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第2章 事件
前夜
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通り魔事件の捜査は進んでいなかった。すべての可能性を疑い、関係する多くの人に当たった。そして不審者も徹底的に洗い出した。それでも容疑者は捜査線上に浮かんで来なかった。すべての捜査員に焦りの色が浮かんでいた。
そんな状況で日曜日に私的な時間をくださいとはなかなか言い出せなかった。捜査員すべてに緊張感がみなぎり、ピリピリした雰囲気だった。だが結奈のため、班長の倉田警部補に思い切って言ってみた。
「班長。少しお話が・・・」
倉田班長も忙しくしていた。この事件が解決するまで休む時間などないように見えた。
「藤田。なんだ? 何かあったのか?」
倉田班長は私より少し年上ぐらいだが、面倒見のいい親分肌の人だった。いつも部下任せにせず、率先して捜査に当たってきた。
「すいません。言いにくいのですが、明日の昼、私用で少し開けさせていただきたいのですが・・・」
私は恐縮しながら言った。
「用事か?」
「いえ、娘の運動会に少しだけ顔を出したいと思いまして・・・」
私は正直に言った。すると倉田班長は大きくうなずいた。
「そうだった。お前のところの娘さんはまだ小学生だったな。行ってやれ。こんな時期は子供にとって大事で、もうないのだからな。俺のところなんて子供たちに煙たがられてな。」
私はホッとした。それだけでなく倉田班長はこうも言ってくれた。
「そうだ。今日はもう帰れ。久しぶりに家族で夕食を取ったらどうだ。娘さんとは最近、話ししてないだろう。俺もそうだったからわかる。早く帰って家族団らんして来い。」
倉田班長は笑顔で言ってくれた。私はその言葉に甘えて、その日は早く帰ることにした。
こんなに早く帰ることはかなり久しぶりだった。
「ただいま。」
すると玄関に出て来た理恵が目を丸くして驚いていた。
「今日はどうしたの?」
「班長の計らいで早く帰してくれた。家族団らんして来いって。明日の運動会にも行けそうだ。昼の時間だけだけど。」
私はそう言った。それを結奈は聞いていた。
「やったー! パパ!」
結奈が駆け寄ってきた。私はぐっと彼女を抱き上げた。声を聞いたのはいつぶりだろうと思いながら。そして心なしか結奈は重くなったような・・・子供の成長は早いものだと痛感した。
「明日は運動会に行くからね。」
「本当! がんばるからね。かけっこで一等取るから。」
結奈はそう言った。その場面は理恵が撮った動画で我慢するとして・・・。
その夜、私は久しぶりに家族3人で夕食を取ることができた。理恵は張り切ってご馳走を作り、私はビールを飲んで少し酔った。結奈はかなりうれしかったようでたくさんしゃべっていた。日頃、話すことの少ない私にいろいろと聞いて欲しかったようだ。
「学校ではね・・・」
「友達の美香ちゃんはね・・・」
私はそれをふんふんと聞いていた。それらは初めて聞く知らないことばかりであり、たまにはこうして聞くのも悪くないと思った。理恵はそれを聞きながら相槌を打っていた。彼女にとっては聞きなれた話であるに違いないが・・・。いつもこうして話をして結奈のことを知っているのだろう。
お風呂の後も結奈は話していたが、そのうちに疲れたのか、ソファで寝てしまった。その寝顔はいつものぞき見ている時よりあどけなく見えた。
「よく寝ているわね。」
理恵がそう言いながら結奈にタオルケットをかけた。
「あまりしゃべりすぎて疲れたんだな。」
「あなたがいるからよほどうれしかったのだわ。」
理恵は結奈の頭を優しくなでていた。こうしてみると私は仕事に追われてろくに結奈に構ってやれてないと痛感した。日曜日で他の家族が遊びに出かける時も、私はそうできなかった。理恵が結奈を遊園地とか、動物園とかに連れていているようだが、そこにも私はいなかった。そればかりではない。日常もそうだ。仕事で家を空けることも多く、帰って来ても深夜、出かける時は早朝、結奈と話すことも少ない。パパとしては失格だ。その分、理恵が頑張ってくれているのだろう・・・。
「いつもすまないな。」
私はポツリと言った。
「え、なに?」
いきなりの私の言葉に理恵は聞き返した。
「いや、いつも放っておいて。」
その言葉に理恵は微笑んだ。
「仕方がないわよ。あなたは刑事だもの。それを承知で結婚したのよ。結奈だってわかっているわ。あなたは何も心配しないで仕事に頑張って・・・」
理恵はそこまで言って私をじっと見た。
「でもその分、できる時はちゃんと家庭サービスはしてね。」
「わかっているさ。」
私はそう答えた。私にもきちんと家庭での役割を果たして欲しいというのが理恵の本音かもしれない。その時、壁時計が10時を知らせた。
「もうこんな時間ね。明日早いんだからもう休んだらどう?」
「そうだった。昼に抜ける分、朝にやっておくことが多くてな。運動会の応援もしなくてはならないし、もう寝るか。」
私はそっと結奈を持ち上げて子供部屋まで運び、ベッドに寝かせた。そこに理恵は布団をかけた。
「本当によく寝ているわ。」
