私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

文字の大きさ
108 / 228
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

102. 接触

しおりを挟む




「ヴィオ、もうすぐ中間試験だから演習場で魔法の実技練習をしていこう」

「そうだな。名門オルディアン伯爵家の双子が成績悪かったらシャレにならないぞ? 気合い入れて勉強しろ」

「わかりました」



 ヴィオラの両脇をクリスフォードとノアが陣取り、その後ろをジャンヌが歩く。

 最近の移動時はこの体制で動くことが多くなった。


 廊下を歩けば生徒たちの視線を感じる。学園デビューを果たした麗しの双子兄妹に、美形の護衛が二人。

 容姿だけでも四人は目立っていた。


 入学式から人の視線が自分たちに集まっていたのは気づいていたが、最近は婚約者であるルカディオに冷遇されている令嬢として好奇な目で見られるようになってしまった。

 クリスフォードとルカディオが毎回言い争いをするため、寮生や帰宅途中の生徒に見られ、徐々に噂が広まってしまったのだ。



 面白がって見てくる者。

 クリスフォードの美貌に見惚れる者。

 ヴィオラに熱の篭った視線を送ってくる者。

 冷遇される令嬢として嘲笑してくる者。



 様々な視線がヴィオラに突き刺さり、ルカディオの件で消耗している心を更に抉る。

 噂に気づいて以降はクリスフォードも自重するようになったが、広まってしまった噂はどうしようもなく、ヴィオラは行動しづらくなってしまった。


 ルカディオとの仲もヴィオラの一方通行で終わるうちに、気づいたら彼に会いに行こうとすると足が震えるようになった。


 きっとまた、無視される。

 冷たい瞳で見られる。



 熱を失ったルカディオのあの瞳が、

 ヴィオラは何よりも怖かった。





 何の成果もなく時は過ぎ、焦燥感と疲労だけが募っていく。

 皆に心配をかけ、ただ守られているだけの事実にヴィオラは居た堪れなかった。

 自分も強くありたいと願うのに、うまくいかない。

 


「ノアも試験受けるの久しぶりなんでしょ? 恥ずかしい点数取らないでよ? 一緒に入学した以上、ブランクは言い訳にならないからね」

「はっ。言うじゃないか。従者の俺が本気出せばお前に恥かかせると思って遠慮しようかと思っていたが、そんな気遣いは無用らしいな」

「ノア様、むきになって大人げないですよ」


 三人の軽口にクスリと笑う。


 クリスフォードは、魔法で姿を変えたノアにすっかり慣れ、今は抵抗なく従者ノアとして接し、軽口まで交わせる仲になっていた。

 そして兄に煽られて大人げない態度を取るノアを、ジャンヌが諌めるという構図が出来上がっている。


 ヴィオラといえば、皇弟を自分たちの従者として扱うという恐れ多い設定に未だ順応しきれず、敬語とタメ口が入り混じった会話になっていた。

 それでも少しずつ新しい環境に慣れ、学業と魔法訓練については概ね順調に進んでいる。


 だが不穏の種は確実に芽吹き、今すぐヴィオラたちを絡め取ろうとその背後まで忍び寄っていた。





「嘘! ホントにクリスフォード・オルディアンが生きてる! 何で!?」


 演習場の入り口前に差し掛かったその時、背後から聞こえた甲高い声にヴィオラたちは固まった。

 突然かけられた暴言とも取れる言葉に、ヴィオラは頭が真っ白になる。流石のクリスフォードも驚きで目を見開き、言葉を失っていた。


 叫んだのはリリティアで、彼女の両隣にはヴィオラたちと同じく固まっているセナ・シーケンスとルカディオがいる。


 ノアとジャンヌが真っ先に動き、ヴィオラとクリスフォードを背に隠した。

 次に動き出したのはセナ・シーケンス。


「リリー、彼らは伯爵家の子息子女だ。そんな言葉使いをしてはダメだよ」

「あっ、ご、ごめんなさいセナ様。ちょっと驚きすぎてしまって……っ。本当にすみません。嫌いにならないで、セナ様」

「リリー、大丈夫。ちょっと失敗しちゃっただけだろう? 嫌いになんてならないよ」


 涙をポロポロと流し、セナのブレザーの裾をそっと握る姿は庇護欲をそそるもので、ペールピンクの髪にグリーンの大きな瞳は可憐で可愛らしく、同性からも見ても惹きつけられる容姿だった。

 そんな彼女の頭に、ルカディオの大きな手が優しく触れる。


 その触れ合いを見てヴィオラは愕然とし、胸が抉られるように痛んだ。


「泣くな、リリー。誰だって失敗することはある。君は貴族マナーを学んでいる最中なんだから、失敗から学んで次に生かせばいいさ」

「はい、ありがとうございます。ルカ様」




 ——ルカ様。


 今まで愛称で呼ぶのはルカディオの家族以外ではヴィオラだけだったのに、他の女性にそれを許し、優しく彼女の頭を撫で、優しい声で彼女を慰める。


 ずっと目を逸らしていたその光景を、無情にも目の前で見せつけられ、ヴィオラは目の前が真っ暗になる感覚に襲われた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

【完結】婚約者取り替えっこしてあげる。子爵令息より王太子の方がいいでしょ?

との
恋愛
「取り替えっこしようね」 またいつもの妹の我儘がはじまりました。 自分勝手な妹にも家族の横暴にも、もう我慢の限界! 逃げ出した先で素敵な出会いを経験しました。 幸せ掴みます。 筋肉ムキムキのオネエ様から一言・・。 「可愛いは正義なの!」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済み R15は念の為・・

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです

珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。 ※全3話。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

処理中です...