220 / 228
第五章 〜ゲーム開始『君に捧ぐ愛奏曲〜精霊と女神の愛し子〜』
213. 裏にいる者
しおりを挟むリリティアと繋がっているのは邪神じゃない。
イザベラだ──
一つをきっかけに、木の枝が伸びるように次々と眠っていた記憶が呼び起こされ、線が結ばれていく。
ゲーム内では王位簒奪に加担するモブとして扱われていたが、身内として身近にいた自分にはわかる。
あれは、イザベラの復讐だ。
シナリオには語られていなかったが、きっとゲーム内でも父に顧みられることがなかった鬱憤を、ヴィオラたちにぶつけたのだ。
そしてクリスフォードを死に追いやり、邪神に堕ちてまでヴィオラの命を狙った。
他のルートの悪役令嬢は裁判を経て厳罰が下されたのに対し、ヴィオラが問答無用でルカディオに斬り殺されたのは、きっと中ボスだったイザベラの差し金だろう。
そうでなければ、ルカディオが騎士道に反することをするはずがない。
イザベラはヴィオラに直接手をかけるのではなく、愛する男に裏切られ、無惨に殺されるように仕向けた。ヴィオラの心を粉々に砕き、絶望の中で死なせるために──
姉への復讐を、代替品のヴィオラで果たしたのだ。
確証はない。
ゲームはフィクションだ。
でも全てが創作でもない。
以前女神は、この世界の人間が日本に転生して乙女ゲームを作ったのではないかと言っていた。神の預かり知らぬところで、稀に前世の記憶を持って生まれ変わる者がいると──
実際にイザベラに悪意を向けられてきたヴィオラは、ゲームのルカディオルートこそが実話ではないかと思えてしまう。
創作なのは各攻略対象と聖女の恋愛パートだけで、大まかなストーリーは史実に基づいているのでは?
「……それなら、暴動も実際に起こったこと……?」
スタンピードも現実に起こったのだ。
他の事件が起きてもおかしくない。
ヴィオラはそのまま部屋を飛び出し、兄の部屋に向かう。
扉をノックして何度も兄を呼んだ。
するとカチャリと扉が開き、目を擦りながら寝ぼけた兄が顔を出す。
「ヴィオ……? こんな夜中にどうしたの?」
そして夜着のまま立っている妹を見て目を丸くした。
「なっ、なんて格好で廊下にいるんだ!」
怒りながら慌ててヴィオラに自分が羽織っていたガウンを着せ、腰紐をギュッと締める。
「まったく。淑女が夜分に夜着のままウロウロするなんて……目の前にいるのが兄である僕だからよかったものの、他の男だったら大問題だよ!? いや、僕でさえノアの嫉妬の対象にされるから、ホントやめて」
完全に目が覚めたクリスフォードは、ヴィオラに淑女としての振る舞いをぐちぐちと咎めるが、それどころではないヴィオラは兄の言葉を遮った。
「思い出したの……っ、中ボスがイザベラ様だったこと!」
「──は?」
「リリティア様の裏にいるのは──たぶんイザベラ様よ」
クリスフォードは驚愕に目を見開いた。
◇◇◇
「あのクソババアが偽聖女の裏にいるってどういうこと?」
兄の部屋のソファに座り、話を続けた。
「リリティア様の魅了の話を聞いて、ずっと何か引っかかってモヤモヤしてたの。彼女はゲームのヒロインの人間性からかけ離れているのに、周りに持て囃されているのはなんでだろうって……」
「魔法じゃないとしたら、神力によるものだろうね。──なるほど。敵の敵は味方ってやつ? アレが裏にいるなら、ヴィオに対して無駄にヘイトが向けられたのも説明がつくかもしれない」
そうなのだ。
学園で悪女と呼ばれているのはヴィオラだけなのだ。
リリティアの周りには第二王子たちがいつも侍っているのに、ヴィオラ以外の悪役令嬢の話題は上がらない。
それがとても不自然に思えた。
あの苛烈な性格のエリアナたちが、リリティアを放っておくとは思えないのに、ヴィオラだけがスケープゴートにされている。
「まあ、ノアと婚約したやっかみもあるだろうけど──いや、ノアと婚約したから出てきたのか。あのクソババアにとって、僕らの存在は憎悪の対象だからね。特に同じ女で母と父の色を併せ持つヴィオラの幸せは尚更許せないだろう」
「うん……以前あの人が帝国で神力を使ったって聞いてたし、昔お父様とお母様に魔草を使って狂わせた人だから、洗脳とかもやりかねないかなって──」
「アレならやるだろうね。ほんとゴキブリ並みのしつこさだよな。いくらポンコツ父上でも、ゴキブリに二十年近く付き纏われたら流石に同情するよ。本気で毛根死滅魔法を開発しようかな。父上にかけたら百年の恋も冷めるかもしれないし」
ニヤリと笑いながらつぶやいた兄の言葉に、ヴィオラは思わず想像してしまい、吹き出しそうになるのを防ぐ。
「お兄様……真面目な話をしているのに……っ」
「結構本気だけどね? あのクソババアが父上を諦めれば問題の半分は片付くと思うし。まあ何にせよ、これからどうするかは朝になったらノアに相談してから決めよう。王太子殿下にも報告しないといけないだろうし」
そうだ──王太子殿下にも伝えなければいけない。
「ゲームでは、邪神との戦いの前に、聖女は二人の人物と戦うことになるの」
「その一人があのクソババアなんだよね。──もう一人は?」
「王弟殿下よ」
そして、これから暴動を引き起こすのも彼だ。
992
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる