっていうか……)

カイが街の孤児院に寄付をすれば、「立派なお考えです」と静かに微笑み、
怪我をすれば、すぐに膝をついて手当てを申し出る。

そして、今も——

「カイ様、その書類……代わりに整理しましょう」

「え、でもこれはおれの仕——」

「……あなたが疲れるのは、私が耐えられません」

ゼクスがさらりと、そんなことを言うものだから、カイはまたしても言葉を詰まらせる。

いつのまにか書類作業まで完璧にできるようになっていたゼクスは、今では執事よりも有能なビジネスパートナーにもなりつつある。

(しかもこれ、時間かかりそうで困ってたやつ…なんで騎士なのにこんなところまで有能なんだ……!)


***


その夜、カイは執務を終えて寝室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。

「……ふう、断罪回避も楽じゃない」

こちらに来てから、ヒロインとの接触はゼロ。貴族たちとの関係も慎重に築き直している。
なのに最近は、ゼクスだけがやけに存在感を増してきていて、何か別のルートに入りかけている気がしてならない。

(ま、まさかBLルート……? いや、そんなバカな)

ぶんぶんと頭を振り、カイは毛布に潜り込んだ。




翌日、リヒテンベルク家に第一王子主催の社交パーティーの招待状が届く。

「……断罪回避ルート、最大の山場が来たか」

原作では、ここでカイがヒロインに絡んでしまい、破滅への第一歩となる。

(絶対に目立たず、平和に過ごすんだ……!)

そう固く決意したカイだったが、
その傍らでゼクスは、静かに剣の柄を握りしめていた。

——カイ様に近づく者は、誰であれ排除する。

騎士の忠誠と、秘めた独占欲が、静かに交差し始めていた。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話

紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。 理想の彼氏はスパダリよ! スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。 受:安田陽向 天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。 社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。 社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。 ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。 攻:長船政景 35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。 いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。 妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。 サブキャラ 長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。 抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。 兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。 高田寿也:28歳、美咲の彼氏。 そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。 義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

処理中です...