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第44話 全部やっちゃう?
しおりを挟むアスラレイドの二人が去ってから、既に十日以上が経過した。
その間、情勢は大きく動いた。
キルレイドさんの諜報網によると、アスラレイド筆頭のジレイドが教会と繋がっているとしてマグレイアに殺害された。これによりリグド・テランは教会との戦争に突き進むことが決定的となった。
一方、教会勢力も早い段階でこれを察知。
全ての国家に対して軍隊の非常招集を要請した。
軍隊を編成して各地に配備されているが、既に局所的には小競り合いが起きているらしい。
だがこの時点で問題が発生することになる。
「ラヴェルサが出てきちゃったね」
「やっぱりそうなったか、って感じなんだよな」
アルフィナを捕えて以降、大人しくしていたラヴェルサだったけど、流石に付近に大軍勢を配備されたら、じっとしてるなんてできないだろう。アルフィナを取り返す動きと見られてもおかしくない。
しかも両陣営に対して攻撃を開始しているみたいだ。
流石に詳しい情報は入って来ないけど、ため込んでいた部隊を展開すればかなりの数になるはずだ。
「でもさぁ、これってセイレーンが言ってみたいに、どさくさ紛れにアルフィナを助けられるんじゃないかな」
「それだとラヴェルサがもっと狂暴化して沢山の人が死んじゃうよ?」
確かにその通りだ。それはアルフィナが望む世界じゃない。そうなんだけど、ラヴェルサがいたとしても両陣営……特にリグド・テランが撤退することはないだろう。
となれば、いずれにせよ多くの死傷者が出るのは間違いない。
だったら後は覚悟の問題なんじゃないか。そう思えてきた。
「このまま進んで両勢力がぶつかり合ったら、世代を越えた恨みが残るかもしれない。だったらその矛先を少しでもラヴェルサに向ければいいんじゃないか?」
そして、それは少しでも早い方がいい。
これが正しい選択かは分からない。
けど、このまま手をこまねいていても状況は悪化するだけだ。
俺は会議室に皆を集めて、意見を聞くことにした。
――――――――――――――――
「……というわけなんですど、どう思いますか?」
「それで狂暴化したラヴェルサにはどう対応するんだ?」
やっぱりその質問は来るよなぁ。
「そこは世界が一つになって、打倒ラヴェルサ……とはいきませんよね、流石に」
周りの視線が気になって、つい弱気になってしまう。
「アルフィナ様を助けるタイミングとしてはいいと思う。だがこれから戦おうとする連中が協力するかと問われれば、否定せざるを得ない」
ですよね~。
イオリの意見には同意しかない。
自分の中でまとまっていないことを言うべきじゃなかったか。
「でも案としては悪くないですよね」
そう言ってくれたのは、これまで発言することのなかったフォルカだった。
「問題はどうやってそういう空気に持っていくかなんですけど……」
マグレイア率いるリグド・テラン、裏切りは許さないであろうルーベリオ教会。この二つがある限り、そんな空気にはならないだろう。
「だったら、全部潰しちゃう? なんて無理か」
レトの無邪気な発言だけど、何か引っかかる。
……そうか、そうだよな。
「一気に潰しちゃえばいいんだよ!」
「剣星、何を言ってるんだ。本気か?」
「本気も本気だよ。リグド・テランはマグレイアたちを倒して、セイレーンかドゥディクスに権力を握らせる。教会の方はリグド・テランと繋がっていたことを告発する。これで両陣営のトップを変えたらいけるんじゃないか?」
「セイレーンの方はイケるかもしれないが、教会はどうだろうな。被害はそれほどでもないが、もう戦争の真っ最中だし、教会に不信感を持っても協力するとまではいかないんじゃないか?」
「そこでアルフィナの登場ですよ。死んでいたと思った聖女様が生きていた。やっぱり教会は嘘つきだったんだ、ってことにするんです。アルフィナはまだ十一歳。同情も誘えると思います」
正直、こんな手は使いたくないさ。
アルフィナに負担をかける事になるし。
でも他に良い案なんて思い浮かばないし、時間もない。
「具体的な時期については、双星機のパーツが届いてからってことになると思います。その間に戦乱が拡大するかもですけど、その分ラヴェルサが外に広がれば、それだけチャンスが大きくなるってことなんで」
「だったら、今の内から行動すべきだな。ラヴェルサの活動が活発になって、各地から被害報告が上がっているが、両陣営は戦線に集中してるから部隊を派遣できていない。そこを聖女様の部隊が救出する。この作戦でいこう」
