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最終話 サブロー、ついにヒモからの脱却?

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 俺とエーリカが向かった先は、東京ダンジョンの近くにあるダンジョンスターズ社の横にある仮設の建物だった。


 仮説の建物の入口には、『ダンジョン探索者学校 東京本校 特別分室 佐藤三郎教室』と書かれた看板が掲げられている。


 これが俺とエーリカが新しく採用された仕事場だ。


「お待ちしておりました。こちらの無理をお聞き入れ頂きありがとうございます。できるサポートはダンジョンスターズ社が総力を挙げてやらせてもらいますので、三郎様には最強の戦士たちを育成して頂きたいと思います」


 入口で待っていたのは、ひよっこだ。


 忙しい中でも鍛錬に励み、戦士としての実力を兼ね備えつつあるので、ひよっこというのはもう非礼に当たるな。


 それに俺とエーリカの雇い主でもあるので、氷川ゆいな社長とでも呼ぶべきだろう。


「ゆいな社長、これから妹エーリカともども世話になる」


「い、今なんとおっしゃいましたか? 名前で呼ばれた気がしたのですがっ!」


 なぜ、そんな驚いた顔をする? 戦士として認めてひよっこから名前呼びしただけだろう。


「相応の実力を持つ者には、もう『ひよっこ』とは言えん。だから、名で呼んだだけだ」


「わたくしが相応の実力者……。まだまだ、足元にも及びません」


「今回の件を主導的な立場で話をまとめたとも聞いている。戦士としての実力だけでなく、指導者としても優れた力量を持った者だ」


「そのように褒められても何も出ませんよ」


 実際、ゆいなは今回の探索者制度改革において、日本政府や各国の探索者協会との調整に辣腕を振るっていたことは、まぎれもない事実だった。


 俺が特別分室の教師として、エーリカとともに採用されたのも、彼女が推進した探索者制度改革の一つの成果だ。


 既存の探索者と、探索者学校に通う者の中から、精霊との感能力が高い者を集め、集中的に能力向上訓練を行う育成プログラム。


 ゆいなは、俺が受け持つ教室を人類生存の未来を守る『英雄育成教室』だと言っていたが……。


 俺は生徒を最高の戦士として鍛え上げることはできるが、英雄にまでは育てられる自信はない。


「ゆいな、妾も手を貸すのじゃから、給料は奮発してもらえるのじゃろうな」


「ええ、最高の教師には、最高の待遇をお約束します。あ、そうだ! 最初の手付金代わりですが――」


 ゆいなが近くにいた秘書の渚に目配せを送る。


 すぐに渚が別の部下に視線を送り3つの箱を持って戻ってきた。


「我がダンジョンスターズ社も携帯食料品事業にも進出しました。その新作のレアチーズケーキバーを3ダースほどご用意してます」


 エーリカの顔がパッと明るくなる。


 食い物に釣られるなと、葵に口を酸っぱくして言われているが、新作であるレアチーズケーキバーを食べないわけにはいかない。


「エーリカ、俺が2箱、お前が1箱の取り分だぞ」


 俺の言葉を聞いたエーリカが、顔をこちらに向けると、キッと目を吊り上げた。


「ずるいのじゃ! 兄様の方が多い! 納得いかぬ!」


「俺が正規の担任、エーリカが副担任なので、取り分が違うのは当たり前だ」


「横暴なのじゃ! 取り分5:5を要求するのじゃ!」


 俺たちが取り分の分配で騒いでいると、仮設の建物の中から、誠と仁と隆哉が姿を現す。


 彼らはプラーナ式戦闘術のコーチとして、教室に採用されたそうだ。


 世界の探索者協会や国内の探索者30名ほどを預かることになるので、基礎的なところを任せられる彼ら3人の手助けは非常に助かる。


「サブローさん、ちーっす! 朝からエーリカさんと騒がしいっすね」


「生徒の皆さんお待ちっすよ。海外勢、国内現役探索者からの選抜者、探索者学校の有望株といった連中がサブローさん待ってます」


「みんなギラギラしてる連中っすから、鍛えがいがありそうっすよ。サブロー式のきついやつも弱音を吐きそうなやつはいなさそうっす」


 先に教室の様子を見ていた3人から、生徒たちの様子が聞こえた。


 さすがに新制度の特性検査で、優秀な結果を示して選抜された連中ってわけだな。


 ヤル気は十分らしい。


 そうなると、俺の方も俄然やる気が出てくる。


 なんだかんだ言って、人に教えることで自分も少しは成長したような気もしてるからな。


「エーリカ、取り分の話は仕事の後でするとしよう。まずは、仕事をやらないとな」


