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第10話 初めての魔法
しおりを挟む「風精よ。我が手が触れし者へ数多の精霊の姿と声を届けよ! 元素語者!」
「ひ、ひぃ! 何かいるっす! いっぱいいるっす! 話しかけてくる! サブローさん! サブローさん!?」
葵にかけた魔法が効果を発揮したようで、周囲をキョロキョロ見ては、悲鳴を上げている。
やっと見えて声が聞けるようになったか。
同時に配信コメント欄にも、葵と同様のことを喋るコメントが流れていく。
おっと、ハイシンの方も精霊の声や姿が見える影響が出ちまったか。
まぁ、実害はないからヨシとしよう。
「精霊は怒らせなきゃ悪さしないから放っておけ、それよりもさっきみたいに火の玉を出してみろ」
周囲をキョロキョロと見て怯える葵だったが、俺の言葉に頷くと、火の玉を出した。
「ひぐぅ! あ、赤いトカゲ! トカゲがいるっす! あっ! でも、可愛いかも! あっ! あっ! 手に尻尾巻きつけてくるのは卑怯っす!」
「火の精霊サラマンダーだな。そいつは、ちょっとキレやすくて熱苦しいやつだが、話を聞いて仲良くすれば、とても協力的になってくれる頼れる精霊だな」
葵の手のひらにいる火の精霊サラマンダーは、俺に向かって威圧的な鳴き声を上げている。
むむ! この俺に向かって意見するつもりか! 躾けてやろう!
近くにいた氷の精霊フロストフェアリーに声をかけ、サラマンダーの鼻づらを叩かせる。
フロストフェアリーに鼻づらを叩かれたサラマンダーは尻尾を丸め、手のひらから葵の肩に移動した。
「サブローさん! 酷いっす! この子、悪いことしていっすよ!」
「躾だ。精霊と仲良くなりすぎてもいかん。誰がご主人様かは教えてやらんと暴走する」
「それでもかわいそうっス! サラちゃん、あの人に近付いたらダメっすよ――。何かされたらあたしにいってくださいっすね。飯抜きにしてやりますからっ!」
葵の肩に載ったサラマンダーが、鼻先を撫でてもらい甘えている。
おお、葵はサラマンダーの声がよく聞こえるらしいな。
意外と気性の荒いサラマンダーは、キレると主を焼き殺すとか攻撃的なんだが、葵にはすでに懐いたみたいだ。
どうやら火属性の精霊と相性がいいらしい。
「飯抜きは困るが、話を魔法に戻そう。魔法ってのは、精霊にお願いをして発動させるのが基本形だ。けど、お前が一番最初にやったやつは、サラマンダーの力を勝手に引っ張ってきて発動させた残りカスだ。それだと、非常に効率が悪いし、精霊の機嫌も悪くなる」
「サラちゃん、そーだったんすか?」
葵の肩に乗ったサラマンダーが、うんうんと頷き返す。
コメント欄が『カワヨ』で埋まる。
いやいや、こいつはキレると主人の身体を人体発火させるヤベー精霊だからな。
みんな見た目に騙されてやがる。
「あー! だから、サブローさんは、詠唱をするんすね。あれが精霊へのお願いの基本的な形ってことっすか!」
「そう言うことだ。詠唱をせずに魔法を発動させるなんてことは、魔法モドキでしかない。初心者が使っても暴走しないような初級魔法の詠唱は、『炎精よ! 純粋なる炎の輝きとなり、我に宿りし力を顕現せよ! 炎獄爆発矢』ってやつだな。そいつをサラマンダーにお願いすれば、力を貸してくれるだろうよ。指先は撃ちたい方向に向けとけ。間違っても人に向けるなよ」
「りょーかいっす! 試し打ちしてみるっすね! サラちゃん、いくっす! 炎精よ! 純粋なる炎の輝きとなり、すべてを薙ぎ払う矢を顕現せよ! 炎獄爆発矢!」
先ほどとは比べ物にならないほどの強い炎が葵の腕から噴き上がる。
サラマンダーのやつ、張り切って精霊力をサービスしすぎだな。
それだけ、葵のことを気に入ったということか。
詠唱が終わると、葵の指先に凝縮した炎が矢の形に変化し、荒れ地に向かって勢いよく撃ち放たれた。
葵が放った炎の矢は、俺が作った穴の端に当たって大爆発し、爆風が頬を撫でていった。
「ふむ、まぁ、上出来だ」
「ちょ、ちょ、ちょ! ちょっとーー! なんすかコレ! 聞いてないっす! 初心者用の魔法だって聞いてたから、ふわーって飛んでって、ポンって弾けるくらいかと思ってたっすーー! なんで、地面があんなに抉れてるんっすか!」
「そんな威力で魔物が倒せるわけがないだろう。今のくらいなら、若いドラゴンくらい消し炭にできるはずだ」
葵の肩にいるサラマンダーが、俺の言葉を肯定するようにうんうんと頷く。
「威力強すぎっス! こんなのダンジョン内で使ったら、大惨事っすよ! 大惨事!」
コメント欄に、また『w』と『草』が流れていく。
『大草原』ってなんだ。
目の前は荒れ地しかないぞ! 全く、意味不明だ!
コメント欄を目で追っていたら、ダンジョンスターズ社の建物から警備の担当者が駆けてくるのが見えた。
「先ほどの爆発は、三郎殿が?」
警備担当者の口調こそ丁寧だが、俺に対し何かを言いたそうな顔をしている。
「いや、弟子の葵だ。だが、問題ない。ただ、魔法の練習をしてただけだ」
「魔法?」
警備担当者の厳しい視線が葵に向けられる。
「サブローさんの言う通りっす。ただの魔法の練習っス。練習。ちょっと、張り切りすぎたっすねー。アハハーー。あ! そうだ! サブローさん、練習は終わりにして、ダンジョン行くっすよー!」
葵が警備担当者の追及を逸らそうとして、俺の手を引くと、ダンジョンの中に駆け出していった。
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