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第1章 異世界召喚
クルメ
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天井も床も何もない空間。
光すらもないその場所に浮かび上がるように、不思議な存在感を放つ男がいた。
普段の男には珍しくその顔はにやけており、その様子に少し呆れた顔をしながら近づくもう一人の人物。
「ウラノア様、顔がにやけていますよ。
久しぶりに会えたのがそんなに嬉しいですか」
ウラノアと呼ばれた男はあからさまにびくっとして背筋を伸ばし、驚いたことを隠すために顔が強張って引きつっていた。
「クルメか。この俺が女と会ったくらいで喜ぶわけがないだろう。
あの性悪女が、俺のプレゼントが随分気に入ったようでな」
理世との会話を思い出していたのか、またも顔がにやつくウラノアをみて、クルメは大きくため息をついた。
「あれは本来、人に下賜してよいようなものではないのですよ。
それよりも、ちゃんと説明はできたのですか?」
ウラノアは最初に声をかけた時と同じく、びくっと飛び上がるように体を軽く反らし、母親に叱られた子供のような顔でクルメを見た。
「いや、俺はちゃんと説明しようとしたんだが……」
最後は消え入るようにごにょごにょと言い訳をするウラノアを半目で見ながら、クルメはまた大きくため息をついた。
「どうせまた余計なことを話している内に時間がなくなったのでしょう?
そもそも説明してから召喚するように進言しておいたのに、なぜ召喚中の事後説明にしてしまったのです」
クルメにそう言われるとウラノアの体が小さくなっていくように見えた。
というより、実際に小さくなってクルメの胸の高さくらいの身長の少年の姿になった。
「あいつと会うと売り言葉に買い言葉で余計なことを言ってしまうのだ。
だからお前に説明を頼んだというのに。」
バツが悪そうにそういうと、今度は逆にクルメに責めるような目を向けた。
「仕方がないでしょう、私は初対面でしたし。
丁寧で穏やかな口調とは裏腹に、随分警戒されていたようです。
ウラノア様がもう少し丁寧に接すればリセさんもそれなりの対応を返してくれると思いますけどね」
クルメがそういうとウラノアの姿はどんどん大きくなっていき、元の姿に戻った。
サイズがころころ変わるウラノアを見ても、クルメは全く動じない。
「クルメはアイツの本性を知らないからそんなことが言えるのだ。
あいつは遠慮のないズケズケと物を言う性悪女だぞ。
俺も最初に会った時は騙されたが、会うたびにチクチクと人を刺すような物言いになっていったのだ」
リセをこき下ろしている割にその顔はなぜか誇らしく、腰に手を当ててふんぞり返っていた。
自分だけが理世の本性を理解していることが、チクチク嫌味を言われるよりも嬉しいのだろう。
「それがお気に入りの理由なんですね。
私はリセさんのほうに共感できてしまいますが。
でもまともな説明もなしに召喚なんてしたら、さすがにリセさんも怒ってしまうのでは?」
ウラノアは腰に手を当ててふんぞり返ったままピタッと動きが止まり、ゆっくりと体を起こしてクルメと顔を合わせた。
神妙な顔つきの中にどこかいたずらっ子のような無邪気さを浮かべて腕を組んだ。
「そこなのだ。
説明をちゃんとしたとしても怒られた気がしないでもないが、俺も色々考えてちゃんと手は打ってある」
フフンと鼻で笑いながら自慢げなウラノア。
クルメはこういうときのウラノアには詳しく説明を求めると、嬉しそうに答えて上機嫌になると知っている。
「ウラノア様が今打てる手というと、召喚する場所のことでしょうか?」
ウラノアの目が輝き、ニヤニヤと顔を綻ばせた。
「よくわかったな。
前に下位神の眷属をリセに与えたら驚くほど喜んでな、茶太郎と名付けてとても可愛がっていたのだ。
その時にリセの好きな色々な動物の話を聞いて、あの島にそれに似た神がいるのを思い出したのだ」
これ見よがしにドヤ顔を見せつけなら、褒めてほしそうにクルメをチラチラと見た。
「……少し過保護すぎませんか?
下位神には後で僕の方からフォローを入れておきますね。
しかしなるほど。好きなもので釣る姑息な作戦ではありますが、ウラノア様には珍しく効果的な技かもしれませんね」
クルメは親指と人差し指で顎をつまんで考える姿勢を取りながら、先ほど話したリセの性格や、ウラノアから聞いていたペットへの異常な愛情の傾け方を思い出してそう言った。
「そうだろうそうだろう。俺もたまには実力を発揮しないとな」
クルメに悪しざまに言われたのも気にせず、ウラノアは胸を張った。
「まあ巫女になるということがウラノア様の伴侶になる事だと知っているのでしたら、召喚されても多少驚くくらいで済むでしょうね」
クルメがそういった途端、またしてもウラノアの動きがぴたっと止まった。
それを見て、今度はクルメの動きも止まった。
「……まさか言ってないのですか?」
軽口を叩いたつもりが、一番大事な部分を言い忘れていたなどと、考えられないことだった
ウラノアはみるみる内に縮んでいき、小学校低学年くらいの姿になった。
「言おうとは思っていたのだが、面と向かっては恥ずかしくて」
しゅんとしおらしく小さくうつむいて、呟くようにそう言うウラノアを見て、クルメは手をおでこに当てて今日一番のため息をついた。
「ウラノア様、召喚理由くらいは伝えて差し上げないと、さすがにマズイです」
「怒られるかな?」
「怒られるだけで済んだら奇跡です」
「奇跡系の神って誰だっけ?」
「ふざけないでください」
___________________
こうしてウラノアとクルメは長い長い戦略会議を繰り広げることとなった。
光すらもないその場所に浮かび上がるように、不思議な存在感を放つ男がいた。
普段の男には珍しくその顔はにやけており、その様子に少し呆れた顔をしながら近づくもう一人の人物。
「ウラノア様、顔がにやけていますよ。
久しぶりに会えたのがそんなに嬉しいですか」
ウラノアと呼ばれた男はあからさまにびくっとして背筋を伸ばし、驚いたことを隠すために顔が強張って引きつっていた。
「クルメか。この俺が女と会ったくらいで喜ぶわけがないだろう。
あの性悪女が、俺のプレゼントが随分気に入ったようでな」
理世との会話を思い出していたのか、またも顔がにやつくウラノアをみて、クルメは大きくため息をついた。
「あれは本来、人に下賜してよいようなものではないのですよ。
それよりも、ちゃんと説明はできたのですか?」
ウラノアは最初に声をかけた時と同じく、びくっと飛び上がるように体を軽く反らし、母親に叱られた子供のような顔でクルメを見た。
「いや、俺はちゃんと説明しようとしたんだが……」
最後は消え入るようにごにょごにょと言い訳をするウラノアを半目で見ながら、クルメはまた大きくため息をついた。
「どうせまた余計なことを話している内に時間がなくなったのでしょう?