「絶対なのじゃぞ! 嘘を吐いたら、葵に言いつけてやるからのぅ!」


「ああ、分かっている。では、ゆいな社長、これより佐藤三郎教室の担任としての依頼を遂行させてもらう」


「よろしくお願いします!」


 俺はゆいなと別れると、エーリカと3人を伴って、仮設の建物の中にある教室へ向かった。


 教室の前にたどりつくと、扉のガラス越しに中をチラリと見る。


 自分よりも若い連中が集められており、ざわざわした雰囲気が伝わってきた。


 俺は扉を開けると、エーリカと3人を伴って教室の中に足を踏み入れる。


 ざわついた雰囲気は一瞬でおさまり、生徒たちの視線は一気に俺に集まった。


 教壇の上に立つと、一人一人の顔を確認する。


 その最中、席が一つだけ空いているのが気になった。


「すいませーーーーーん! 探索者学校に行ったら、こっちの教室に今日から通えって急に言われて――遅れったっすぅうううううん?」


 教室の入口に勢いよく滑り込んできたのは葵だった。


 彼女もまた新制度の特性検査を受け直し、精霊との感能力がSランクと判定され、俺の教室に選抜された生徒の一人だったのだ。


 まぁ、この教室のことはあまり口外できない部類のことも多かったので、本人には今まで言えずじまいだったわけだが。


「葵、遅刻だ。遅刻。早く席に着け」


「サブローししょー!? なんで、こんなところでスーツ着て教師っぽいことしてるんすか!」


「教師っぽいじゃなくて、正式な教師としてゆいな社長に雇ってもらった。だから、っぽいわけじゃないぞ。ちゃんと教師だ。ほら、席に着け」


「えええっ! あのヒモ生活満喫してたサブローししょーが、教師っすか! マジで! 嘘だ! みんなで担いでるっすよね?」


 やはり葵の俺に対する評価は何気に酷い。


 俺も好きでヒモ生活を満喫してたわけじゃないんだがな……。


「葵、兄様が席に着けと言うておるのじゃ! 早く、席につくのじゃ! ちなみに妾は副担任じゃぞ!」


「エーリカさんまで……。盛大なドッキリっすね! カメラどこっすか? 配信は止められてるっすよ!」


 キョロキョロとカメラを探し出し始めた葵を摘まみ上げると、空いている席へ連れて行って座らせた。


「うるさいやつが騒いでいたが、改めて言わせてもらおう。諸君、ようこそ、佐藤三郎教室へ! 俺が担任の佐藤三郎だ。本名はシュッテンバイン=リンネ=アルベドだ。どちらを読んでも構わない。だが、先に言っておくが俺は異世界人だから本名で呼ばれる方が反応しやすい。それと、ここは戦士の中の戦士を育成するために用意された教室だ。この教室で1年間みっちりと訓練してもらい、優秀な成績を納めた者には多くの特典が与えられ、探索業務に入ってもらうことになる。そのための訓練は過酷であるが、諸君らの弱音を聞く気はないとだけ宣言をしておく」


 生徒たちは詳しい事情を話されている者、まったく話されないままここに来ている者と様々であった。


 話を聞いた生徒たちは、お互いに顔を合わせてざわついている。


「聞いてないっす! あたし、探索者になる気はないっすよ!」


 葵は探索者学校に通っているが、卒業したらスーパータカミに就職する気満々だったから、戸惑っているだろうな。


 でも、拒否権は与えられていない。


「諦めろ。この教室の生徒に選ばれた時点で、探索者になることに対し、拒否権はない。その代わり、諸々の生活保障はダンジョンスターズ社が責任を持って請け負ってくれることになっている」


「横暴っす!」


「俺は教師をしろと言われただけだ。文句は国に言え。国がお前らの拒否権を奪ったからな」


 一部の生徒は海外から派遣された者たちだ。


 彼らはここで精霊の使役とプラーナ式戦闘術を学び、母国へ持ち帰るという任務を負っている。


 国を担って来ている海外勢の方が、国内勢よりも肝は座ってそうだ。


「まぁ、みんないろいろと思うことはあるかもしれないが、これから1年間、必死になって頑張れば、戦士として身を立てられるようにしてやる。俺からは以上だ。では、出席を取るぞ――」


 こうして俺は、飛ばされた先の異世界で、最強の戦士を育成する教室の担任をすることになった。


 俺が担任をするこの教室は、後に『サブロー教室』と言われるようになり、数多の最強探索者を何十名も輩出し、ダンジョンの排除に多大なる貢献をすることになるのだが、それはもう少しだけ後の話となる。



【悲報】JKヒモ勇者様、初回配信中にうっかり『氷帝』と呼ばれた美少女配信者を助け、エンシェントドラゴンを一閃してバズってしまう。――第一部完――
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