25年目の真実

yuzu

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 雨はいつの間にか止んでいた。

 けれど、軒先から滴る水の音だけが、閉店後の静けさにぽつりぽつりと残っていた。

 照明を落とした店内には、暖房の暖かさが微かに残っている。
 蒼介は、客席の隅で黙って座っていた。
 千紘は片付けをしていたが、彼が帰ろうとしないのを見て、ため息をひとつ落とした。

 「……帰らなくて良いの?明日、仕事でしょ?」

 「もう少しだけ。話がしたい。」

 厨房から漂う出汁の香りと、古い時計の音が二人の間に溶け込む。

 「美奈子。」

 彼はその名を呼び、ゆっくりと言葉を探した。

 「……東京で、店を開かないか。」
 彼女の背中がわずかに揺れる。
 「お母さんも一緒に……お金はなんとかなる。今の仕事だって、俺は今すぐ辞めたっていい。」

 言葉が熱を帯びて、抑えきれない感情が溢れ出していく。

 「離ればなれになるのは嫌なんだ。帰ってこい、美奈子。」しかし、返ってきたのは、静かな沈黙だった。
 
 やがて彼女はゆっくり振り向き、少し寂しそうに笑った。

 「……そういうことじゃ、ないのよ。」

 声はやさしく、けれど明確に距離を引いていた。
 その笑顔の奥には、もう“戻れない”という静かな確信があった。
 蒼介は、息を呑んだ。
 何を言えばいいのか分からない。
 どれだけ手を伸ばしても、もう届かない場所に彼女が立っている気がした。

 「じゃあ、どういうことなんだ……」

 絞り出すように問いかけても、彼女は首を横に振るだけだった。
 
 再び沈黙が落ちた。

 時計の針が、ひとつ、またひとつ音を刻む。
 それがまるで、二人の間にできた深い溝の深さを数えるように響く。
 外では、風が川面をなでていた。
 暖簾がかすかに揺れ、その影が二人の間を静かに行き来する。

 千紘はゆっくりと手ぬぐいを畳み、小さくため息をついた。

 蒼介もその光景をただ見つめながら、床のタイルに視線を落とした。――もう、彼女の時間は別の場所で流れているのだと。

 それでも、言葉にできない想いだけが、湯気のように二人の間に立ちのぼっていた。
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