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第5章

⑬ 生涯の友を

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「ううう……しかし、≪環境デトックス≫を使うと体内に魔素がたまるんだよな。今のところとくに身体に異常が現れたとかはないけど、なんだか気持ち悪いよなぁ」

「ちゃんとスキル確認してないからですよ。えっと……ほら、この辺り……あった、あった。このスキルがあるから大丈夫ですよ」

 秋穂は私のステータスウィンドウを開くと、慣れた調子でチェックしていき、ひとつのスキルを指した。



≪魔素変換≫



 へー、こんなのがあったんだ。

 魔素をいろいろなものに変換できるらしい。

 魔素から神素、素材、電気、HPやMPに変換できるらしい。

 これはなかなか便利だぞ。

 それから……精力?

『一日中やりまくっても漲り続ける男性らしさ! 妻も大満足!』

 なんでこういうのだけきちんとキャッチコピーがついてるんだろう。

「す……すごいですね」

「いやいやいやいや、あの……魔界では夫婦とはいえ、エッチなことはしないよ。秋穂さんは妊娠中なんだから身体を大事にしないと」

「わ、わかってますよ!」



 とりあえず、いろいろな素材をつくってみよう。

 このスキルはファラナークと同じものだと思う。

 何かの材料は魔素のある限り無尽蔵につくれるけど、複雑な機能をもった機械とかはつくれない。

 金属とか木材とかプラスチックとか糸とかつくってみた。

「いづなさんの≪合成≫のスキルがあればいいけど、私ももってないんですよね」

「ドワーフに渡したら、何か面白いものでもつくってくれるかな?」



 というわけで族長に聞いてみたところ、もち帰って数時間ほどでいろいろとつくってくれた。

「『勇者の妊婦帯』でやす」

 おお、お腹の赤ちゃんが大きくなってくるとその重みを支えてくれる帯だ。

「だけど『勇者の』ってどういうこと?」

「勇者の奥様が身につける以上はこの接頭辞は欠かせやせん」

「そ、そう……」



「それから『勇者のおむつ』」

「『勇者のベビーカー』」

「『勇者のベビーベッド』」

「『勇者のまえかけ』」

「『勇者の哺乳瓶』」

「『勇者のおまる』」

「『勇者の積み木』」

「『勇者のこいのぼり』」

「『勇者のひな人形』」

「『勇者の……』」

 とりあえず子供のためのあれやらこれやらをつくってくれた。

 なぜか『勇者の』という接頭辞がついてしまうし、ずいぶんと気の早いものも多くあるのだが、子供が生まれることを楽しみにしてくれているのがすごく伝わって嬉しかった。



「旦那。どうせなら魔石をつくられるとよろしゅうおやすぜ」

「魔石?」

「へえ。その力で空を飛べたり、水中にいつまでももぐれたり、石の種類によってさまざまな効果がありやすぜ」

 ラピュタの飛行石みたいなやつかな?

「その能力をどうやってつくり分ければいいんだい?」

「うーん、それはあっしにもわかりやせんな。でも、旦那は魔石がつくれることは間違いありやせん」

「そうか」

 とりあえず、残った魔素を使って魔力をもった石をつくってみた。

 それだけで屋敷と同じくらいの大きさの巨岩になった。

 外でつくっててよかった。

「ひえー、こんな大きな魔石ができるなんて。もち帰って分析してみますわ」

 族長はそのかけらをもってドワーフの洞窟へ帰って行った。



「仙崎様、占いの結果が出ましたわ」

 そこで声をかけてきたのは裕美子だった。

 仙崎様と呼ばれるとちょっと前のいづなを思い出す。

 凛としたところといい、ちょっと彼女に似たところがある。

 とはいえ、彼女ほど信頼がおけるほどの関係ではない。

 私は裕美子にひとつ頼みごとをしていた。

「占いによれば、この地へ向かうとよいと出ておりますわ」

「へえ」

 せっかくついてきてくれたのだから、得意だという占いを使う機会を与えてみることにしたのだ。

 裕美子は魔界の地図を指し示した。

 そこはまだ私が行ったことのない場所だった。



「は! ここは!」

 覗き込んで大声を出したのは族長の奥さんだった。

「ここはエルフの森ではありませんか!」

「はい。ここに仙崎様のご息女の封印を解く何かがあるようです」

 裕美子は断言した。

 私の『ご息女』と言ったが正確には、裕美子の夫が私の妻に産ませた子だ。でも私にとってはとても大切な娘だ。

「勇者様。エルフなどに関わってはなりません。あれは他種族を誑かして喜ぶ極めて性悪な者共です」

「え、そうなの?」

 エルフって人間よりも神に近いすごく美しい種族とかの設定が多いと思っていたけど。

 まあでも、ヨーロッパではエルフっていうといたずらする妖精ってのもあるからな。

「ここに行けば何とかなるのかい?」

「ええ。ただ、ここですべてが解決するかはわかりません。解決の光明が見えるだけです」

 そうなのか。

 ずいぶんと具体的だな。

 もっと適当なことを言うのかと思った。

 果たして裕美子の占いを信じるべきなのだろうか。

 私はしばらく考えた。

 その様子を秋穂が寂しそうに見ているのを私は気づかないでいた。



 その後はせっかくの転居初日なのでみんなで楽しく過ごした。

 湖で泳いだり、魔物を狩ったり、屋敷のお風呂でくつろいだり。

 それから夜になって寝た。

 私と秋穂は一緒のでっかいベッドで寝た。

 裕美子は同じ部屋だけど、隣に一人用のベッドを置いて寝ている。

 明日からまた冒険に出るんだ。

 とにかく秋穂には寂しい思いをさせたくないし、安心してここで過ごして元気な子を産んでほしい。

 エッチはできないけど、明日の朝まではできるだけ彼女と一緒にいたかったのだ。



 ――と、深夜。

 私はがばっと起きた。

 なんと、淫夢をみてしまったのだ。

 なんで? みーはんに見ないようにしてもらったのに!?

「うふふふふ。こんな真夜中にお元気ですね、仙崎さん」

「秋穂さん?」

「あー、またさんづけ」

「ご、ごめ……あれ?」

 みると私の腰は正座した秋穂の太ももの上にあり、淫夢によってがちがちになってしまった私のものが豊かな彼女のおっぱいに挟まれていた。

「何をしているんだ?」

「ぺろぺろぺろ……昔言ったじゃありませんか。私はそういう女なんです」

 その笑みはいかにも計画的だったようだ。



「仙崎さんのスキルを確認したとき淫夢耐性のところを≪秋穂と寝ると淫夢耐性がなくなる」って編集しておいたんです」

「な?」

「これまでたまった淫夢を大量に見せられて仙崎さんももうどうしようもないでしょう?」

「なんでこんなことを……?」

「だって、こうでもしないと仙崎さんエッチしてくれないでしょ。大切にしてくださるのはありがたいですけど、大切にされるだけじゃ女は喜びません」

 なんか、昔にも同じようなことを言われた気が……

「う……うう、だけど……きみは妊娠中なんだ。身体を大事にしないと」

「ええ、ですから乱暴なのはいや。優しく、ゆっくりお願いします」

「というか……」

 言いかけたところで秋穂の気持ちが理解できた。

 明日、私が人間界に戻れば、秋穂にとってそれはどれだけ独りぼっちの時間をつくってしまうことになるのだろう。

 人間界での一日は、魔界でのおよそ三年にあたる。

 ちょっと向こうに行っただけで、あっという間の時間が過ぎてしまっている。

 子供の出産に立ち会えないかもしれない。いや、きっとできない。

 かといって、秋穂のためにずっとここにいることも彼女は快く思わないだろう。



「私に、この世界でのあなたの奥さんである証明をください」



 秋穂は涙を流した。

 そうだ。

 今、ここで彼女に幸せをあげられるのは私だけなんだ。

 私は秋穂を抱きしめた。



 それから三時間余り――。

 それはあまりにもゆっくりと丁寧で、お互いを確かめ合うような時間だった。

「うふふふ。淫夢ってすごいんですね。あれだけやってもまだ元気じゃないですか」

 秋穂は満足げに私の股間のものをつついてきた。

「うううう……どうしよう」

「いいですよ。仙崎さんのがおさまるまで付き合いますよ」

「だけど……」



「私がお相手いたしますわ」

 そこへ割り込んできたのは裕美子だった。

「あうう、裕美子さん」

「私も実はこれを楽しみについてまいりましたの」

「やっぱりそうだったんじゃないですか!」

 勇者の鎧を産ませたときは乱れまくって喜んでくれてたからなぁ。

「私にもお子をお授けください」

 裕美子は丁寧に両手をついた。

 この行動は私を驚かせた。



「そして、秋穂さんのお子様の生涯の友となるような子を産ませてください」



「あ……」

 生まれてきた子供の友達……

 両方とも私が産ませたら腹違いの兄弟なんだけど……

 近くにはドワーフが住んでるけど、人間の友達はいたほうがいいよね。

 子供にも……そして秋穂や裕美子にも……



 私は秋穂を見た。

 秋穂はにっこりと笑ってくれた。

「私も魔界での友達が欲しいです」

「そうか……」

「というか、もうさっきからずっとお二人の様子を見ていたので我慢ができませんわ」

「うわー」

 私は裕美子に襲われた。



「そういうことであれば、私どもも秋穂様のお友達にしてください」

 真夜中の部屋に現れたのはドワーフの奥様メイド五人だった。

「「「「「ご奉仕させていただきます!」」」」」

 ドワーフたちも服を脱いで襲い掛かってきた。

「うわー」

 その後は裕美子も族長の奥さんもみんな乱れまくった。

 凄まじい8Pが繰り広げられた。



 翌朝。

「おや、フラフティンナ。今日はずいぶんとご機嫌じゃねえか。何かいいことあったのかい?」

 ドワーフの族長が奥様の様子を見て声をかけていた。

「昨夜は秋穂様達と楽しく過ごさせていただきました」

「へえ、そうなのかい。まあ、元気な子供を産んでいただけるようこれからも奥様のお世話をしっかり頼むぞ」

「はい」

 奥様はにっこりと微笑み返した。

 うう……ごめんね族長。奥さんとやりまくっちゃった。



 さて……

 もう人間界に戻らないといけないな。

 いづなたちを待たせ続けるわけにはいかない。

 だけど、秋穂と裕美子をここに置いてけぼりにしてしまって本当にいいのだろうか。

「私たちは大丈夫ですよ」

 振り返るとそこには秋穂と裕美子がいた。

 二人は手をつないでいた。

「私たちには友達がいますから、寂しくなんかありません」

 ま……まあ、そういう意味でも仲良くなっちゃったからね。

 だけど、いざここを離れようと思うと、なかなか勇気が出なかった。



 すると、秋穂はすっと歩み寄ってきて、私に唇を重ねてきた。

「たまにはいづなさんにもこうしてあげてください」

「あ……」

 こっちはこっちで夫婦らしいことは何もできていない。

「勇者は、どんなことにも勇気をもって立ち向かってください」

 それはどんな気持ちを込めたメッセージだったのかちょっとわからなかった。

 だけど、止まっているわけにはいかない。

「じゃあ、行ってくるよ」

「子供の名前、ちゃんと考えておいてくださいね」

「ああ」

 私は再び冒険に旅立った。

 そして、人間界へ向かった。
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