奴隷少女は旅をする

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真実

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あの店から出てしばらく歩いた。

変わらず彼女は下を向いたまま、無言で俺の横を歩く。

今日から俺がご主人様だ。

俺はそう言ったが、そんな関係になる気はない。

一応奴隷を飼いにきたという設定のために言ってみた。

まぁ、深い意味はない。










「ごほっ……ごほっ……」

しばらくしてから彼女は咳をし出した。

「ほら、ちょっと見せてみろ」

俺は彼女の胸に手を当てる。

誤解を生むかもしれんが、変な意味は一切ない。

俺の手から緑色の光が溢れる。

医療系の魔術には疎い方だが、仕方ない。

「………急性上気道炎か…」

まぁ、簡単に言えば風邪だ。

こいつに死なれても困る。

薬が必要だ。











一一一一一

「いらっしゃい」

「風邪に効く薬をくれ。金貨2枚だ」

「へいへい、ちょっとお待ち」

そういうと緑の薬を出す。

「……ふざけるな。金貨2枚でこの程度の薬だと?」

俺は睨みつける。

「ひ、ひぃっ!」

男は焦ったように赤の薬を出す。

「初めから出せ。めんどくさい」

俺は薬を持って店を出た。











しばらく歩き、宿に入る。

「ほら。これを飲め」

「………」

彼女はゆっくりと飲む。

「……っ苦い!」

初めて言葉を発する。

「なんだ話せるんじゃねぇーか」

俺は一安心する。

「我慢して飲め。そいつは薬だ」

「……薬?どうして私に……?」

「ああ?お前は風邪をひいているからだよ。酷くなっても困る」

「……私なんてどうなっても……」

「あーもう。いいからお前は風呂でも入っとけ」



なんやかんやで、風呂に入れて、ベッドで寝かした。



これでとりあえず静かになる。

俺も風呂に入った。





すぐには寝れそうにないため、ベランダの椅子に座りコーヒーを飲む。

明日から忙しくなりそうだ。






















「おはよう」

「………」

相変わらず無口だ。

「……たく、お前は。まぁいい、とりあえず下に行くぞ」








俺たちは飯を食べて、宿を出た。

「………どうしてご飯を食べさせてくれるの?」

「………飯食わねぇーと死んじまうだろ」

「………どうして……」

彼女の瞳から涙が溢れ出た。

「私は……生きる意味なんて……誰も私に生きて欲しいなんて思ってない……」

「それは違う」

「えっ…」

「俺はお前に生きていてほしい。それに……お前の母親もそう思っている」

「そんなことない!私の親は……私を道具としかみてない」

俺は彼女に目を合わせる。

「……いいか。いくら信じられねぇーとしても、これから言うことは紛れもない真実だ」

「………」

「たしかにお前は労働の道具として使われ、捨てられた」

「………」

「だがな。それはお前の“父親”がしたことだ。母親はお前を守ろうと必死だった」

「……っ!そんなの嘘だ!!誰も私を助けてくれなかった………手を差し伸べて………くれなかった………」

「………“出来なかったんだよ”。しなかったんじゃなくて。」

「………え?」

「お前は知らないと思うがな。あの人は病気だった。体が徐々に衰退していく珍しい病気だった」

「………何も言ってなかった……それに……そんな感じもしなかったよ!!それなのに……急に言われて信じられるわけないよ……」

「……あの人は……言えなかったし、見せたくなかったんだよ。自分が弱っていくところを。何故かわかるか?………お前に心配をかけたくなかったからだ」

「……え?」

「あの人はお前が無理矢理過剰な労働をさせられていたのを知っていた。自分がなんとかしないといけないことも知っていた。だが、今の体ではどうしようもできない。だからこそ……俺に頼みにきた……土下座を必死にしながら俺に言った。“娘を助けてほしい”と。自分で何もできないのが悔しいと泣いていた。自分を哀れだと言っていた。そして………お前に“幸せ”になって欲しいと心から願っていた。お前の母親は……お前のことが大好きで大切に思っていた」

「………」

「あの人の頼みで、俺はお前を助けにきた」

「………」

彼女は泣いていた。

涙は止まることを知らないように流れ続けた。

彼女には信じられないかもしれない。

だが、これは真実だ。

少しずつでも受け入れないといけない。

そして………あのクソ野郎父親を裁かないといけない。

俺はそのために来たのだから。

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