そもそも説明してから召喚するように進言しておいたのに、なぜ召喚中の事後説明にしてしまったのです」
クルメにそう言われるとウラノアの体が小さくなっていくように見えた。
というより、実際に小さくなってクルメの胸の高さくらいの身長の少年の姿になった。
「あいつと会うと売り言葉に買い言葉で余計なことを言ってしまうのだ。
だからお前に説明を頼んだというのに。」
バツが悪そうにそういうと、今度は逆にクルメに責めるような目を向けた。
「仕方がないでしょう、私は初対面でしたし。
丁寧で穏やかな口調とは裏腹に、随分警戒されていたようです。
ウラノア様がもう少し丁寧に接すればリセさんもそれなりの対応を返してくれると思いますけどね」
クルメがそういうとウラノアの姿はどんどん大きくなっていき、元の姿に戻った。
サイズがころころ変わるウラノアを見ても、クルメは全く動じない。
「クルメはアイツの本性を知らないからそんなことが言えるのだ。
あいつは遠慮のないズケズケと物を言う性悪女だぞ。
俺も最初に会った時は騙されたが、会うたびにチクチクと人を刺すような物言いになっていったのだ」
リセをこき下ろしている割にその顔はなぜか誇らしく、腰に手を当ててふんぞり返っていた。
自分だけが理世の本性を理解していることが、チクチク嫌味を言われるよりも嬉しいのだろう。
「それがお気に入りの理由なんですね。
私はリセさんのほうに共感できてしまいますが。
でもまともな説明もなしに召喚なんてしたら、さすがにリセさんも怒ってしまうのでは?」
ウラノアは腰に手を当ててふんぞり返ったままピタッと動きが止まり、ゆっくりと体を起こしてクルメと顔を合わせた。
神妙な顔つきの中にどこかいたずらっ子のような無邪気さを浮かべて腕を組んだ。
「そこなのだ。
説明をちゃんとしたとしても怒られた気がしないでもないが、俺も色々考えてちゃんと手は打ってある」
フフンと鼻で笑いながら自慢げなウラノア。
クルメはこういうときのウラノアには詳しく説明を求めると、嬉しそうに答えて上機嫌になると知っている。
「ウラノア様が今打てる手というと、召喚する場所のことでしょうか?」
ウラノアの目が輝き、ニヤニヤと顔を綻ばせた。
「よくわかったな。
前に下位神の眷属をリセに与えたら驚くほど喜んでな、茶太郎と名付けてとても可愛がっていたのだ。
その時にリセの好きな色々な動物の話を聞いて、あの島にそれに似た神がいるのを思い出したのだ」
これ見よがしにドヤ顔を見せつけなら、褒めてほしそうにクルメをチラチラと見た。
「……少し過保護すぎませんか?
下位神には後で僕の方からフォローを入れておきますね。
しかしなるほど。好きなもので釣る姑息な作戦ではありますが、ウラノア様には珍しく効果的な技かもしれませんね」
クルメは親指と人差し指で顎をつまんで考える姿勢を取りながら、先ほど話したリセの性格や、ウラノアから聞いていたペットへの異常な愛情の傾け方を思い出してそう言った。
「そうだろうそうだろう。俺もたまには実力を発揮しないとな」
クルメに悪しざまに言われたのも気にせず、ウラノアは胸を張った。
「まあ巫女になるということがウラノア様の伴侶になる事だと知っているのでしたら、召喚されても多少驚くくらいで済むでしょうね」
クルメがそういった途端、またしてもウラノアの動きがぴたっと止まった。
それを見て、今度はクルメの動きも止まった。
「……まさか言ってないのですか?」
軽口を叩いたつもりが、一番大事な部分を言い忘れていたなどと、考えられないことだった
ウラノアはみるみる内に縮んでいき、小学校低学年くらいの姿になった。
「言おうとは思っていたのだが、面と向かっては恥ずかしくて」
しゅんとしおらしく小さくうつむいて、呟くようにそう言うウラノアを見て、クルメは手をおでこに当てて今日一番のため息をついた。
「ウラノア様、召喚理由くらいは伝えて差し上げないと、さすがにマズイです」
「怒られるかな?」
「怒られるだけで済んだら奇跡です」
「奇跡系の神って誰だっけ?」
「ふざけないでください」
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