恋が温まるまで

yuzu

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#15 ホテルで田上さんと……

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「俺がいないところで、もうお酒は飲まないで」

 田上さんは落ち着いていて、でもその静けさが、むしろ胸に刺さった。

 怒鳴られるよりも、ずっと。

 脚を揃えて座りなおした私は、毛布の端を指先でつまんでいた。目の前にいるのは、優しいはずの田上さん――けれど今、その視線の奥には、うっすらとした苛立ちが潜んでいた。

 「俺が困ってる理由、わかってくれた?」

 そう続けた田上さんは、視線を逸らさなかった。淡い照明の下、まっすぐに私を見つめる田上さんから目を逸らせず見つめ合う。

 「……ごめんなさい」

 絞り出すように言ったその言葉も、どこか乾いて聞こえる。心から謝るには、自分自身がまだ、事の重さを理解していなかったのかもしれない。

 田上さんは、小さく息を吐いた。落ち着こうとしているように見えるけれど、その吐息には、明らかに苛立ちが混じっていた。

 「ねえ、美亜」

 呼ばれて、私はようやく顔を上げる。彼の目が、真っ直ぐ私を捉えていた。

 「もし介抱したのが俺じゃなかったら……どうなってたかわかる?」

  声は低く、穏やかで、問いかけるようだった。
 怒りよりも、純粋な心配がそこにあるのがわかってしまう。

 私は苦笑いを浮かべた。なんとなく気まずくて、冗談にして済ませたくなった。

 「でも、私もう三十五だし……地味だし可愛くないし、そんな危ない目に遭うほど、需要がないですよ」

 ふっと空気が変わったのを感じた。

 田上さんは目を伏せたまま黙り込む。返事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけ、顔が強張ったのが見えた。

 沈黙が、ベッドの上に落ちた。

 冷房の音だけが、遠くで小さく鳴っている。私の膝の上に置いた手の指先が、すこしだけ冷えているのに気づいた。

「でも……ほら、何かあったら逃げますよ。足には自信が……」

 田上さんは無表情で私の両手首を掴んで、そのまま一緒にベッドに沈んだ。

 「試してみる?」

 声色は変わらない。
 それなのに、次の瞬間、両手首を包むように掴まれていた。

 乱暴さはない。力も強くない。
 けれど、ほどける気配は……無い。

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