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恋が下手な俺が失恋する話。 亮介side
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しおりを挟む「どうせ余ってるし、付き合っとくか。」
自分でも"最悪な告白"だって、後からめちゃくちゃ後悔した。
頭の中では「ずっと好きだった」とか、「オレと付き合って欲しい」とか……散々、告白の練習をしたのに。
牛丼から立ち上る湯気に緊張の色を隠して言ったのが、そのセリフ。
頭の中は、真っ白だった。
せっかく練ったシチュエーションは、表に出ることもないまま消えてしまった。
だから、「まぁいいけど」って返事をもらった俺がどれだけ安堵して、どれだけ救われて、どれだけ嬉しかったか……なんて、きっと真那は知らない。
付き合ってすぐの土曜日。
その日は真那の誕生日だった。
ソファの上で毛布にくるまった真那はスマホをいじっていた。俺はその向かいに座って手の中の小さな箱を何度も開けたり閉じたりしてた。
仕事帰りに立ち寄った店でたまたま手に取ったシルバーリング。
“真那は、もう俺のだから”って印。
「こんど、ちゃんとしたやつ買うから。これは、とりあえず。」
そう言うつもりだった。真那を大事にしてるって見せたかったんだ。
でもいざ手渡そうとしたとき、タイミングを測りすぎて、照れ臭すぎて……渡すのを躊躇った。
真那がふと顔を上げて、「なに?」って目でこっちを見た。
その一瞬で、喉の奥が詰まった。
受け取ってもらえなかったらどうしよう。そんな情けない想像が、全部を押し流した。
だから俺は、ふざけた調子で言った。
「これ、景品。」
渡したあと、すぐに視線を逸らした。
真那は何も言わず、リングを受け取って、ゆっくり薬指にはめた。
嬉しそうに笑う真那を抱きしめて、そのまま押し倒したのは言うまでもない。
俺の腕の中で乱れる真那が愛しくて、"ぜったい離さない"って……めちゃくちゃ大事にするって心に決めたはずだった。
毎日薬指を眺めては嬉しそうに笑う真那を見て、ちゃんとした指輪をあげたくなった俺は、仕事と掛け持ちで現場仕事を始めた。
会える時間は当然減ったし、体は常に疲れてる。
それでも真那の笑う顔が見たくて、サプライズで指輪を渡した瞬間の反応が楽しみで、それだけで頑張れる気がした。
ベタだけど……夜景の見えるホテルがいい。
花火が見える時間を狙って、俺はポケットから指輪を取り出す。
涙目になった真那の薬指に指輪をはめながら、
「俺と結婚してください。」って囁く。
真那は目を真っ赤にして頷く……二人はキスをしてそのままベットに……
ーーそんな想像を何度もした。
それなのに。
数ヶ月後、駅前の工事現場で交通誘導をしてた日……
誘導灯を持ち、額からの汗で沁みる目をタオルで何度もぬぐった。口の中はマスクをしているにもかかわらず、砂でざらついていた。
夏の暑さも手伝って、ダブルワークの疲れがピークだった。
視界の端で、何人かのグループが横断歩道で立ち止まるのが見えて、誘導灯を振る。
車を停車させて、横断歩道を渡らせようとそのグループを一瞥すると、その中に真那がいることに気が付いた。
慌ててヘルメットを眼下まで下げる俺。
そんな俺に見向きもせず、目の前を通過する真那。
隣を歩く関西弁の男が、少し屈むようにして何か話しかけ、真那は目を細めて笑った。ただそれだけのことに、体中の血液が沸騰して、俺の頭めがけて上昇する。
(誰だよ……触んな。そいつはオレのなんだよ。クソがッ。)
取引先か何か……仕事関係だってことは、すぐにわかった。
仕事の帰りに軽く会食でもしたんだろう。礼儀も、距離感も整ってた。
──それでも、関西弁男が真那に気があることはすぐにわかった。
だから、そいつに何か言われて笑う真那にもムカついた。
胸の奥がざらついて仕方なかった。
(笑うなよ……他の男の隣で。無防備なんだよ。)
汚れた作業着の自分と、細身のスーツがよく似合うその男を比べて惨めになったし、なぜかどうしようもなく遠く感じた。
俺の目の前を通り過ぎる時、彼女の目に俺はいなかった。
いや、気づかないフリだったのかも。
一瞬、手を掴んで引き留めようとしたけどやめた。
***
数時間後、へとへとになって家に帰ると真那は、いつものように食事の準備をしていた。
俺が好きなロールキャベツがテーブルに並んでいる。
「遅かったね。」
その言い方が、妙にひっかかった。
まるで、遊び歩いてたと思ってるような口ぶりに感じた。
こっちは泥まみれで働いてるってのに。
「別に。」
声にトゲが入ったのが、自分でもわかった。
けれど、真那はそんな棘入りの言葉を気にする様子もなく、空返事をした。
「ふーん、そう。」
急に腹が立った。
「……んだよその態度!」
持っていたバッグを床に叩きつけて怒鳴った。喉が焼けるようだった。
真那の肩は、小さく震えた。
怯えた様な素振りが俺の苛立ちを煽る。
「ごめん。」って謝りながら真那を抱きしめる自分を想像したのに、抱きしめて、優しくキスをするつもりだったのに……気がつけば、思ってもいない罵詈雑言を浴びせてた。
「ごめん。」
そう溢したのは俺じゃ無くて、真那の方。
目の端に真那の暗い表情が一瞬だけ引っかかった。
だから手を伸ばそうとした。
でも、真那はビクッと肩を揺らし、拒むように立ち上がって……パタパタと小走りで寝室へ入って行ってしまった。
扉が閉まる音だけが、やけに重たく響く。
その音にすらイラついて、ソファの下に転がったクッションに八つ当たりした。
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