60 / 228
第三章 〜魔力覚醒 / 陰謀〜
55. 幻覚草⑴ side エイダン
しおりを挟む「僕とイザベラ様は、学園で同じクラスの同級生だったんですよ。義姉上も一つ上の学年にいたので、兄上と婚約する前から彼女の事も知っていました」
「───は?」
アルベルト達からそんな話を聞いた事がなかったので、エイダンはとても驚いた。
「はあ・・・知らなかったんですか?・・・まあ、兄上は昔から、基本的に医療研究と義姉上以外の人間に興味のない人でしたからね。義姉上も卒業待たずに結婚して学園を辞めてしまいましたし。でも、義姉上から聞いていてもいいくらいなのに、2人は一体どんな会話してたんです?」
アルベルトは呆れたようにエイダンを見た。
───王立魔法学園はエイダンにとって馴染みの薄い場所だった。
昔から人付き合いが苦手で医療研究にほとんどの時間を費やしていたエイダンは、学園に行っても自分の容姿に釣られて寄ってくる令嬢達にウンザリしていた。
幼い頃から薬学や医学を学んでいるエイダンには魔法以外の座学は簡単過ぎて必要とは思えず、学園の制度を利用してニ年目に卒業試験を受け、飛び級で卒業したのだ。
だから、三年次に新入生として入学してきたマリーベルには会えず、面識がなかった。
そしてそのまま王宮治癒魔法士になって邸を留守にしがちだったので、アルベルトの事を気にする事もなかった。
学園での接触ならこちらは立ち入れない。
次代を担う若者達が集う学園は標的にされやすい為、国全体で鉄壁の守りを固めている。
当時は王弟殿下も通っていた事から王家の影もつき、情報を得る為に近づくのは無理だ。
それ以前に、公爵令嬢が幻覚草を学園内に持ち込むなんて、誰が想像できるのか。
アルベルトの話によれば、イザベラとは顔合わせの日まで一切関わりがなかったらしい。
それが顔合わせ後、今後は親戚になるのだからと学園内でよく声をかけられるようになり、カフェでお茶したり等、親戚として親交していたのだとか。
その時に話題に上がるのはやはりエイダンとマリーベルの話で、エイダンの話をするとイザベラの表情が蕩けるように綻び、アルベルトがイザベラの気持ちに気づくのにさほど時間は掛からなかった。
そしてアルベルトが気づいたように、イザベラもまた、アルベルトのマリーベルへの想いに気づいた。
そこからイザベラは『叶わぬ恋をしている同士』などと味方のように、理解者のように振る舞い、言葉巧みにアルベルトを自分側へ引き込もうとした。
当時一つ上の学年にいたマリーベルを何度誘ってもイザベラとの茶会に来ない事から、姉妹関係がうまくいっていない事をアルベルトは知る事になる。
その理由も、すぐにアルベルトは理解した。
その頃からアルベルトはイザベラと兄の逢瀬を目撃するようになったのだ。そして、それに比例してマリーベルがどんどん憔悴していった。
だから学園でイザベラを問い詰めたのだ。
『いくら好きだからって姉の婚約者に手を出すなんてどういうつもり?兄上達はもうすぐ結婚するんだよ?』
『・・・人の道に外れている事は知ってるわ。でも、あの人に求められたら私は拒めない。だって好きなんだもの・・・っ』
『兄上の方から!?まさか・・・っ』
『エイダン様は私を好きだと言ってくれた・・・嬉しかったわ。お姉様とは私の父が勧めた婚約だから公爵に逆らえなかったと』
『兄上がそんな事を!?』
アルベルトはこの頃、とても混乱していた。
邸内で見るエイダンは誰がどう見てもマリーベルを愛している。なのにその足でイザベラとも逢瀬を重ねているのだ。一体どういうつもりなのかと。
アルベルトの中でエイダンへの兄としての尊敬や、家族としての愛情がどんどん崩れ去っていく。
残ったのはただ、『愛する人を苦しめる憎き男』という嫉妬と憎しみの感情だけ。
いつしか、苦しめるなら自分が彼女を幸せにしたいとアルベルトは思うようになった。ずっと奥底にある抑えきれない恋情が膨れ上がっていく。
だが目の前の愛する人が焦がれるのは別の男で、それを間近で見せられるアルベルトが精神的に追い込まれるのも無理はなかったのかもしれない。
現に同じように、エイダンもアルベルトへの嫉妬で狂っていったのだから。
その様子に、裏でイザベラがほくそ笑んでいたのも知らずに───。
ここまで聞いて、ようやくレオンハルトが口を開いた。
「恐らくそのイザベラは、学園内で幻覚草で作った紅茶をアルベルトに飲ませたんだろう。幻覚草による精神作用が顕著に表れてる。しっかし、手段を選ばないとは、彼女余程エイダンに惚れてたんだな。学生のガキんチョでその性悪ぶりは恐れ入るね」
「おお~怖っ」と、わざとらしく自分の体を抱え込んで震えて見せるレオンハルトに殺意が湧いた。
「だ~!魔力漏れてるよエイダン!嘘嘘っ、まじめに話すよ。ちょっと空気が重いから軽くしようとしただけじゃん!」
「そんなものはどうでもいい。幻覚草の精神作用についてさっさと話せ」
「わ~かったよ!だから威圧すんな!──幻覚草の作用は幻覚を見せるだけじゃなく、脳を収縮させて幻覚によって生じた負の感情を増幅させるんだ。疑心、嫉妬、恐怖、憤怒、あらゆる負の感情が増幅されて、やがて精神を崩壊させる。それで過去に帝国の部隊が内部抗争を起こしていくつも潰された経験がある」
疑心、嫉妬、恐怖、憤怒。
それらの感情は、
当時、まさにエイダンを狂わせたものだった。
────────────────────
また短編新作のお知らせです。
「私に触れない貴方は、もう要らない」
前作短編の主人公セイラのお友達の話です。
セイラとジュリアンも脇役でチラッと出て来ます。
もう一組の幼馴染同士で結婚した夫婦の行く末を書いておりますので良かったら読んでみて下さい(^ ^)
222
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
真実の愛の言い分
豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」
私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる