魔道の剣  ー王宮の鉱にまつわる悲話ー

広之新

文字の大きさ
16 / 41
第5章 ニールの港

裏街道の刺客

しおりを挟む
 ニールの港に向かってリーカーとエミリーは裏街道を進んでいた。そこは野原の中の一本道で身を隠すところはなかった。だが幸いなことに魔法の黒カラスは飛んでおらず、親子2人は誰にも知らせずまま港に入れるように思えた。

 野原の中に寝転んでいる男が2人いた。滅多に人の通ることのない裏街道で彼らは網をかけていた。そこにリーカーたちが通りかかった。

「おっ? 誰か来る」

 男の一人が気配を感じてが身を起こした。そして草の間から裏街道の方をのぞいた。

「ドン兄貴。親子連れが歩いていますぜ」
「親子連れ? どれどれ」

 ドン兄貴と呼ばれた男も身を起こした。彼も2人の姿をとらえた。

「何か、訳アリのようですぜ」
「うーむ・・・。もしかすると・・・。おい、ヤス! こいつは大物かもしれねえぜ」

 ドンは声を弾ませた。

「そうなんですか?」
「ああ、多分、あいつだ。リーカーだ」
「リーカー? あの妻殺しの?」

 ヤスが目を見開いて驚いていた。

「そうだ。ザウス将軍から俺たち賞金稼ぎに情報があった奴だ。生け捕りだろうが死んでいようがばく大な賞金が出るっていう事だ」
「じゃあ、早速ここでやっちまいましょう」

 ヤスは立ち上がろうとした。それをどんが右手で制した。

「ちょっと待て! 奴は魔法剣士らしい。それも手練れの。うっかり手を出したらこっちがやられてしまうぞ」
「じゃあ。指をくわえて見ているだけですかい?」

 ヤスが残念そうに言った。

「君子危うきに近寄らずだ。別の獲物を探すか・・・」

 ドンはそう言ってまた草むらに寝転んだ。するとその真上の空中に陰険な男の顔が浮かんでいるように見えた。

「ひいっ!」

 ドンは驚いて飛び起きた。するとその顔は降りてきて黒いマントとトンガリ帽の男の姿になった。

「な、なんだ! 貴様!」

 ドンとヤスはビビっていた。

「ふふふ。儂はウイッテ。お前たちに力を貸してやろうと思ってな」

 その男は魔法使いのウイッテだった。ドンが聞いた。

「力を貸すって、どういうことだ?」
「あのリーカーを討ち取りたいのだろう」
「ああ、しかし奴は魔法も使える。それじゃあ、敵わない。剣だけなら俺たちでやれるのだが・・・」

 ドンはあきらめたように言った。

「ははは。そんなことか。では奴が魔法を使えないようにしてやろう。それなら奴に挑むか?」

 ウイッテは不気味に笑って言った。

「そ、そうなのか? それはありがてえ。それならやってやるさ。」

 ドンは胸を叩いた。

「では手伝ってやろう。ただし魔法が使えなくなるのは、リーカーの周り10メートルだけだ」
「十分だ。それなら我らが討ち果てせる」

 ドンがそう言うとヤスはうなずいた。

 ◇◇◇◇

 王宮のワーロン将軍の執務室ではザウス隊長が情報を集めていた。

「リーカーはマールの町にいたらしいのですが、そこから姿を消したようです」
「マールか・・・。すると次はどこに?」

 ワーロン将軍は地図をじっと見た。ザウスは答えた。

「ツーロンの町かダーセン寺院、ヤハト村・・・そんなところでしょうか。」
「いや・・・奴は裏をかくはず。ニールの港かもしれん」

 ワーロン将軍の目が光った。

「まさか・・・かなりの難所を通らねばなりません」
「いや、だからこそ。人が通らぬからよいのかもしれん。マーカスに伝えて見よ」

 ワーロン将軍は確信に満ちてそう言った。

 ◇◇◇◇

 リーカーはエミリーとともに細い道を歩いていた。そこからはもう山に入る。その険しい山道を抜ければニールの港に着くはずだった。

「エミリー大丈夫か?」

 リーカーが声をかけるとエミリーはうなずいた。しかしその顔には疲労の色があった。

「少し休むか・・・」

 リーカーは大きな木の根元にエミリーを座らせた。そして魔法で水や食べ物を出そうとした。その時、リーカーは何かの気配を感じた。周囲に結界のようなものが張られている・・・そんな感じだった。

(なんだ? これは?)

 気が付くと魔法をかけたはずだが、水や食べ物は出ていなかった。リーカーは再び魔法をかけたがやはり何も出ていなかった。

(魔法が使えぬ・・・)

 すると矢が飛んできた。リーカーはすぐに剣を持つとそれを払った。それでも矢は次々に飛んできた。普段なら魔法の結界で防ぐところだが、それが使えないためエミリーを抱いて木の陰に隠れた。

「リーカー! 覚悟しろ!」

 リーカーの前に男が現れた。それは弓に矢をつがえたヤスだった。

「何者だ?」

 リーカーが声を上げた。

「賞金稼ぎのヤス! お前の首には懸賞金がかけられている。恨みはないが討たせてもらう!」

 ヤスは矢を放った。それをリーカーが剣で払った。ヤスはまた矢をつがえてじりじりと近づいてきていた。

(もう少し、接近してくれば、次に矢を放った瞬間に飛び出せば斬ることができる!)

 リーカーは間合いを図っていた。しかしリーカーの背後にもう一つ人影が迫っていた。それはナイフを投げ作ようとしているドンだった。リーカーが動いた瞬間、ナイフを投げて背中に突き立てようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...