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記憶の断片 春馬side
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しおりを挟むパソコンを閉じた瞬間、社長室の静寂が胸にのしかかるように重たくなった。
冷却ファンのかすかな回転音すら、夜の闇に沈み込み、まるでこの部屋だけが別の時間に取り残されたような気さえした。
ゆっくりと立ち上がり、無意識に窓際へと足を運ぶ。
眼下には、雨で濡れたアスファルトに映る街灯の光。
胸の奥の靄を消せない自分に苛立ち、深くため息をつくと、ふたつの人影に気がついた。
取引先の営業マン……確か名前は八坂英介、そして小鳥遊真那だ。
何を話しているかは分からない。けれど、近すぎるその距離感に苛立った。
――俺には、傷つく資格なんてない……人を好きになる資格なんて無いのに。
喉の奥に飲み込んだ言葉が、肺の底をざらつかせる。
ふと、過去の光景が蘇る。
血のにおい。
砕けたヘルメットが転がる音。
そして、俺の目の前で、命が潰れる音。
――轢かれたのは、俺じゃなかった。
あの日、交差点の角を曲がった瞬間、狂ったようなエンジン音が響いた。
信号無視のバイクが猛スピードで突っ込んでくるのが見えた。
身体が反応するよりも早く、何かが俺を突き飛ばした。
「おい、春馬ッ!」
その叫びを最後に、親友――直哉の姿は、視界から消えた。
次に見たのは、地面に投げ出された彼の身体だった。
不自然に曲がった腕、血に染まったシャツ。
音がねじれて、時間が歪んだように目の前の光景はスローモーションだった。
俺が声をあげたのは、どれだけ遅れてからだっただろう。
自分が助かって、彼が死んだ。
それが、すべての始まりだった。
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