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戦時中の閑話
✴︎戦時中の大国アドラにて✴︎
「ランギール様、また前線に出られるのですか?」
「ああ、強い者が先頭を切ってこそ皆の指揮も上がるというものだろう」
「そんなこと言って、本当は彼と対峙したいだけでしょう」
「なんだ、分かっているのならいちいち聞くな」
「はぁ…これでいて戦法が完璧かつ力・剣技でも右に出る者がいないのだから憎らしい…」
ランギールの隣で愚痴をこぼすのは大国アドラの将軍ランギールの右腕、副官のマクシムである。
このとんでもなく有能な上官は、対戦中の小国ムーアの騎士に想いを寄せており、その圧倒的な強さだからこそ私情を挟める状況にマクシムは呆れすら感じていた。
「早く戦争を終わらせてこの手で囲みたい。だからこそ本気で戦法を考えているだろう?何も咎められることはないはずだ」
確かにこれまでもその優れた頭脳と身体能力で国に大きく貢献してきたが、今回の彼の本気度は凄まじく、これまでの比ではない。
(あーあ、あわよくば自分もかの麗人を捉えたいと思ってたんだけどな…)
マクシムだってまだ20代後半だ。
戦場で噂となっている小国ムーアの麗人を一目見たその時から、手に入れたいと欲を持ったのも束の間、隣の将軍の想い人だと知り何もする前から玉砕したのだ。
「戦争が終わったら俺にも会わせてくださいね」
「ああ、わたしの伴侶となるフレイスと顔を合わせる機会も多くあるだろう。その時はよろしくな」
「気が早すぎる…彼に拒絶されなければ良いですけどね」
嫌味の一つくらい許されるだろう。なんせ自分は口に出すこともできずに失恋するのだから。
そして戦後も、ランギールの屋敷で色気が追加されたその麗人に心を奪われつつも、同時に叶わない恋に歯軋りすることになることを彼はまだ知らない。
✴︎戦時中の小国ムーアにて✴︎
騎士として順調に技術を磨いてきたフレイスは、それでもこの戦争が無謀であることにどこかやるせなさを感じていた。
現在のムーアの国王は、財政難を他国のせいにし、戦争を仕掛けられたと嘘の大義名分とともに国民を煽った。
大国アドラ相手といえど、他の国がムーアに加勢してくれれば勝算はあると思っていたのか、見事にそのアテが外れたおかげで現在ムーアは絶望的な状況に立たされている。
日々疲弊していく兵士たちを見て、少しでも傷つく者、死ぬ者が減るようにとフレイスは日々鍛錬を怠らなかった。
仲良くなった者が次の日にはいなくなっているという状況が日常茶飯事であるため、なるべく人と関わらないようにしようと心を閉ざし、数多話しかけてくる相手にもなるべく必要最低限の対応をするようにしていた。
「フレイス、剣の鍛錬だろ?俺も付き合うぜ」
不意に声をかけてきたのはアースだ。
こんな状況の中でも幼馴染のアースだけは、昔から一緒にいたこともあってフレイスが唯一行動を共にする相手だった。
「お前の兄貴、子どもが生まれたんだろ?」
「ああ、先月な。この前会ってきたがとにかくかわいいんだ」
「俺は赤ん坊を見て癒されてるフレイスを見たいけどな」
「なんだそれ。アースは赤ちゃんを見てないからそんなことが言えるんだ」
「ははっ」
アースは時々こういった冗談を言ってくる。
家が隣同士でほとんど一緒に育った彼は、1歳しか歳が離れていないのに今だに自分のことをかわいい弟のように思っているのだ。
子供扱いされたようで憮然とするフレイスの頬をつつき、アースは楽しそうにしている。
「でも本当に、かわいいんだ…姉さんもこの前結婚したし、こんな状況でも少しでも幸せを噛み締めないとな」
「そうだな。…俺は、もちろんお前にも死んでほしくない。いつも向こうのランギール将軍と剣を交えているだろう?心配でどうにかなりそうだ」
「うん…俺も、いつもなんで生きて帰って来れてるのかわからないよ」
「何度も言ってるが、俺も一緒に戦うのはダメなのか?」
「アース……すごく嬉しいけど、それはダメだ。なんとなく、俺自身の力を試されているような気がして…」
「まあ確かに、今俺らの部隊に剣技でお前に敵うやつはいないかぁ…」
「アースも充分強いじゃん。アースが怪我したら俺やだよ」
「あーもう、かわいいな~」
冗談めかしてギュウギュウと抱きついてくるアースに、フレイスも笑みをこぼす。
自分がここまで頑張って来れているのは、こうして気にかけてくれる仲間や、守りたいと思う家族がいるからだ。
戦争が終結したらどうなるのかなんて今はわからない。
それでも自分にできることは精一杯しようと決意を新たにするフレイスだった。
そしてランギールに対して1人で戦うと言ったフレイスの決断は正しかった。
仮にアースや他の人が助太刀に来ていたら、嫉妬に駆られたランギールにひどい返り討ちをくらっていただろう。
知らず1人の命を助けていたフレイスだが、戦後アースと連絡を取りたいとランギールに伝えたことで嫉妬した彼に散々犯されることを彼はまだ知らない。