「ああ。これだけ寝ていたら明日は一等賞かもな。」
そう言って私たちは子供部屋を出た。
その夜はゆっくりと楽しく過ごすことができた。久しぶりの家族3人での楽しい夕食・・・だがそれが3人のそろう最後の晩餐になるとはその時は思いもしていなかった・・・。
そんな状況で日曜日に私的な時間をくださいとはなかなか言い出せなかった。捜査員すべてに緊張感がみなぎり、ピリピリした雰囲気だった。だが結奈のため、班長の倉田警部補に思い切って言ってみた。
「班長。少しお話が・・・」
倉田班長も忙しくしていた。この事件が解決するまで休む時間などないように見えた。
「藤田。なんだ? 何かあったのか?」
倉田班長は私より少し年上ぐらいだが、面倒見のいい親分肌の人だった。いつも部下任せにせず、率先して捜査に当たってきた。
「すいません。言いにくいのですが、明日の昼、私用で少し開けさせていただきたいのですが・・・」
私は恐縮しながら言った。
「用事か?」
「いえ、娘の運動会に少しだけ顔を出したいと思いまして・・・」
私は正直に言った。すると倉田班長は大きくうなずいた。
「そうだった。お前のところの娘さんはまだ小学生だったな。行ってやれ。こんな時期は子供にとって大事で、もうないのだからな。俺のところなんて子供たちに煙たがられてな。」
私はホッとした。それだけでなく倉田班長はこうも言ってくれた。
「そうだ。今日はもう帰れ。久しぶりに家族で夕食を取ったらどうだ。娘さんとは最近、話ししてないだろう。俺もそうだったからわかる。早く帰って家族団らんして来い。」
倉田班長は笑顔で言ってくれた。私はその言葉に甘えて、その日は早く帰ることにした。
こんなに早く帰ることはかなり久しぶりだった。
「ただいま。」
すると玄関に出て来た理恵が目を丸くして驚いていた。
「今日はどうしたの?」
「班長の計らいで早く帰してくれた。家族団らんして来いって。明日の運動会にも行けそうだ。昼の時間だけだけど。」
私はそう言った。それを結奈は聞いていた。
「やったー! パパ!」
結奈が駆け寄ってきた。私はぐっと彼女を抱き上げた。声を聞いたのはいつぶりだろうと思いながら。そして心なしか結奈は重くなったような・・・子供の成長は早いものだと痛感した。
「明日は運動会に行くからね。」
「本当! がんばるからね。かけっこで一等取るから。」
結奈はそう言った。その場面は理恵が撮った動画で我慢するとして・・・。
その夜、私は久しぶりに家族3人で夕食を取ることができた。理恵は張り切ってご馳走を作り、私はビールを飲んで少し酔った。結奈はかなりうれしかったようでたくさんしゃべっていた。日頃、話すことの少ない私にいろいろと聞いて欲しかったようだ。
「学校ではね・・・」
「友達の美香ちゃんはね・・・」
私はそれをふんふんと聞いていた。それらは初めて聞く知らないことばかりであり、たまにはこうして聞くのも悪くないと思った。理恵はそれを聞きながら相槌を打っていた。彼女にとっては聞きなれた話であるに違いないが・・・。いつもこうして話をして結奈のことを知っているのだろう。
お風呂の後も結奈は話していたが、そのうちに疲れたのか、ソファで寝てしまった。その寝顔はいつものぞき見ている時よりあどけなく見えた。
「よく寝ているわね。」
理恵がそう言いながら結奈にタオルケットをかけた。
「あまりしゃべりすぎて疲れたんだな。」
「あなたがいるからよほどうれしかったのだわ。」
理恵は結奈の頭を優しくなでていた。こうしてみると私は仕事に追われてろくに結奈に構ってやれてないと痛感した。日曜日で他の家族が遊びに出かける時も、私はそうできなかった。理恵が結奈を遊園地とか、動物園とかに連れていているようだが、そこにも私はいなかった。そればかりではない。日常もそうだ。仕事で家を空けることも多く、帰って来ても深夜、出かける時は早朝、結奈と話すことも少ない。パパとしては失格だ。その分、理恵が頑張ってくれているのだろう・・・。
「いつもすまないな。」
私はポツリと言った。
「え、なに?」
いきなりの私の言葉に理恵は聞き返した。
「いや、いつも放っておいて。」
その言葉に理恵は微笑んだ。
「仕方がないわよ。あなたは刑事だもの。それを承知で結婚したのよ。結奈だってわかっているわ。あなたは何も心配しないで仕事に頑張って・・・」
理恵はそこまで言って私をじっと見た。
「でもその分、できる時はちゃんと家庭サービスはしてね。」
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私はそう答えた。私にもきちんと家庭での役割を果たして欲しいというのが理恵の本音かもしれない。その時、壁時計が10時を知らせた。
「もうこんな時間ね。明日早いんだからもう休んだらどう?」
「そうだった。昼に抜ける分、朝にやっておくことが多くてな。運動会の応援もしなくてはならないし、もう寝るか。」
私はそっと結奈を持ち上げて子供部屋まで運び、ベッドに寝かせた。そこに理恵は布団をかけた。
「本当によく寝ているわ。」
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