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第4章

⑤ 才能ある二人

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「いいんですか、仙崎先輩?」

「はははは、先輩か。いいな、そうやって呼ばれるのも」

「だけど、女神様のあの様子じゃ、私たち仲良くやってる場合じゃなかじゃないですか?」

「女神は女神で勝手にやってればいいさ。上司の仲が悪いとき、部下はどっちにつくか選択を迫られるようなことがあるけど、今のご時世、味方についた恩を返してくれる上司なんてまずいないからね。上司のケンカなんて無視するのが一番いいのさ」

 まあ、とくに私は会社では底辺扱いだったから、誰かの味方についても損をしたことしかないしね。



「そうだ、アカシアさん」

「何どす」

「勇者を増やせば社会貢献ポイントがたまるんだったよね。彼らの成長を手助けすることも勇者を増やすということにはならないだろうか?」

「もちろんなります。このような展開は想定しとりませんで申しまへんでしたが、彼が一人前の勇者……すなわちレベル60を超えたとき、あなたは限界を突破することができます」

 レベル60で一人前ということなのか。

「ということなんだけど、きみたちはどうかな? 私はきみたちを手伝うことでメリットがある。きみたちも不慣れな魔界でどう過ごせばいいかあまり困らないで済む」

 いきなりなので彼らも返答に困ってしまったようだ。

「まあ、そうしてくれないと困るってわけじゃないから、きみたちの都合に任せるよ」

 もしかしたら年頃の二人だから、邪魔になるかもしれないし。

 とくに女の子のほうは、勇者の青年に気があると思われる。

 彼はかっこいいからな。

「いや、ぜひお願いします、仙崎先輩。そのほうがいいだろう、京香」

「ええ、そうかもしれんちゃけんが……女神様が何て言うか……」



「よろしいざますよ」

 即座に女神トゥリネが答えた。

「勇者アスラン、あなたは年をとったことで以前のような狭量さがなくなったざます。このヤリマンのクソBBAに仕える勇者とは思えないほどざます。マルティナが一緒でないというのであれば、勇者アスランに悠希を預けるざます」

「え、女神様がついてきちゃいけないの?」

「当たり前ざます。こんなビッチと同行させたら、勇者がバカに育ってしまうざます」

「ああ? ビッチはあんたですわ!」

「ビッチ! ビッチ! ビッチ!」

「ヤリマン! ヤリマン! ヤリマン!」

 またかよ……



「さあ、目的がはっきりしたならさっさと魔界へ向かわれるがよろしゅうおすえ」

 アカシアが促した。

 そうだな。

 私についている女神も美人だけどあんまり好感もてないし、一緒についてくるとなると面倒がありそうな気がする。

「勝手に話を進めちゃったけど、いづなとファラナークさんも大丈夫かな」

「ダーリンのお考えに反対するはずなどありません」

「アスランが限界突破できるならいうことなしじゃない」

 というわけで、口喧嘩を続ける女神たちを無視して私たち五人は魔界へ向かった。



「うわー、ここが魔界ですか」

「空が赤うなっとるばい。どうなっちょるけんが?」

 初めて魔界に降り立った二人は魔界の異様な光景に息を呑んでいた。

「レベルアップのためには、やはり魔物を倒していかないといけない。私も初めてのときはよくわからないまま戦って死にかけたから、弱いと聞いている魔物でも油断せずに戦うことが大切だ」

 ここは私が初めて魔界に降り立った場所だ。

 いづなに魔物が弱いからと勧められた。

「そうですね。わかりました仙崎先生」

「先生?」

「先輩って言ったらなんか優しくて仲良くしてくれそうな感じなんで。先生のほうが厳しく指導してくれると思ったんです。なめてかかって死ぬわけにもいかないですし」

「な、なるほどな」

「仙崎先生、よろしくお願いします」

 京香ちゃんもたどたどしさを含みながらも頭を下げてくれた。



「ダーリン、レベルアップが目的であればもっと強くて経験値の稼げる場所のほうがよいのではないでしょうか。彼らが戦わずとも同じパーティーであれば経験値は入ります」

 いづなは勇者の教育に賛成しつつも、さっさとこのような遠回りは終えたいようだ。

「レベルを上げることだけならそれでいいかもしれないけど、ステータスに現れない戦闘の勘みたいなのはあるからね。この辺りはじっくりと戦っていかないと身につかないと思うんだ」

 別に私が戦いに優れているとは思わないが、ステータスでゴリ押しできる敵とばかり戦ってきたわけじゃない。ステータス以外の要素も重視すべきだ。

「なるほど、ダーリンの深慮にまで及ぶことができませんでした。さすがダーリンです」



「仙崎先生、いづなさんって先生のことダーリンって呼んでますけど、どういう関係なんですか?」

「え?」

 即座に妻とは答えられなかった。

 やっぱり年齢差があると後ろめたいものが……



「私は仙崎様の妻です」



 いづながさっと自己主張して、腕を組んできた。

「ええ!!?」

 悠希くんと京香さんはやはり驚いた。

「いづなちゃんは私より年下ばい?」

「私たちは愛し合っているのです」

 うううう……魔王を倒すという壮大な目標を掲げながら、不純なことをしてしまっているようでいたたまれなくなる。

 いづなと結婚したのは事実なんだから、こんなこと考えてちゃダメなんだけど。

 二人は顔を赤らめながら顔を見合わせていた。



「ファラナークさんは?」

「私はアスランの愛人よ」

「え!?」

 そんなこと言っちゃう?