「ランギール様、また前線に出られるのですか?」
「ああ、強い者が先頭を切ってこそ皆の指揮も上がるというものだろう」
「そんなこと言って、本当は彼と対峙したいだけでしょう」
「なんだ、分かっているのならいちいち聞くな」
「はぁ…これでいて戦法が完璧かつ力・剣技でも右に出る者がいないのだから憎らしい…」
ランギールの隣で愚痴をこぼすのは大国アドラの将軍ランギールの右腕、副官のマクシムである。
このとんでもなく有能な上官は、対戦中の小国ムーアの騎士に想いを寄せており、その圧倒的な強さだからこそ私情を挟める状況にマクシムは呆れすら感じていた。
「早く戦争を終わらせてこの手で囲みたい。だからこそ本気で戦法を考えているだろう?何も咎められることはないはずだ」
確かにこれまでもその優れた頭脳と身体能力で国に大きく貢献してきたが、今回の彼の本気度は凄まじく、これまでの比ではない。
(あーあ、あわよくば自分もかの麗人を捉えたいと思ってたんだけどな…)
マクシムだってまだ20代後半だ。
戦場で噂となっている小国ムーアの麗人を一目見たその時から、手に入れたいと欲を持ったのも束の間、隣の将軍の想い人だと知り何もする前から玉砕したのだ。
「戦争が終わったら俺にも会わせてくださいね」
「ああ、わたしの伴侶となるフレイスと顔を合わせる機会も多くあるだろう。その時はよろしくな」
「気が早すぎる…彼に拒絶されなければ良いですけどね」
嫌味の一つくらい許されるだろう。なんせ自分は口に出すこともできずに失恋するのだから。
そして戦後も、ランギールの屋敷で色気が追加されたその麗人に心を奪われつつも、同時に叶わない恋に歯軋りすることになることを彼はまだ知らない。
✴︎戦時中の小国ムーアにて✴︎
騎士として順調に技術を磨いてきたフレイスは、それでもこの戦争が無謀であることにどこかやるせなさを感じていた。
現在のムーアの国王は、財政難を他国のせいにし、戦争を仕掛けられたと嘘の大義名分とともに国民を煽った。
大国アドラ相手といえど、他の国がムーアに加勢してくれれば勝算はあると思っていたのか、見事にそのアテが外れたおかげで現在ムーアは絶望的な状況に立たされている。
日々疲弊していく兵士たちを見て、少しでも傷つく者、死ぬ者が減るようにとフレイスは日々鍛錬を怠らなかった。
仲良くなった者が次の日にはいなくなっているという状況が日常茶飯事であるため、なるべく人と関わらないようにしようと心を閉ざし、数多話しかけてくる相手にもなるべく必要最低限の対応をするようにしていた。
「フレイス、剣の鍛錬だろ?俺も付き合うぜ」
不意に声をかけてきたのはアースだ。
こんな状況の中でも幼馴染のアースだけは、昔から一緒にいたこともあってフレイスが唯一行動を共にする相手だった。
「お前の兄貴、子どもが生まれたんだろ?」
「ああ、先月な。この前会ってきたがとにかくかわいいんだ」
「俺は赤ん坊を見て癒されてるフレイスを見たいけどな」
「なんだそれ。アースは赤ちゃんを見てないからそんなことが言えるんだ」
「ははっ」
アースは時々こういった冗談を言ってくる。
家が隣同士でほとんど一緒に育った彼は、1歳しか歳が離れていないのに今だに自分のことをかわいい弟のように思っているのだ。
子供扱いされたようで憮然とするフレイスの頬をつつき、アースは楽しそうにしている。
「でも本当に、かわいいんだ…姉さんもこの前結婚したし、こんな状況でも少しでも幸せを噛み締めないとな」
「そうだな。…俺は、もちろんお前にも死んでほしくない。いつも向こうのランギール将軍と剣を交えているだろう?心配でどうにかなりそうだ」
「うん…俺も、いつもなんで生きて帰って来れてるのかわからないよ」
「何度も言ってるが、俺も一緒に戦うのはダメなのか?」
「アース……すごく嬉しいけど、それはダメだ。なんとなく、俺自身の力を試されているような気がして…」
「まあ確かに、今俺らの部隊に剣技でお前に敵うやつはいないかぁ…」
「アースも充分強いじゃん。アースが怪我したら俺やだよ」
「あーもう、かわいいな~」
冗談めかしてギュウギュウと抱きついてくるアースに、フレイスも笑みをこぼす。
自分がここまで頑張って来れているのは、こうして気にかけてくれる仲間や、守りたいと思う家族がいるからだ。
戦争が終結したらどうなるのかなんて今はわからない。
それでも自分にできることは精一杯しようと決意を新たにするフレイスだった。
そしてランギールに対して1人で戦うと言ったフレイスの決断は正しかった。
仮にアースや他の人が助太刀に来ていたら、嫉妬に駆られたランギールにひどい返り討ちをくらっていただろう。
知らず1人の命を助けていたフレイスだが、戦後アースと連絡を取りたいとランギールに伝えたことで嫉妬した彼に散々犯されることを彼はまだ知らない。
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