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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
129. 対峙
しおりを挟む「レイモンド・マッケンリー……っ」
怨嗟が募る声音で、父が祖父の名を呼ぶ。
狡猾で非情な男。
ヴィオラの母を冷遇し、一度もヴィオラたちに会いに来たこともなく、最後は娘のイザベラに全てを擦りつけ、簡単に親子の縁を切った男──
そんな人間と血が繋がっているのかと思うと、背筋に悪寒が走る。実の娘でさえ無慈悲に捨てられるのだ。
孫のヴィオラたちなど、情のかけらもないだろう。
ホール中央で他の貴族たちと談笑している祖父母を眺めていると、不意に彼がこちらを向いた。
誰かの息を呑む音が聞こえる。
「うわ……こっち来る」
隣のクリスフォードが嫌そうに呟き、ヴィオラの手を握る。
そしてエイダンが子供たち二人を背に庇い、その両サイドにノアとジャンヌが並び立った。
中年の男にしてはスラリとした長身で、威厳に満ちた風貌をしている。
濃い金髪にペリドットグリーンの瞳が彼の人を思い出させる。
継母イザベラと同じ色————
彼女は父親似だったのか。
祖父母がこちらに近づくほどに体温が下がり、心拍数だけが上昇していく。
あの女に似た顔を見て、植え付けられた虐待の恐怖が蘇り、手が震えてしまう。兄が握る手にギュッと力を込めた。その温もりに冷静さを取り戻す。
(大丈夫。私には味方がいる)
そして祖父母が、ヴィオラたちの前に立った。
「久しぶりだな、エイダン殿———いや、もう縁戚ではないからオルディアン伯爵と呼んだ方がいいかな?」
「そうですね。そうしていただけると助かります」
「ふ、相変わらず愛想のない奴だ。それが元義父に対する態度かね?」
「おや、貴方が俺を義息子として認めていたとは初めて知りましたよ。まあ、縁が切れた今ではどうでもいいですが」
「その物言いはなんですの!? 無礼だわ! 仮にも夫は公爵で貴方は伯爵でしかないのよ?」
「やめないか」
「あなた……っ、でも」
「黙れと言っている。お前が喋ると話が進まないだろうが」
「……っ」
公爵に冷たく見下ろされ、夫人は唇を歪ませて俯いた。その冷たい声色にヴィオラも少し萎縮する。
(やっぱり……似てる。あの他者を見下す目……その目を見ただけで為人がわかってしまうわ。絶対に関わりたくない)
ヴィオラが警戒心を強めている時、公爵の視線がノアとジャンヌを捉えた。
「君たちは帝国の魔法士か?」
「初めまして。魔法士団見習いのノア・バシュレと申します」
「同じく見習いのジャンヌ・ソルディです」
二人が公爵に礼を取る。
「なぜ帝国の魔法士見習いがここに?」
「私たちは医療鑑定魔法の共同研究でエイダン様の治癒魔法を拝見しまして、弟子入りさせてもらいました」
「なるほど。確かに彼の治癒魔法はこの国一番だからな」
エリアナたちとの一件後、あの時ジャンヌがついた「弟子入りした」という大嘘をそのまま通すことにしたそうだ。
容姿端麗、留学生、話題のオルディアン兄弟の護衛という目立つ要素しか持ち合わせていない二人であるため、今後も境遇を聞いてくる者は後を絶たないだろうと予測し、ジャンヌの嘘を採用した。
その方が後ろにエイダンと王家がついていることを示せるため、絡まれる心配も減るだろうという目論見も含まれている。
一つの嘘に、帝国との共同研究とエイダンが優れた治癒魔法士だという事実を混ぜれば、誰も疑いはしなかった。
現に目の前の公爵もあっさりと信じている。
そして、彼の視線はついにヴィオラとクリスフォードを捉えた。
「「……っ」」
二人同時に息を呑む。
繋いだ手から、兄の緊張が伝わる。
「君たち二人がヴィオラとクリスフォードか。二人の噂は私も聞いているよ。魔法士科で優秀な成績を納めているそうじゃないか。──魔力なしだと言われていたのが信じられんな」
「「「……っ!!」」」
揺さぶりをかけられ、全員に緊張感が走る。
それはエイダンや皇帝、王太子が内々に収めて秘匿したことだ。いくら小声とはいえ、こんな公共の場で軽々しく口にしていい話ではない。
しかも呪いをかけたのは公爵の娘であるイザベラだ。
罪人の父親がまるで他人事のように軽く口にしたことに激しい怒りを覚える。
「そうですね。貴方たちの娘には散々な目に合わせられたんで、解放された今は良い方向に進んでいますよ」
クリスフォードが公爵の挑発に乗り、悪態をつく。
ノアとエイダンが振り返り、表情だけで黙ってろと訴えているが、兄は止まりそうにない。
「お祖父様が僕たちの名前をご存知だったとは驚きましたよ。今まで僕らにまったく興味がないのだと思っていたので──」
「これはまた手厳しいな。これでも私は外務省の人間なんで一年の大半を国外で過ごしているんだ。だからなかなか時間が取れなくてね。──でも本当は一目会いたいとずっと思っていたよ」
体のいい言い訳をつらつらと述べているが、何一つ響かないのはその声になんの感情も乗っていないからだろう。
親しみなど全く感じない。それより自分の駒として役に立つのか品定めされているような視線を送られ、気分が悪くなった。
「そのプラチナブロンド……懐かしいな。ヴィオラはマリーベルの髪色を受け継いだのか」
──公爵の言葉に、父の纏う空気が逆立つのを感じた。
ヴィオラたちの母の人生は、そんな風にしみじみと語れるほど穏やかな人生を送ってはいない。
そんな境遇に追いやったうちの一人が、軽々しく懐かしんでいい人ではない。
「──……クソじじい……」
ヴィオラにだけ聞こえる声で、クリスフォードが冷たく言い放った。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
更新が遅れてすみません(汗)
今、仕事と事務処理に追われてて校正が追いつかないので、数日更新をお休みします。申し訳ありません。
誤字脱字が多くて申し訳ないです。こっそり直してるんですが、抜けがあったらすみません。
週末くらいにまた再開しますのでしばしお時間ください。
よろしくお願いします(^人^)
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