 一番驚いたのは私だった。

 ぐわあああ! 若い子たちが軽蔑の眼差しでこっちを見ている!!

 ぎええええ! いづなの目が! いづなの目が!

「うふふふふ、冗談よ。だって、アスランといづなちゃんの結婚を勧めたのは妾なんだから。まあ、仲人ってところかしら」

 ファラナークはいたずらっぽく笑った。

「そ、そうなんですか……」

 悠希くんはほっとしたような顔をした。

 だけど、京香ちゃんは私を汚いものでも見るような目だ。そりゃ、若い子に手を出すおっさんって、普通はいい気しないよなぁ。



 なんだか微妙な空気感になったけど、ひとまず魔物たちと戦うことになった。

 悠希くんは、京香ちゃんから受け取った勇者の剣を使って戦う。

 どうやら剣を握るのは初めてのようでチャンバラすらしたことがないらしい。

「勇者のくせに、俺ださいっすねー」

 なんて言いながら、素直に私の指導に従ってくれるのは嬉しかった。

 しかし、女神トゥリネが才能あると言っていただけあって、一度コツをつかむとジャイアントイモムシくらいならすぐにノーダメージで倒せるようになった。

 その間、いづなは京香ちゃんに従者として勇者の戦いの補助のやり方を教えていた。京香ちゃんもみるみる成長していき、一時間もしないうちにこの周辺の魔物相手であれば楽勝という状態になった。

 さらに場所を変えて、もっと強い魔物のいる地域でも、彼らはばっさばっさとなぎ倒していき、どんどんレベルアップしていった。

 もちろん、思わぬ事態が起こるとか隙を見せてしまうことも少なくなかったが、私やファラナークが危ない場面を助けた。

 そして、日も暮れてきたころに二人のステータスを確認してみた。



【名前】    海江田 悠希

【職業】        勇者

【レベル】       18

【HP】     334098

【MP】     852356

【攻撃力】    15684

【守備力】    23984

【素早さ】    13689

【賢さ】     45763

【運の良さ】   83745



【名前】      鳥居 京香

【職業】      勇者の従者

【レベル】       23

【HP】      46563

【MP】     154456

【攻撃力】     2564

【守備力】     4212

【素早さ】     5234

【賢さ】     23576

【運の良さ】    4563



「これって、私のレベル18のときよりステータスかなり高いんじゃないか?」

「え、マジっすか?」

「京香様も非常に能力値が高いです」

「あ、ありがとうございます」

「さすが女神が才能があるって言っていただけあるね」

「じゃあ、俺が仙崎先生より先に魔王を倒せるなんてことも」

「海江田くん、それはちょっとなかよ」

 調子に乗りたがる悠希くんを、京香ちゃんが諫めた。

「いやいやいや、いいことじゃないか。とにかく魔王を一刻も早く倒してこの魔界を平和にしないといけないんだ。悠希くんが倒してくれたなら楽ができることは間違いない」

「アスランはもうおじさんだからね」

「だけど、そしたら先生の手柄が……」

「手柄なんてどうでもいいじゃないか。平和になることが一番だよ。そしたら私はいづなとゆっくり生活することができる」

「ダ……ダーリン♡」

 その言葉にいづなは喜んだが、若い二人はどん引きだったようだ。

「ま……まあ、いずれにしても、私は勇者として現在非常にまずい状態に陥ってしまっている」

「呪いでもかけられたんですか?」

「まあ、そんなものかな。だから、魔王を倒せるところまでいけないかもしれない。その時はきみたちに是非とも頑張ってほしい」

「わかりました……」

「あ、だからと言って私がさぼりたいわけじゃないんだよ。競争は成長を速めるからね。お互い競争しながら成長しあえることが望ましいと思う」

「は、はい! お互いに頑張りましょう。じゃあ、まずは俺が先生追いつけるようにしないと!」

 悠希くんは本当に素直な子だ。

 そして成長も速い。

 そんな彼を見て京香ちゃんも励まされている。

 きっといいコンビになるに違いない。



「そろそろ日も暮れそうね。今日はこのくらいにしましょう」

「そうだね、ファラナークさん。ドワーフにつくってもらった家が近いかな」

「ポータル登録してあるなら、竜王城だってすぐに行けるでしょう。竜王城がどうなったか心配だから見に行きたいの」

「なるほど、そうだね」

 我々の感覚ではあそこを離れて数日なのだが、人間界や神界に行ってるから結構な時間が経ってるんじゃないだろうか。

 みーはんは元気に竜王をやっているだろうか。

 やっぱり気になる。

「じゃあ、竜王城へ行ってみよう」

 若い二人も興味があるようだ。
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