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第2章 夏
第3話 万代の陣
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麻山城は万代の軍勢に責められていたが、まだ落ちなかった。城内の兵たちが必死の抵抗をしているからだ。毎日のように万代の兵が攻めかかるが、弓を射て、熱湯を浴びせ、石を投げた。敵がひるんだところを門から討って出て、さんざん破って追い払った。度重なる激戦で城門や塀は所々壊されていたが、戦いの合間になんとか補修して持ちこたえていた。戦いは膠着状態で城が落ちる目途は全くつかなかった。
その状況に敵の総大将、万代宗長は苛立ちを隠せなかった。
「まだ落ちぬのか! これほどの兵をつぎ込んで!」
陣中に彼の罵声が響いた。予想外の城内からの抵抗に万代家の重臣たちも打つ手を思いつかなかった。しかもそれ以上に深刻な事態に陥っていた。兵糧が底を突きかけてきたのである。あまりの多くの軍勢のため、山のように集められた米俵も乏しくなってきていた。それで兵に分配する米を減らすと当然、士気も下がってきた。万代の陣全体に厭戦気分が蔓延していた。そのため、この戦に無理にかき集められた国衆たちの中には、
「田植えの時期で人手が必要です。一旦、下がらせていただきます。」
と言い出して兵を引く者も少なくなかった。そのため陣の配置に不都合が生じ、城の包囲に穴が生じてきているのである。
「何とかならぬか・・・」
宗長は頭を悩ましていた。重臣たちは何の意見も出せず、ただ顔を伏せていた。だがその様子を見て、末席にいた者が前に進み出た。
「私に考えがございます。」
それは武藤三郎という新参者だった。忍びをよく使うということで、金で雇われた傭兵だった。だから金次第でどちらにも転ぶということで万代家の家中からは下に見られていた。
「どうするのだ?」
「城兵は必死になっており、城の守りは堅固。こちらも攻めておりますがことごとくはね返されております。このままではこちらが立ち枯れとなりましょう。それならこちらの隙を見せて、向こうから食いつかせましょう。」
「ほう。」
宗長はこの鋭い目つきの忍びの頭の顔を見た。いかにも腹に一物あるような海千山千の傭兵である。むやみに信用はできぬが頭が切れて腕は立つ。この者なら何か突破口を開けるかもしれない・・・宗長はそう思った。
「敵はこちらの兵糧が少なくなり、兵の数も減っているのをつかんでいるはず。こちらが退くのを待っておりましょう。」
「確かにそうだが。」
「ですのでその時が好機。敵自ら、城から出てきましょう。」
「なるほど。」
宗長はそれだけで三郎に言わんとすることをくみ取った。
「しかしあからさまでは敵の目はごまかせませぬ。時期を待たねばなりますまい。」
三郎の言葉に宗長は大いにうなずいた。
「それに私の見たところ、この辺りの情報を城内に伝える者がおります。多分、山嶽に隠れ住む東堂の息のかかった者でしょう。そ奴らの動きも封じる必要もあります。それは我ら忍びの者にお任せを。」
「よかろう。頼むぞ。」
「まずは山嶽に探りを入れまする。しばし我が一党はここから姿を消しますので・・・」
そう言うと三郎は不敵な笑みを残して戦評定の場から出て行った。
その状況に敵の総大将、万代宗長は苛立ちを隠せなかった。
「まだ落ちぬのか! これほどの兵をつぎ込んで!」
陣中に彼の罵声が響いた。予想外の城内からの抵抗に万代家の重臣たちも打つ手を思いつかなかった。しかもそれ以上に深刻な事態に陥っていた。兵糧が底を突きかけてきたのである。あまりの多くの軍勢のため、山のように集められた米俵も乏しくなってきていた。それで兵に分配する米を減らすと当然、士気も下がってきた。万代の陣全体に厭戦気分が蔓延していた。そのため、この戦に無理にかき集められた国衆たちの中には、
「田植えの時期で人手が必要です。一旦、下がらせていただきます。」
と言い出して兵を引く者も少なくなかった。そのため陣の配置に不都合が生じ、城の包囲に穴が生じてきているのである。
「何とかならぬか・・・」
宗長は頭を悩ましていた。重臣たちは何の意見も出せず、ただ顔を伏せていた。だがその様子を見て、末席にいた者が前に進み出た。
「私に考えがございます。」
それは武藤三郎という新参者だった。忍びをよく使うということで、金で雇われた傭兵だった。だから金次第でどちらにも転ぶということで万代家の家中からは下に見られていた。
「どうするのだ?」
「城兵は必死になっており、城の守りは堅固。こちらも攻めておりますがことごとくはね返されております。このままではこちらが立ち枯れとなりましょう。それならこちらの隙を見せて、向こうから食いつかせましょう。」
「ほう。」
宗長はこの鋭い目つきの忍びの頭の顔を見た。いかにも腹に一物あるような海千山千の傭兵である。むやみに信用はできぬが頭が切れて腕は立つ。この者なら何か突破口を開けるかもしれない・・・宗長はそう思った。
「敵はこちらの兵糧が少なくなり、兵の数も減っているのをつかんでいるはず。こちらが退くのを待っておりましょう。」
「確かにそうだが。」
「ですのでその時が好機。敵自ら、城から出てきましょう。」
「なるほど。」
宗長はそれだけで三郎に言わんとすることをくみ取った。
「しかしあからさまでは敵の目はごまかせませぬ。時期を待たねばなりますまい。」
三郎の言葉に宗長は大いにうなずいた。
「それに私の見たところ、この辺りの情報を城内に伝える者がおります。多分、山嶽に隠れ住む東堂の息のかかった者でしょう。そ奴らの動きも封じる必要もあります。それは我ら忍びの者にお任せを。」
「よかろう。頼むぞ。」
「まずは山嶽に探りを入れまする。しばし我が一党はここから姿を消しますので・・・」
そう言うと三郎は不敵な笑みを残して戦評定の場から出て行った。
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