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あの日の真実
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しおりを挟む膳は諦めたように肩を落とし、小さくなって話し始めた。
「あの強盗未遂事件は、確かに計画的犯行だった。ただ……計画したのは俺でも、叔父でも無い。俺たちは従うしかなかったんだ。でないと家族が……なのに千紘は、俺と叔父が犯した犯罪に気づいて、何度も何度も、自首しろと言ってきた。」
「俺は家族を守るために仕方なく詐欺に加担した。その事実は墓場まで持っていくしかないと思っていた。なのに、守っているはずの千紘は、自首しろと言ってくる。
だから俺は、叔父に相談した。
叔父にとって俺たちは大事な甥っ子なんだと……信じていた、話せばわかってくれると思っていた。
考えが甘かった。
『俺も……家族と家を知られている。もう降りるわけにはいかないんだよ。じゃなきゃ家族が全員殺される。』
俺はその時初めて、叔父も自分と同じ……誰かに脅されて強盗計画を実行したことを知った。
叔父の目は本気だった。千紘を……手にかけるしかないと、本気で思っている顔だった。
そして――計画が立てられた。」
膳の声が震える。
「まず千紘を、旧道のポケットパークに呼び出す必要があった。でも、不自然に呼び出せば怪しまれる。」
膳が顔を上げる。
「だから――母さんを利用した。母さんがその日、友人と約束していることを知っていた。俺が出かけると言えば、ついでだから送って行って欲しいと言うって、わかってた。」
蒼介は、腕組みをしたまま静かに聞いた。
「その日の朝、俺は母さんの鞄から財布を抜き取った。母さんが気づかないうちに。」
「そして、母さんに見つからないようにシューズクロークに置かれた置物の陰に置いた。まるで……母さんが忘れたように見せかけて。」
「俺は『ちょっと気晴らしにドライブしてくる』って言って、車に乗り込んだ。」
膳が床を見つめる。
「母さんは思った通り、それなら送って。ってついてきた。内心……来るなって思ってたのに」
蒼介の目が鋭くなる。
「そして――車を走らせながら、千紘にメールした。」
「『母さんが財布を玄関に置き忘れたみたいなんだ。位置情報送るから悪いけど届けてくれないか』って。」
「千紘は……優しいから。すぐに母さんに電話をした。財布を持っていくから、待っててってね。」
膳の目から涙が溢れ、声が震える。
「わざと道を間違えたふりをした。『あれ、曲がるところ間違えたかな』って独り言を言いながら。」
蒼介が鋭い目付きで膳を睨む。
「叔父は、どこで待っていた?」
「……旧道の入口です。」
膳が小さく答える。
「叔父は、山道を登る坂の手前で待機していた。」
膳の声が低くなる。
「俺の車が通り過ぎるのを確認してから――立ち入り禁止の看板とカラーコーンを置くはずだった。」
「はずだった?」
「……計画にないことが起きた。」
「俺の車のすぐ後ろに――もう一台、車が走っていた。」
「男女が二人乗っていた黒のミニバン。」
「叔父は、その車がポケットパークに停まらないと思った。だから――通した。」
「俺の車と、その黒いミニバンが通り過ぎた後――叔父は立ち入り禁止の看板を置いた。カラーコーンも並べて。」
膳の手が震える。
「次に千紘のトラックが来るまでは、誰も山道に入れないように。」
膳の声が掠れる。
「でも……」
「でも?」
蒼介が促す。
「その車は――ポケットパークに停車したんです。」
膳が顔を上げる。
「叔父は、そのことを知らなかった。スマホが圏外だったから、連絡が取れなかったんです。」
千紘が小さく息を呑む。
「だから――叔父は看板を置いて、そのまま待機していた。千紘のトラックが来るまで。」
「俺が――ポケットパークに着いた時。」
膳は話し続けた。
「母さんが車を降りて、景色を眺め始めた。俺は『眠いから、ちょっと寝てる』って言って、車の中に残った。叔父に現状を話さなければと焦っていた。」
膳の手が震える。
「けれど、叔父に連絡を。」
膳が目を閉じる。
「黒いミニバンが、停まった。俺の車から少し離れた場所に。」
「中から――男女が降りてきて、二人は……口論を始めた。」
膳が顔を歪める。
「俺は――焦った。このままじゃ、計画が狂う。」
膳の声が震える。
「だから――叔父に電話した。母さんに気づかれないように、小声で。」
蒼介は眉を釣り上げた?目が鋭くなる。
「何て言った?」
「『計画を中止にしよう。母さんが車に同乗している。それに――もう一組、カップルがいる』って。」
叔父は……一瞬、沈黙した。それから、低い声で言った。
『でも――もう千紘を呼び出してある。今さら中止にはできない』って。「加害者」
俺は『じゃあ、どうするんだ』って聞いた。
叔父は答えた。『そのカップルが出て行くまで待つ。千紘のトラックが来る前に、いなくなればいい』って。
蒼介が腕を組む。
「でも――いなくならなかった。」
「……はい。」
膳が頷く。
「二人は――ずっと口論を続けた。」
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