キルレイドさんの提案はもっともだ。そうしてリグド・テラン内でもアルフィナの名声をあげて行けば、近い将来役立つだろう。
「……というか、俺の案を受け入れてくれるんですか? 正直そこまで深く考えてたわけじゃないし、勝算も低いと思います」
なんだかキルレイドさんが鼻で笑った気がした。
「それは分かってるさ。でもな、俺達にしてもここまで急激に事態が動くとは思っていなかったんだ。実際に戦争してるエリステルより、教会に矛先が向くなんて完全に想定外だ。最悪でもマグレイアを引きずり下ろさないと破滅に向かってしまう。いずれはロジスタルスにも矛先が向くだろう。だから、剣星の考えに乗るのさ」
他のメンバーも異論はない様だ。
とりあえず俺達は部隊を分けて、各地に向かう事になった。
俺とフォルカは神聖レグナリア帝国方面に向かう。
擬装しているとはいえ、流石にラグナリィシールドがリグド・テランを動き回っていたら怪しまれてしまう。そのうち行かなくちゃならないかもしれないけどさ。
俺は格納庫に向かい、そこでイオリの背中を見つけると近づいて行った。
「(ケンセー。イオリとは距離をとるんじゃなかったの?)」
「(パーツが届いたらすぐにアルフィナ救出に向かうからな。これからは出動が増えるだろうし、先に話だけでも通しておこうと思って)」
メカニックとの話が一段落するのを待って、声をかけに行く。
「イオリ、ちょっといいか?」
「ああ、ちょうど私もお前に用があったんだ。ラグナリィシールドのことだが、このまま剣星が使ってくれ」
「いいのか? 俺は助かるけど」
「ようやくロジスタルスの機人の癖に慣れたところだ。剣星が今から乗りこなすのには時間がかかるだろう? それに剣星の方が機人の能力を最大限に引き出せる。私よりもずっとな」
これはまだ塞ぎ込んでるのか、自虐なのか判断に迷うな。
でも俺達に残された時間は多くない。
ここでちゃんと伝えないと。
「ありがとう、イオリ。大事に使わせてもらうよ。俺の方の要件だけど、双星機のパーツが届いたら、イオリには俺と一緒に双星機に乗ってもらうからな」
これは俺が双星機の操者になると言われた瞬間から考えていたことだ。
双星機は複座型の機人。
アルフィナを助けに行くなら、イオリと共に乗り込むのが一番のはず。
イオリがどんなに自分を責めていたとしても断る選択肢はないだろう。
「……わかった。私もすぐに出発だ。剣星、気を付けて行けよ」
「イオリもな」
これからイオリはリグド・テラン方面に向かうと聞いている。
直接の戦闘はなかったけど、教会にとっては仮想敵国だったが大丈夫だろうか。
それとも今のイオリにとってはアルフィナ最優先だから問題ないのか?
とはいえ、俺もイオリの心配ばかりしている時間は無い。
報告によると多くの村が襲われているらしい。
教会勢力側はほとんどの住民が城壁に守られたエリアに住んでいるけど、そうじゃない集落もある。基本的にはラヴェルサの領域から遠い場所なので、これまでは少ない戦力で自衛できていたそうだ。
でも今回暴れてるのは、地下プラントから出てきたばかりのラヴェルサの機人だ。霧の影響を強く受けているから、今まで通りの戦力だと危険かもしれない。
今回、ラヴェルサがどの程度の規模で暴れまわるのかは、キルレイドさんたちにも予想が付いていない。今までラヴェルサを刺激しないようにしてきたから当然なんだけど、報告を聞く限りじゃ相当な範囲に広がっているとしか思えない。それは聖女を逃がさないという、ラヴェルサの理念みたいなものと矛盾しているような気がする。それとも他に理由があるのだろうか。
「剣星さん、そろそろ行きましょう」
「待たせたな、フォルカ」
今は頭でごちゃごちゃ考えるより、体を動かすことを優先だ。
ラヴェルサ本陣に向かう前に実戦感覚を取り戻す必要もあるだろう。
今回、俺たちに同行するのはロジスタルスの装甲機人部隊六機。
俺とフォルカにそれぞれ三機づつ付いて二チームを編成する。
彼らは模擬戦は繰り返してきたけど、ラヴェルサとの戦いは初めて。
ルクレツィア傭兵団の時も交替でリーダーをやってたけど、今回は実力も知らないメンバーばかり。はたして初出撃の新人を守りながら戦えるのか、正直かなり不安は大きい。でも俺がここで不安な顔をしてたら、彼らはもっと緊張してしまうはず。
「(大丈夫だよ。ケンセーがいつも通りだらしない顔してるから、皆リラックスできてるよ)」
「(……ありがとよ)」
そうだよな。俺はいつも通りでいい。
緊張した顔をしてたって、できることは変わらない。
レトはそういってくれてるんだ。
……たぶん。
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