私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ

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第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』

193. 横取りしたのは誰① side リリティア

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「サネット男爵令嬢、君は聖女候補だろう?こんなところで油を売っていないで、今すぐ怪我人の治療をしてくれないか」

  
騎士団の仮設テントで休んでいると、王太子アイザックが無表情でリリティアを見下ろし、聖女として働けと命じてくる。

「で、でも私、さっきまで治癒魔法を使って魔力もないし、へとへとで……」

「なぜだ?君は魔物を一体も倒さずに逃げ回っていたと報告を受けているが? それに治癒魔法を使ったという割には、私の弟や世話役の者たちは重傷のままだったが、一体何を治癒したのか教えてくれないか?」

「なっ……私はちゃんと治癒しました!彼らがここまで辿り着けたのは私のおかげですよ!?」

マルクの誘導の後、運の悪いことにリリティアたちはこのキャンプ地に辿り着くまで、生徒たちを保護しに散らばっていた治癒魔法士や騎士たちと合流できなかった。

それは自分たちが予定していた訓練地を外れて湖方面に向かっていたことが原因だが、怒られると思ったリリティアはそのことには触れなかった。

(そもそもマルク先生が途中で消えたのが悪いのよ!生徒を置き去りにして消えるなんて教師失格だわ!)

そのせいでリリティアたちはまた魔物と対峙することになり、命からがら後衛のキャンプ地に辿り着いたのだ。


もう疲れ過ぎて何もしたくない。

魔力不足で眠りたいくらいなのに、アイザックがそれを許さない。あえて触れなかったことを彼は見逃さなかった。

「他の生徒に比べて弟たちが重傷なのは、避難勧告が出ていたにも関わらず、君が森の奥まで誘導したからだと聞いている。一体なぜそんな馬鹿な真似をした?」

「そ、それは……っ」



精霊を探していたからだなんて言えない。

リリティアはイベント直前まで、一縷の望みをかけて精霊を探していたのだ。何としても聖女イベントを成功させたかった。

だがついにそれは叶わなかった。

精霊信仰のないこの国で本当の理由を言ったとして、信じてくれるわけがない。しかもそんな眉唾物の理由でこの国の第二王子に重傷を負わせたのだ。

流石のリリティアもそれがマズい状況だということは理解している。だから必死に治癒と回復魔法をかけ続けたが、悪化を防ぐことだけで精一杯だった。


「聞いているのか、サネット男爵令嬢。早く理由を述べよ」

アイザックの鋭い声がリリティアに刺さる。

「せ、聖女だから!皆の役に立ちたかったんです!このスタンピードから皆を助けたくて、だから原因を追求しようとして──」

手を胸元で組み、目元を潤ませてアイザックを見上げる。

大抵の男はこれで鼻の下を伸ばすのに、彼の表情温度はますます下がった。


「何を根拠にスタンピードを終わらせられると?」

訝しげな表情を浮かべ、少しも信用していない瞳がリリティアを追いつめる。

「も、森の奥に邪悪な力を感じたんです!それで……それが何なのか確かめたくて──」

嘘は言っていない。

実際に見てはいないが、森の奥にある湖がスタンピード発生源だ。シナリオではそうなっていた。


「はっ、君のそんな気まぐれに、弟たちをつき合わせて危険な目に合わせたと?逆に聞きたいのだが、訓練もまともにせずオスカーたちと遊び回っていた君に何が出来るんだ?」

「なっ……」

小馬鹿にしたように鼻で笑われ、リリティアは唖然とする。

ヒロインに対してこんな辛辣な態度を取るのはクリスフォードくらいだったのに、聖女を庇護する立場のアイザックまでもがリリティアを敵視している。

(なんで!?王太子もバグってるの!?)


「何も出来ない名ばかりの聖女候補だから、合同訓練に強制参加になったんだろうが」

「そんな言い方酷いわ!」

「何が酷い。君の面倒を見るのに、民の血税がどれほど使われているのか知っているか?君がオスカーに強請ったドレスや宝飾品は勝手に湧き出るものではない。婚約者でもない、たかが男爵令嬢が分不相応だと思わないのか」

自分はヒロインなのに、なぜこんなにバカにされなければならないのか、リリティアには理解できなかった。

この世界の主役は自分なのだ。

だからリリティアがどんな行動を取ろうと、モブたちはリリティアを引き立てるべきであり、このように糾弾するなどあってはならない。

シナリオと違う動きをするなど、許せるわけがない。


「私は聖女です!聖女は王族に準ずる立場だと大司教に教わりました!」

「確かに大昔の国法では、聖女の位はそう定められている。だが勘違いするな。今の君はあくまで聖女であって、まだ男爵令嬢にすぎない」 


(ムカつく……っ、この王太子、顔はいいけど性格は最悪だわ!)

「聖女だと言い張るなら、なぜそれに相応しい行動を取らないんだ?現役の王宮魔法士が教師になるなど、本来ならあり得ない。聖女育成を国策としたからこそ様々な機関で調整を重ね、作られた環境だった。それを君は無碍にしてオスカーと遊び回っていただろう?」

「それは教師が私に辛く当たって、厳しい訓練ばかり強制するから……っ」

「何を甘えたことを言っている。楽な訓練なんかあるわけないだろう。私も内容を確認したが、魔法士科の実技と大して変わらなかったが?」

 
リリティアを見下ろす表情は、己のやる気のなさを人のせいにするなと物語っている。


「同じ神に使えるシスターたちは勤勉だというのに、本当に君は女神の愛し子なのか?」

「私を疑っているんですか?私に聖女の資質があるのは魔力測定で証明されているはずです!」

「だが未だ聖女特有の魔法を使えていないだろう。資質だけでは聖女とは言えない。私は結果を出せと言っている」

「な……っ」

「今すぐ医療用テントに向かい、治療の手伝いをするんだ。君が本当に聖女候補だというなら、口だけじゃなくその行動で皆に示せ」



リリティアが怒りで我を忘れ、言い返そうとしたその時、耳をつんざくような咆哮が空気を揺らした。




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