イケメン御曹司は、親友の妹を溺愛して離さない

藤永ゆいか

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第1章

◇みんなでカラオケ

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 入学式とホームルームが終わって、放課後。
 スクールバッグを肩にかけたわたしの元に、杏奈と真織がやって来た。

「ねぇ、依茉ちゃん。今日ってこのあと、ヒマ?」
「うん。今日は特に何も予定ないけど……」
「だったらさ、これからまおりんと3人でカラオケ行かない?」

 カラオケか。そういえば、しばらく行ってなかったな。

「今日は入学式だったから、まおりんもまだ部活ないみたいだし」

 中学時代バレー部だった真織は、高校でも引き続きバレー部に入ると言っていた。

「今日は放課後に3人揃って遊べる貴重な日だから、どうかな?」
「そうだね。行きたい!」

 久しぶりに友達と歌って、失恋とか今までのことを色々と発散したい。

「それじゃあ、今から駅前のカラオケに……」
「あれ? もしかして、キミたちもこれからカラオケ行くの?」

 わたしたちの会話が聞こえていたのだろうか。
 明るめの茶髪で制服も少し着崩している男子が、声をかけてきた。

「俺らも今から、駅前のカラオケに行くんだけど。良かったら、親睦も兼ねて一緒に行かない?」

 え!?

 声をかけてきた茶髪くんの後ろには、更に男子が2人。

「えっ、うそ。やばい! あの人、大翔ひろとに似てるんだけど!」

 男子3人のうちのメガネをかけている子が、真織がずっと応援している俳優の大翔くんに似ているらしく、キャーキャー言っている。

「ねぇ、依茉、杏奈! あたし、あの人たちと一緒にカラオケ行きたい」

 え!?

「大翔似の男子と、お近づきになりたいの」

 手を合わせて頼み込んでくる真織に、わたしは杏奈と顔を見合わせる。

 今朝、お兄ちゃんには『学校で男に声をかけられても、絶対について行ったらダメだぞ』って言われて。
 わたしも失恋したばかりだから、男の子とは必要最低限しか関わらないって思っていたけど。

「ねっ、お願いっ!」

 こんなにも頼み込んでくる真織は、初めてかもしれない。
 わたしは、杏奈とお互い頷き合った。

「まおりん、いいよ」
「せっかく声かけてもらったし、みんなで行こうか」
「やった! 2人ともありがとう~!」

 これは、大事な友達である真織のため。そして、クラスメイトと仲良くなるため。
 そう自分に言い聞かせながら、わたしは皆と一緒に教室を出た。


 学校から歩いて15分。みんなで駅前のカラオケへとやって来た。
 受付を済ませてドリンクバーで飲み物を入れると、指定されたカラオケルームへと向かう。

 最初は1人ずつ簡単に自己紹介し、1曲ずつ順番に曲を入れて歌い、純粋にカラオケを楽しんでいたのだけど。

「東野さんって、可愛いよね」
「えっ、本当に?」
「うん。俺さ、東野さんのことめっちゃタイプ」

 教室で最初に声をかけてきた茶髪男子・山瀬やませくんが、杏奈の横で話している。

 わたしはその様子を向かいの席で眺めながら、リンゴジュースをストローで啜る。

 真織も、カラオケルームに来てから推しに似ているというメガネ男子・尾上おのうえくんの隣をずっとキープし、彼と話しこんでいる。

 何だろう、これは。カラオケというより、合コンみたいな感じになってない?

 そう思いながらわたしがポテトへと手を伸ばしたとき、同時に横から伸びてきた手と軽くぶつかってしまった。

「あっ、ごめんなさい」
「ううん。僕のほうこそ、ごめん」

 わたしが手を引っ込めて謝ると、ニコッと微笑んでくれた彼。クラスメイトの三原みはら楓吾ふうごくん。
 サラサラの黒髪に、目力のある大きな二重の瞳。筋の通った高い鼻と、薄くて形の良い唇。彼は、顔面偏差値がかなり高い。

 みんなでカラオケに来て最初に自己紹介をしたとき、彼のお父さんがリゾート会社の社長をしているって言ってたっけ。
 言っていたのは本人ではなく、友達の山瀬くんだけど。

 三原くんたち男子3人は、高校受験で花城学園に入学したらしいが、中学時代からの知り合いだそう。

「あっ。そのポテト、良かったら西森さんがどうぞ」

 話す相手もおらず、わたしがずっとポテトばかりつまんでいたからか、お皿に山盛りだったはずのポテトはいつの間にかラストひとつになっていて。それを三原くんが、わたしに譲ってくれた。


「どっ、どうもありがとう」

 せっかく譲ってもらったので、わたしはポテトを頂くことに。だけど……最後のポテトを手にして、わたしはふと思った。

 もしかして三原くんに、よく食べる女だって思われていないかと。そう思うと急に恥ずかしくなってきて、わたしはうつむく。

「どうしたの? 西森さん。ポテト食べないの?」
「たっ、食べるよ……うっ、ごほごほ」

 急いでポテトを口に入れ、よく噛まずに慌てて飲み込んだせいか、わたしはむせてしまった。

「西森さん大丈夫!? ごめんね、僕ちょっと背中触るよ? 嫌だったら言って」

 三原くんが、ブレザーの上からわたしの背中を優しくさすってくれる。

「ごほっ。ごめんね、三原くん……」
「ううん、全然」

 うう……今のわたし、何かめちゃくちゃかっこ悪い。
 
 涙目になりながら一気に残りのジュースを飲み、グラスはあっという間に空になる。

「あっ。ジュース、なくなっちゃった」
「僕、入れてこようか?」
「ありがとう。でも、ドリンクコーナーは上の階だから。三原くんに申し訳ないし」

 三原くんのグラスには、まだ半分以上飲み物が残っている。

「三原くんが、背中さすってくれたお陰で落ち着いたから。自分で入れてくるよ」

 わたしは、席から立ち上がる。

「あれ。西森ちゃん、もしかして飲み物入れにいくの? 俺の分も頼んでいーい?」
「おい、山瀬! それくらい、あとで自分で行けよ」

 三原くんが、山瀬くんを睨む。

「いいよいいよ。みんなの分も、ついでに入れてくるから。何が良い?」

 わたしは皆の注文を聞くと、カラオケルームを出た。
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