隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか

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第1章

ボディーガード兼カノジョ⁉②

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「すごいよね。女子中学生がたった一人で、体格の良い大人の男性を倒しちゃうなんて」
「も、もしかして宇山くん、今の……見てた?」
「もちろん。羽生さんが男に体当たりして、腕を固めるところまでバッチリ」

ニヤリと、不敵な笑みを浮かべる宇山くん。

う、うそでしょ。よりによって、クラスメイトに見られちゃうなんて……!

背筋を、スッと冷たいものが這い上がってくる。

「お、お願い、宇山くん。このことは、学校のみんなには黙ってて?」

教室で宇山くんは、ほとんど誰とも喋らないから。きっと口外せずに黙っててくれるはず。

そんな希望を胸に、私は宇山くんに向かって頭を下げた。

「……だったら、羽生さん。俺のボディーガード兼カノジョになってよ」
「はいっ!?」

あまりにも突拍子もない提案に、私の口から間抜けな声が飛び出した。

ボディーガードって、あまり耳慣れない言葉だけど……確か、総理大臣とか偉い人たちに付き添って、身の安全を守る人のことだよね?

「ボ、ボディーガード兼カノジョって……わ、私が宇山くんの?」
「ああ。いま俺が見たことを、学校で話さないための交換条件だよ」

えっ、でも……なんで!? どうして私が?
私が戸惑っていると。

「彗さま」

タキシード姿の30代くらいの男性がどこからか現れ、宇山くんに折り目正しくお辞儀する。

「え。す、彗さまって……?」
「この人は、俺の執事の見上みかみ

し、執事!?

「初めまして。彗さまの執事をしております、見上と申します」

見上さんが、私に向かって深々とお辞儀してくれた。

「ここじゃ目立つ。とりあえず、場所を変えようか」

そう言って宇山くんが指さしたのは、少し離れたところに停めてある黒塗りの高級車。まるで映画に出てくるような、ピカピカの車だ。

え。宇山くんって、私と同じ一般家庭の出身なのかと勝手に思っていたけど……違うの?
ゴクリと唾を飲み込み、私は宇山くんを見つめる。

「羽生さんに全部、ちゃんと説明するから。俺と一緒に来て?」
「う、うん」

私はおとなしく宇山くんについて行き、高級車の後部座席に彼と一緒に乗り込んだ。


「改めて。俺の本当の名前は、三池みいけ彗。宇山は祖母の旧姓で、俺の家は三池財閥だ」
「み、三池財閥!?」

その名を聞き、私はカッと目を大きく見開いた。驚きすぎて、声も出ない。

「羽生さん、驚きすぎじゃないか?」
「そ、そりゃあ驚くよ」

三池財閥とは、日本でも有数の大財閥。おそらく、日本で知らない人はいないんじゃないかってくらい有名な財閥だ。

まさか宇山くんが、あの三池財閥の御曹司だったなんて……まるで夢を見ているようだった。

「私からも説明させて頂きます」

運転席にいる執事の見上さんが、口を開く。

「彗さまは、三池財閥の御曹司であるがゆえに、幼い頃から誘拐されたり命を狙われることが多々ありました」
「誘拐、命を狙われる……」

私は思わず、見上さんの言葉を繰り返してしまう。そんなことが、本当にこの世であるなんて。

「そのため彗さまは中学では変装し、家のことも隠し、偽名を使って学校生活を送られているのですが……。より安全な学校生活を送るためにも、校内で新たにボディーガードをつけるようにと、旦那さまから言われておりまして」

宇山くんが掛けていたメガネを外し、長い前髪を搔きあげる。
すると、目鼻立ちの整った美しい顔があらわになった。

ああ、彼の素顔を見るのは二度目だけど……何度見てもかっこいいな。

「それで、彗さまのクラスメイトである羽生さんに、彗さまのボディーガードをお願いしたいという訳です。クラスメイトなら、学校でいつも彗さまの近くにいられますしね」
「なるほど……ちなみに、彼女というのは?」

見上さんの説明で、ボディーガードの件は理解できた。だけど、「彼女」の意味が分からない。

「近々、三池財閥のパーティーが開催されるんだけど。まあ実際は、俺の将来の結婚相手探しというべきか。パーティーに出席した令嬢の中から、俺の婚約者候補を選ぶと父が話していて」

こ、婚約者候補!? 宇山くんはまだ中学生なのに、お父さんはもう将来の結婚相手を探してるの?

「そんなの俺は絶対に嫌だから。それを断るためにも、いま真剣に付き合ってる彼女がいるって父さんに話そうと思ってて。それで、君に彼女役を頼みたいんだ」

たった今説明してもらって、事情は分かったけど……。

「い、いくら何でも、ボディーガードなんて無理です! もちろん、彼女役も!」
「……何言ってんの?」

不意に片腕でグッと抱き寄せられて、目の前に端正な顔が迫った。

彼の顔がこんなに近くにあるなんて……心臓がバクバクと音を立てる。

「君に、拒否権なんてないと思うけど?」
「ひっ!」

突然の宇山くんのキレイな顔のドアップに、私は卒倒しそうになる。

「もし引き受けてくれなかったら、今日俺が見たことは全部、学校の子たちに話しちゃうけど……いいの?」
「そっ、それは……!」

「羽生さんこの前、友達の江藤さんに『早く私の王子様が現れないかなー?』って、話してたよね?」
「え。宇山くん、そのときの話聞いてたの?」

「そりゃあ、君とは席が近いんだから。聞きたくなくても聞こえるよ」

……う。まさか、あの話を聞かれていたなんて!

「今日のひったくりを撃退した話に加えて、羽生さんが昔空手の全国大会で優勝したことがあるって話をしたら……男子たちはどう思うかな?」
「え?」
「王子様が現れるどころか、もしかしたら小学生のときみたいに、男子はみんな離れていっちゃうかもね?」

口の端を、くいっと上げて宇山くんが笑う。その笑顔は、どこか悪魔的だった。

「ど、どうしてそれを……」

私は、恐怖でカタカタと震える。

「三池財閥の情報網、舐めないでよね」

そうだよね。あの三池財閥なら、個人情報の収集なんて簡単だよね。恐るべし、大財閥。

「ねぇ。中学でもまた、恋愛できなくて良いの? 彼氏、できなくても良いの?」

宇山くんに尋ねられ、私は口ごもる。

まさか、いつも教室の隅っこで静かに読書しているような彼に、こんなことを言われる日が来るなんて1ミリも思っていなかった。

「お願いします、羽生さん。彗さまのこと、どうか守って頂けませんか?」

見上さんが、私に頭を下げる。

……まだ始まったばかりの、花城学園での学校生活。
できれば皆と楽しく過ごしたいし、今度こそ恋だってしたい。

そして何より……転校初日に私が遅刻しそうになったとき、宇山くんに助けてもらったから。

宇山くんが困っているのなら、今度は私が助けたいって思った。

「分かりました。やります」
「本当に?」
「はい。私で良ければ」

私は、覚悟を決めた。

「ありがとう。それじゃあ、契約成立ってことで。今日からよろしく。俺のボディーガード兼カノジョさん」

宇山くんが、私に向かってパチンと片目を閉じる。

「ちなみに、俺の正体や君がボディーガードってことは、学校や外では内密に頼むよ」
「分かった」

何だか、とんでもないことを引き受けてしまった気がするけど……頑張るしかない。

こうして、宇山くんと私の秘密の関係がスタートしたのだった。
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