恋が下手な私が新社長に恋をした

yuzu

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2人で

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 カップの底に残ったわずかなカフェラテは、完全に冷え切っていた。
 手のひらを膝の上でぎゅっと握る。指先は冷たく、感覚がなかった。

 体が椅子に縫い付けられたように、そこから立ち上がれなかった。心がどこか遠くに置いていかれたようで、テーブルを見つめたまま、動けなかった。

 そのとき、足音がそっと近づいてきた。

「……あの、すみません」

 はっとして顔を上げると、制服を着た女性店員が、申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 彼女は口元を引き結びながら、おずおずと続ける。

「閉店のお時間でして……」
「あ……はい。すみません、すぐに」

 僅かに聞こえる掠れ声で謝ると、私は膝の上の手をゆっくり解き、紙ナプキンで頬に残る涙を拭った。立ち上がりながら、カップに一瞥を送り、深く呼吸をひとつ。
扉に向かう足取りは重い。

 ガラスの扉に手をかけ、ぐっと押し開けた。外の肌寒い湿った空気が体にまとわりつく。

 ふと、街灯の下……路肩に停車している車が目に入り、ハットはした。

「……一之瀬社長?」

 車から降りた社長は、躊躇いがちにゆっくりと歩み寄ってきて……
私も、一歩を踏み出すのに迷った。何を言えばいいのかわからない。ただ、胸の奥に熱い何かがこみ上げてくる。
数歩の距離を保ったまま、見つめ合うと、彼が先に口を開いた。

「……小鳥遊」

 その声が、ひどく儚げで優しくて、切なくなった。

「……どうして」

 やっとのことで声を出すと、それだけで涙が滲みそうになる。

「……待ってた」
その言葉に、胸が締めつけられる。

「……小鳥遊、帰ろう」
次の瞬間、私は駆け出していた。気づけば足が勝手に動いていた。

 強く、でも優しく、彼の腕が私を包む。まるで、壊れ物を扱うような手つきだった。

「……社長、好きです……」

 小さく絞り出した言葉が、彼の胸に吸い込まれていく。

「俺も」

 それだけを返すと、彼は何も言わずに私の背に手を回し、私をきつく抱きしめた。

そのぬくもりが、心にしみていく。

 言葉はいらなかった。今はただ、このぬくもりだけが本物だった。

 通り過ぎる風が、髪を揺らしていく。夜の街は静かで、私たちだけが時間の外にいるようだった。       

 何もかもが壊れそうだったのに、なぜか、この瞬間だけは守られている気がした。


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