いつかのフラストレーション

たいやき さとかず

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問1 青く澄み渡る冬を思い出せ。

4:親衛隊と不良

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 風紀委員長は扉を閉めるとソファには座らず壁に体を預けて腕を組んだ。「まずいことになったな」目を閉じて呟かれた神妙な声に生徒会長が肯定の声を上げた。
「ああ。……お前も、オレも、冷静さを欠いちまったな」
 端正な顔を顰める二人だが俺には何が何だかわからない。
「あの……」思わず声を上げると二人ははっとしたように俺を見た。
「ああ……すまん冴島。説明する」
 生徒会長が足を組んだ。
「この学園では生徒会みてぇな要職は、総合的なランキングによって決まってるってことは知ってるな」
「はい」
「ランキングは成績、生活態度……そして生徒による人気投票。実はこれが総合ランクにも生徒にも一番影響力が強い」
 そこで一旦切って、生徒会長が溜息をつく。
「自分で言うのもなんつーかあれだが、オレも鯨岐も生徒人気が高い。オレ達みてぇなやつらに起きる問題への対処として親衛隊ってのがいてな……正直そいつらがめんどくさい」
「榎城に先程の経緯は聞いたが……事故とはいえ生徒会長が一般生徒を公の場で押し倒し、風紀委員長が二人を風紀委員室へ連れて行ったことは大きい。親衛隊の一部がお前を理不尽に責め立てる可能性が高い」
 すまない、と言って風紀委員長が頭を下げた。
「い、いえ」
 俺は思わず否定の言葉を言った。
 素直な心を述べると、何て事をしてくれたんだと憤りを感じたし苛つきもした。
 この学園はランキングによりある程度物事が決まると学校説明にも書いてあったし、見学の時にも詳しく聞いた。過去にランキング上位者がランキング入りしていない外部生に接触した為に刃傷沙汰になった話は聞いていたが、まさか自分がその当事者になるかもしれないとは思っても見なかった。
 第三者から見ても俺が憤りを感じても仕方ないと言える。自分で選んだ学校とはいえ、怪我なんてしたくはない。その出来事から規則と取り締まりが厳しくなったとはいえ、可能性がある以上は恐ろしさを感じる。
 しかし頭を下げられると、俺はどうも弱いらしい。
「頭を上げてください」と早口で急かし、漸く頭を上げた風紀委員長にほっと息を吐いた。中学の時に数学の教師が頭を下げたときはこんな気持ちにならなかったが、これもイケメンだからだろうか。
「……兎に角だ」
 生徒会長が眉根を寄せながら俺を真正面から見た。
「起こっちまったのは仕方ない。オレと鯨岐とで取りあえずの対策を考えたから聞け、冴島」
 その〝対策〟に俺はフリーズした。



「な、何で大出がここに……!」
「アンタ謹慎中じゃなかったの?!」
「さっき解けた」
 チワワとマッチョ達が目を丸くして吠えたてる。その先には金色に光るリーゼントをもったイケメンがいた。
 彼の名は大出おおいで龍李たつり。俺のクラスメートであり、お隣さんであり、取りあえずの〝対策〟だ。
 大出は強面の結構なイケメンではあるが、狂暴的な性格と荒々しい行動、そしてリーゼントで生徒の人気はあまり高くない。けれど皆無というわけでもなく、そこそこ人気があり、そこそこ嫌われている、〝都合の良いブツ〟として学園のトップ2に選ばれてしまった可哀想な不良だ。
 俺が対処できない力による行使を止めるのが大出の役目だ。
 さっきも、どこからか出てきたマッチョ三名が俺に拳を振り上げた瞬間に茂みから出てきて、そのままマッチョ三名を華麗に蹴り飛ばしていた。
 俺が迫力のあるアクションシーンを思い出していると、大出は腕を組んで茂みの方へ―――正確には茂みの前に佇む生徒へ睨みを効かせていた。
「おい」大出が眉間に眉を寄せた。「戸爺」
 名を呼ばれてきょとんとした顔で大出を見つめたのは、先程からデュフデュフ言っていた眼鏡の生徒だった。名前を戸爺こじい利万としまという。
 大出はこれ以上反応しない戸爺をイライラしたように睨み付けた。
「分かった分かった!」戸爺が手を上げた。「あとでお説教だね! 分かってる!」
 大出がほっと息をついた。
 ―――正直彼らのことはよく分からないが、戸爺を見方と見ても良いのだろう。
 戸爺は笑顔でチワワ達を引きずった。まだ喚いている彼らをまあまあと宥めて遠くへ行く、この手腕は見事としか言えない。
「大変だな、お前も」
 チワワ達を見送っているとそんな呟きが横から聞こえる。
 驚いて大出を見ると眉間に皺を寄せた顰めっ面で、楽しそうに引き摺る戸爺を見ていた。つられるように俺も戸爺を見る。
 俺と変わらないだろう体格なのに、小柄とはいえ抵抗する人間二人を苦も無く引きずっている。俺も鍛えた方がいいのかもしれない、と思いつつ大出を横目で見た。一陣の風が大出の髪をなでると、彼は小さなため息をついた。
「迷惑かけてごめんな」
 ため息は俺に向けられたものでないのは分かっている。これは俺の自己満足だった。
 生徒会長と風紀委員長によると、大出は謹慎を解くことと要望を一つ叶えることを条件に俺を守る役目を受けたらしい。対等の取引だったとはいえ俺は何もしてやれてはいないし、これから迷惑をかけることになる。申し訳なかった。
 突然の謝罪に目を見開くが、瞬間、大出は鼻で笑った。
「俺は俺の目的でやってるだけだ。お前に気にされる謂れはねぇんだよ」
 そう言って大出は俺に背を向けた。
 強くはない、しかし確かな意思を感じる言葉だった。
 生え始めの青葉がさらさらと音を立てて揺れる。向けられた背は思った以上に広く逞しく、思わず俺は見惚れていた。
 広い背がゆらりと揺れた。風に乗るように大出が一歩を踏み出し――――――
「あっ」
 こけた。
「……」
 俺は顔面から地面に挨拶をした大出に声をかけられなかった。……というより、何をかけていいのか分からない。
 どんまい、だろうか。それとも、大丈夫か?
 どれも大出の癪に障りそうだ。
 大出が無言で立ち上がった。
「……おい」
 影で顔が見えないのが威圧的な声をさらに恐ろしく感じさせていた。
「言うなよ」
 誰に、とは聞けなかった。
 先程まで感じなかった迫力に反射的に頷くと、大出は一度鼻をなでると足を踏み出した。
 俺は高い背が見えなくなるまで大出を見送った。
 ……途中、転びかけていたが俺は見なかったことにした。 
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