ホステスが異世界で巫女になったらしい

夢枕

文字の大きさ
4 / 9
第1章 異世界召喚

クルメ

しおりを挟む
 天井も床も何もない空間。

 光すらもないその場所に浮かび上がるように、不思議な存在感を放つ男がいた。
 普段の男には珍しくその顔はにやけており、その様子に少し呆れた顔をしながら近づくもう一人の人物。

「ウラノア様、顔がにやけていますよ。
 久しぶりに会えたのがそんなに嬉しいですか」

 ウラノアと呼ばれた男はあからさまにびくっとして背筋を伸ばし、驚いたことを隠すために顔が強張って引きつっていた。

「クルメか。この俺が女と会ったくらいで喜ぶわけがないだろう。
 あの性悪女が、俺のプレゼントが随分気に入ったようでな」

 理世との会話を思い出していたのか、またも顔がにやつくウラノアをみて、クルメは大きくため息をついた。

「あれは本来、人に下賜してよいようなものではないのですよ。
 それよりも、ちゃんと説明はできたのですか?」

 ウラノアは最初に声をかけた時と同じく、びくっと飛び上がるように体を軽く反らし、母親に叱られた子供のような顔でクルメを見た。

「いや、俺はちゃんと説明しようとしたんだが……」

 最後は消え入るようにごにょごにょと言い訳をするウラノアを半目で見ながら、クルメはまた大きくため息をついた。

「どうせまた余計なことを話している内に時間がなくなったのでしょう?
 そもそも説明してから召喚するように進言しておいたのに、なぜ召喚中の事後説明にしてしまったのです」

 クルメにそう言われるとウラノアの体が小さくなっていくように見えた。
 というより、実際に小さくなってクルメの胸の高さくらいの身長の少年の姿になった。

「あいつと会うと売り言葉に買い言葉で余計なことを言ってしまうのだ。
 だからお前に説明を頼んだというのに。」

 バツが悪そうにそういうと、今度は逆にクルメに責めるような目を向けた。

「仕方がないでしょう、私は初対面でしたし。
 丁寧で穏やかな口調とは裏腹に、随分警戒されていたようです。
 ウラノア様がもう少し丁寧に接すればリセさんもそれなりの対応を返してくれると思いますけどね」

 クルメがそういうとウラノアの姿はどんどん大きくなっていき、元の姿に戻った。
 サイズがころころ変わるウラノアを見ても、クルメは全く動じない。

「クルメはアイツの本性を知らないからそんなことが言えるのだ。
 あいつは遠慮のないズケズケと物を言う性悪女だぞ。
 俺も最初に会った時は騙されたが、会うたびにチクチクと人を刺すような物言いになっていったのだ」

 リセをこき下ろしている割にその顔はなぜか誇らしく、腰に手を当ててふんぞり返っていた。
 自分だけが理世の本性を理解していることが、チクチク嫌味を言われるよりも嬉しいのだろう。

「それがお気に入りの理由なんですね。
 私はリセさんのほうに共感できてしまいますが。

 でもまともな説明もなしに召喚なんてしたら、さすがにリセさんも怒ってしまうのでは?」

 ウラノアは腰に手を当ててふんぞり返ったままピタッと動きが止まり、ゆっくりと体を起こしてクルメと顔を合わせた。
 神妙な顔つきの中にどこかいたずらっ子のような無邪気さを浮かべて腕を組んだ。

「そこなのだ。
 説明をちゃんとしたとしても怒られた気がしないでもないが、俺も色々考えてちゃんと手は打ってある」

 フフンと鼻で笑いながら自慢げなウラノア。
 クルメはこういうときのウラノアには詳しく説明を求めると、嬉しそうに答えて上機嫌になると知っている。

「ウラノア様が今打てる手というと、召喚する場所のことでしょうか?」

 ウラノアの目が輝き、ニヤニヤと顔を綻ばせた。

「よくわかったな。
 前に下位神の眷属をリセに与えたら驚くほど喜んでな、茶太郎と名付けてとても可愛がっていたのだ。
 その時にリセの好きな色々な動物の話を聞いて、あの島にそれに似た神がいるのを思い出したのだ」

 これ見よがしにドヤ顔を見せつけなら、褒めてほしそうにクルメをチラチラと見た。

「……少し過保護すぎませんか?
 下位神には後で僕の方からフォローを入れておきますね。
 しかしなるほど。好きなもので釣る姑息な作戦ではありますが、ウラノア様には珍しく効果的な技かもしれませんね」

 クルメは親指と人差し指で顎をつまんで考える姿勢を取りながら、先ほど話したリセの性格や、ウラノアから聞いていたペットへの異常な愛情の傾け方を思い出してそう言った。

「そうだろうそうだろう。俺もたまには実力を発揮しないとな」

 クルメに悪しざまに言われたのも気にせず、ウラノアは胸を張った。

「まあ巫女になるということがウラノア様の伴侶になる事だと知っているのでしたら、召喚されても多少驚くくらいで済むでしょうね」

 クルメがそういった途端、またしてもウラノアの動きがぴたっと止まった。
 それを見て、今度はクルメの動きも止まった。

「……まさか言ってないのですか?」

 軽口を叩いたつもりが、一番大事な部分を言い忘れていたなどと、考えられないことだった
 ウラノアはみるみる内に縮んでいき、小学校低学年くらいの姿になった。

「言おうとは思っていたのだが、面と向かっては恥ずかしくて」

 しゅんとしおらしく小さくうつむいて、呟くようにそう言うウラノアを見て、クルメは手をおでこに当てて今日一番のため息をついた。

「ウラノア様、召喚理由くらいは伝えて差し上げないと、さすがにマズイです」

「怒られるかな?」

「怒られるだけで済んだら奇跡です」

「奇跡系の神って誰だっけ?」

「ふざけないでください」


 ___________________


 こうしてウラノアとクルメは長い長い戦略会議を繰り広げることとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...