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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
91. 始まりの朝①
しおりを挟む「よし、準備できた」
制服のリボンを結び、ボレロ型のジャケットを羽織り、姿見の前で気を引き締める。
今日は、王立学園の入学式だ。
ルカディオと関係が切れてから、5年の月日が経ち、ヴィオラとクリスフォードは16歳になった。
この国で王立学園に通うのは貴族の義務。やっと王太子から王都に戻る許しが出たのだ。
───あれから、色々な事があった。
オルディアン領での植物性の紙は、何度も試作を重ねて前世の日本にあった紙に近いものが完成した。
あちらの世界とは違い、この世界に科学は存在しないので魔法頼りな所があったが、風魔法で乾燥させたりカットしたり、土魔法でプレスしたり、生活魔法程度しか使わないので多くの人材を雇う事ができた。
その結果、紙の生産業は薬と並ぶ一大産業へと発展し、オルディアン領の紙が一斉に国中に流通することとなった。
そしてジルとノアを師事し、5年間魔法訓練を続けたクリスフォードとヴィオラは、属性魔法を上級まで使いこなせるようになっていた。
無属性魔法も習得し、ヴィオラの念願だった医療版鑑定魔法や認識阻害魔法も習得した。
帝国との共同研究として皇帝と王太子が後ろ盾となり、エイダンとジルが主導で3年に及ぶ研究の末、魔法陣が完成し、更にオルディアン領産の紙に魔法陣転写という画期的な魔法技術も確立した。
これにより、帝国と王国の医療現場に革命が起こり、両国の死亡率が大幅に減少する結果となった。
この偉業の発案者がまだ成人していないヴィオラだという事は伏せられ、表向きはエイダンとジルの共同発案となっている。
これらも全て、クリスフォードとヴィオラが貴族達に目をつけられない為の措置だった。
学園に入学するにあたり、二人が選択したのは貴族科ではなく魔法士科を選択した。
皇弟ノアは認識阻害魔法で髪の色を茶色に変え、見た目もヴィオラ達と同じ年に見えるようにし、護衛兼クラスメイトとして二人と一緒に学園に通う事になった。
ノアの他に、帝国魔法士であるジャンヌを新たに護衛に加え、二人体制でクリスフォードとヴィオラを護衛する。
そしてノアの思いつきで王太子アイザックの指南役として王宮に常駐していたマルクも、王太子のはからいにより、魔法士科の教師として学園に潜入する事になった。
他にも王太子付きの王家の影を学園に忍ばせ、聖女出現に備えて万全の体制で挑む事となった。
コンコン。
「ヴィオラ、僕だよ。入っていいかい?」
ノックと共に、心地良いテノールの声が聞こえる。
「どうぞ」
声をかけると、ゆっくりと扉を開けて兄のクリスフォードが入ってきた。
肩まで伸びた長めの髪を後ろで一つにまとめて、横流しにした前髪の下から自分と同じアメジストの瞳がのぞいている。
美しい貴公子と謳われたエイダンによく似た面立ちで、すらりと長い手足、その黄金比のような均衡の取れたスタイルは、前世の世界でいうモデルか芸能人のような華やかさがあった。
きっと兄は入学式で令嬢の視線を釘付けにしてしまうだろうなとヴィオラは思う。妹から見ても美人な兄だ。
身長もノアには及ばなくてもヴィオラの頭ひとつ分高くなり、少年からすっかり青年の容姿に変化を遂げた。
そしてヴィオラも兄と同じくエイダンの美貌を受け継いでおり、母であるマリーベルと同じプラチナブロンドの髪色に、ウェーブがかった長い髪がフワフワと揺れ、その立ち姿は誰もが見惚れる程に綺麗だった。
「もう行けそう?馬車の用意が出来たよ。ノアたちも準備出来て玄関で待ってる」
「まだノア様を呼び捨てで呼ぶのが慣れないわ・・・」
「皇弟だってバレちゃダメなんだから慣れないと。ノアは僕らの護衛として一緒に学園に通うんだから」
「認識阻害魔法で私達と同じ年に見えるなんてすごいよね。長時間解けない無属性の最上級魔法だよ?私も早く使えるようになりたいなぁ」
「2時間くらいならヴィオラも使えるようになったじゃん」
「うん。でも解けたあと、魔力消費ですっごい疲れちゃうんだよね。もっと効率よく使えるようになりたい」
「じゃあ魔力操作の練習、もっと頑張らなきゃだね」
「うん。頑張るわ!今日から魔法士科の学生だものね」
「一緒に頑張ろう。さあ、もう出かけようか。入学式に遅れちゃうよ」
ほら、と言ってクリスフォードが手を差し出す。
ヴィオラはその手を取り、軽い足取りで兄と共に部屋を出た。
5年ぶりの王都。
久しぶりの王都の自室はあの頃と何も変わっていない。
廊下の窓から見える木々の隙間から、隣の建物が見える。
ルカディオとは、まだ会えていなかった。
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