忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった

ちとせ

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4.面談

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翌日、社内は部長村瀬の話題で持ちきりだった。
若くして部長に就任した彼のエリートストーリーは、どこから仕入れてくるのか前の会社での武勇伝とともに瞬く間に広まる。

仕事ができるだけでなく、イケメンで独身。
女性社員がいつもよりオシャレに気を遣っているかんじが伝わり、男性社員はなんとも言えない気持ちになっていた。

「以前はうちの会社にいたこともあるらしい」

向かいのデスクで、清水が内海に話しかけている。

「当時を知ってる人が雰囲気が変わったとか言うけど、『以前の知り合い』ってのを口実にこっちの部署までくるやつが後をたたないな…」

内海も、やや呆れを含む声でそれに答える。

叶斗のいる部署は、そう長く所属できるようなところではない。
大きな金額が動く仕事は、その分自分の判断一つで坂を転げ落ちるように業績を悪くする。
責任の重い仕事だと感じる者も多く、配属しても本人の希望もしくは会社の意向により長居しない者が多いのだ。

2年前村瀬がまだ所属していた時にいた人材はほとんどいなくなっており、残っていても叶斗に声をかけるようなタイプでない者ばかりだ。
村瀬の前でどう振る舞えばいいのかわからない叶斗にとっては、以前の仲良かった頃のことを掘り返す者がいないことに助かっていた。

「今日は新しい部長と一人一人面談があるらしいよ」

(……えっ)

不意に聞こえてきた言葉に、叶斗は内心絶望する。
できる限り関わらないように仕事をしよう、となかなか眠れないベッドの上でそう決めたばかりだったのに。

(……早く帰りたい…)

普段は気丈に振る舞っている叶斗だが、今日ばかりは弱気になりそうだった。






どれだけ気が向かなくても、時間は過ぎていく。

午後になって面談の順が回ってきて、叶斗は面談する部屋である会議室に向かわざるを得なかった。

女性社員が言っていたという噂のように、たしかに村瀬の雰囲気は変わった。
以前叶斗の隣にずっといた時はどこか大型犬のような、愛嬌のある雰囲気が印象的だった。

昨日、今日と見る限り彼からそのような雰囲気はなく、甘さを削ぎ落としたストイックな印象になっている。

彼も大人だ。仕事の話をして問題がなければ面談はすぐ終わるだろう。
あいにく問題があるような仕事の仕方はしていないのだ。

そう自分に言い聞かせ、会議室のドアをノックした。

「失礼します」

「…そこに腰掛けて」

向かい合うような形で、座っている村瀬の前にある椅子に腰掛ける。

「…………」

全身見られているのが分かる。
いたたまれず、叶斗にはこの数秒が永遠にも感じられた。

「変わらないですね。…お久しぶりです」

「ああ……」

無理だ。どうしても村瀬の顔を見ることができない。
村瀬が退職してから、ずっと自分は疎まれていたのだと思ってきた。
そして、今まさに叶斗に話しかけるその声が硬く冷たいのは、自分の予想が間違っていなかったのだろうと感じられた。

「内海さんや清水さんとずいぶん親しくされているようですね」

「…? まあ、同期ですし…」

無表情で答える叶斗に、村瀬は探るような視線を寄越す。

「あいつらが、俺の代わりの下僕ってわけだ」

「何を…!?」

ありえない。2年前村瀬に対してでさえ、叶斗自身が下僕と思って接したことはなかったというのに。
自分がそんな人間だと思われていることにいきどおりを感じる。

いや、もしかしたら村瀬は自分と同じように内海や清水が叶斗から被害を被っているのではないかと心配しているのかもしれない。

「くそっ、そのポジションを得るまで俺がどれだけ…」

小さく呟いた村瀬の声は叶斗には聞こえなかった。


「あいつらはそんなんじゃない。俺が2人に害意を持って接することはないし、あの2人に聞けば分かると思うがいたって良好な関係だ」

「良好な関係、ね」

含みのある返しに、叶斗の眉間にシワが寄る。


「聞いた話では、ずいぶん守ってもらっているみたいだけど」

「守る…?」


叶斗自身には守ってもらった覚えはないが、自分の知らないところで何かあったのだろうか。

何より、自分が守られる対象であることが信じがたい。
自分はもう立派な大人で、仕事でも引けを取らないしスキを見せることがないようにしてきた。

内海と清水はそんな叶斗の凛とした尊厳を尊いと感じており、だからこそ叶斗の前で表立って守ったことはないのだが。


「見返りに何を与えてるんです?まさか一度唇を奪われたらその先も抵抗なくなった?」

「…!?」

(なにを、言っているんだ…?)

叶斗にとっては突拍子のないことを言ってくる村瀬に、最初は戸惑っていた叶斗。
だが意味を理解すると同時にどうしようもなく怒りが湧いてくる。

2年前、突然キスをしてきたことを言っているのだ。

どうやら自分は男に狙われやすいらしいとようやく自覚しつつある叶斗だが、そのあまりにも下世話な言葉には怒りを隠せない。


無理矢理唇を奪っておいて、まるで自分を体を使って男を利用するような人間だと言っているのだ。

「あいつらは、お前とは違う…」

怒りのこもった目で見つめてくる叶斗に、村瀬はフッと鼻で笑い、

「俺の腕の中で震えていたくせに」

そう呟かれた言葉に、叶斗は思わず目を見開く。
そのバカにするようなセリフが許せず、キッと睨みつけたその目は次の瞬間にはやや怯えを含むことになった。

強い視線でこちらを見ながら、村瀬が近づいてきたのだ。

(なに…?なんで、近づいてくる…?)

相手の気迫に戸惑いつつ、無意識に叶斗も立ち上がり後退りする。

「俺がいなくなってからは、あの2人に大事に大事に守られてたんだ」

「……」

「あなたはこういう時、自分1人では何もできないでしょうからね」

「どういうことだ」

知らず壁際に追い込まれていた叶斗に、村瀬はさらに詰め寄る。

「じゃあこの状況から抜け出してみなよ」

そう言うと片手で叶斗の腰を抱き、もう片方の手で顎を上げる。
そうして叶斗の抵抗をものともせず、強引に唇を奪った。

(こいつ、また…っ!)

どうにか離れるため腕を突っ張ろうとするが、そんな叶斗の抵抗をあざ笑うかのようにさらに引き寄せると、叶斗の口内をこじ開け、熱い舌が入ってきた。

「ん、…っ…や、めっ…」

2年前よりもさらに長く濃厚なキスが続き、上顎のゾクゾクする場所を何度もなぞられる。
次第に抵抗する力が入らなくなってきて、ついに叶斗の膝がくず折れても、しっかりと腰に回した腕はしゃがみ込むことを許してくれない。

「…っ、はぁ…はぁ…」

「彼らもまさか大事に囲ってきたあなたが、今俺の腕の中でこんな状態になってるなんて夢にも思わないでしょうね」

ようやく唇を離すと、村瀬は余裕の笑みで叶斗に話しかける。


「くそっ…はなせ…」

「力では敵わないでしょう?これからは俺があなたを守ってあげましょうか」

「誰が…!おまえだけは絶対嫌だ…っ」

どこまでも上からな発言をする村瀬に、そこまでして村瀬は自分のプライドをへし折りたいのだと叶斗は思った。
確かに悔しいが力では勝てない。だからといって心まで屈服するのだけは許せなかった。

「…そうですか」

静かに呟いた村瀬はおもむろに、叶斗のズボンのベルトを外し始める。

「…!?な、…っはな、せ…っ」 

「しー、あんまり音を立てると廊下に聞こえちゃう」

「…!」

叶斗が外の気配を気にしたその一瞬を狙って、村瀬は潤滑油のようなもので滑りを良くした指で叶斗のお尻に触れる。
いつのまにズボンは下ろされ、パンツの中に入った手は一直線に叶斗の、誰にも触れられたことのない蕾に触れる。

「や、…な、なに…っ」

戸惑う叶斗が必死に腕の中から抜け出そうとするのも構わず、とうとう指が中まで入ってきた。

「ぐ…ぅ…」

そのまま素早く中を広げるように動かすと、どこからか取り出した小さめのバイブを中に押し込んだ。

「え、…なに…?、ぅゔ……何か入っ…?っやめ…っ」

抱き込まれた状態では肘が曲がって力が入りづらいが、それでもなんとかしようと両腕で村瀬の胸を押す。

びくともしない村瀬はそのまま速やかにズボンを履かせると、叶斗の耳元に顔を寄せる。

「仕事が終わったらとってあげます。それまでは自分で取るなんてことしないように。もし取ったら、明日からはもっとひどいことしますよ」

「…く…っ」

(最低だ…こんな男だったなんて…っ)

悔しそうに睨みつけるその姿さえも楽しそうに見下ろすと、村瀬はようやくその腕から叶斗を解放した。
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