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第1章
ボディーガード兼カノジョ⁉①
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私が花城学園の中等部に転入して、2週間ほどが過ぎたある日の朝。
「すごい。相変わらず、高級車ばっかりだなぁ」
校門前のロータリーには車で通学する生徒たちの車列ができていて、それを横目で見ながら私は校門をくぐる。
転校初日以来、もう二度と遅刻なんてしないようにしようと思った私は、朝早く家を出るようになった。
「菜乃花ちゃん、おはよう」
「おはよう、千春ちゃん!」
下駄箱のところで私に明るく声をかけてくれたのは、クラスメイトの江藤千春ちゃん。
栗色の髪を三つ編みにしている千春ちゃんは、とある大企業の社長を父に持つお嬢様だ。
少し前の体育の授業中、急に体調が悪くなった千春ちゃんを私がお姫様抱っこして保健室まで連れていったのをキッカケに、仲良くなったんだ。
「おお、羽生! いいところに来たな」
千春ちゃんと話しながら廊下を歩いていると、職員室の前で数学の先生に声をかけられた。
「1限目は羽生のクラスの担当なんだが、前回の授業で回収した課題のノートを返すから、教室まで運んでおいてくれないか?」
そう言って数学の先生は、私にクラスメイト全員分のノートを渡してきた。
うっ。教科書の入ったスクールバッグを肩にかけた状態で、クラス全員分のノートも運ぶとなると、さすがにちょっと重いけど……。
「先生、用事があるから。悪いけど頼んだぞ」
「は、はい!」
早く学校に馴染みたくて、クラスメイトや先生のお手伝いを率先してやっていたら、こうしてたまに雑用を頼まれるようになった。
でも、人から頼りにされるとやっぱり嬉しいから。頑張ろう!
私は、ノートを胸の前に抱えて歩く。
「菜乃花ちゃん、わたしも手伝うよ」
「ありがとう」
千春ちゃんが、課題のノートを半分取ってくれた。
「でも、菜乃花ちゃんって小柄なほうだけど力は結構あるよね? 今もふらついたりせずに、クラス全員分のノートを軽々と持ってたし。この前も、わたしを横抱きにして保健室まで運んでくれて……」
感心したように話す千春ちゃんに、私の心臓がドキッと跳ねる。
ま、まずい。空手や武道のことは千春ちゃんをはじめ、学校では秘密なのに。
私の身長は154cmと、女子中学生の平均より少し低いけど。昔から鍛えていたせいか、握力や腕力は同年代の女の子よりも強いらしい。
「えーっと。こう見えて私、力持ちなんだよね。おじいちゃんの家が農家だから、お手伝いでお米を運んだりもしてたし!」
おじいちゃんの家の話は、もちろん本当のこと。
必死で誤魔化すと、千春ちゃんは「へぇー!」と納得してくれた。
「それにしても、わたしをお姫様抱っこしてくれたときの菜乃花ちゃん、王子様みたいでかっこよかったよ」
「あはは」
私は、苦笑いを浮かべた。学校で王子様を見つけるどころか、まさか自分自身が王子様みたいって言われるなんて。
やっぱり、女の子をお姫様抱っこしたのはまずかったかな……。これからは、もっと気をつけないと。
心の中でため息をつきながら、私は反省した。
千春ちゃんと話しながら歩いていると、2年A組の教室に到着。
「おはよう、宇山くん」
私は教卓に課題のノートを置くと、自分の席に行く途中、近くの席の宇山くんに声をかけた。
先日、学校に遅刻した私を助けてくれた男の子・宇山彗くんは、私と同じ2年生でクラスメイトだということがあのあと分かった。
「おはよう、羽生さん」
チラッと私を見ると、宇山くんはすぐに文庫本へと視線を戻す。
宇山くんは基本休み時間はいつも自分の席に座り、こうして一人静かに読書してることが多い。
「おーい、宇山。お前、何読んでんだよ?」
「……太宰治の人間失格」
話しかけてきたクラスメイトの男子に、宇山くんは顔色ひとつ変えずに答える。
「へ、へぇー。読書の邪魔して悪かったな」
男子は苦笑いを浮かべると、気まずそうにそそくさと離れていった。
「宇山くんって、いつも何考えてるのか分からないよね」
その様子を見ていた千春ちゃんが、口を開く。
「前髪も長くて目にかかってて、表情とかも分かりづらいし」
確かに。宇山くんは教室ではほとんど話さないし、今みたいに無表情なことが多い。
私を裏門まで連れて行ってくれたときは、口数もあって笑顔も見せてくれていたけど。
あのときと今、どっちが本当の宇山くんなんだろう?
放課後。
今日はいつも読んでいる少女漫画の発売日だったことを思い出した私は今、本屋さんへ向かってひとり街を歩いていた。
よし、所持金は大丈夫だな。
私が財布の中のお金を確認し、スクールバッグにしまったそのとき。
「ドロボーー!」
え!?
突然後ろから女性の叫び声が聞こえて振り向くと、バッグを持ったサングラスの男の人が走ってくるのが見えた。
「誰か! その男をつかまえてーー!」
サングラスの男の人の後ろを若い女性が追いかけている状況から、どうやらひったくりのようだ。
ここに引っ越してくる前、空手や武道のことは秘密にするって決めたけど。
ここは、学校じゃないし……何より、たった今被害に遭っている女性を、見て見ぬフリするなんてできない。
そう思った私は、こちらへ走ってくるサングラスの男の人にドンッと体当たりした。
男は体勢を崩して倒れ込み、私はすばやくその背中を押さえつけ、動きを封じるように腕を固める。
「痛たたたた!」
「さあ、大人しく観念してください!」
私が腕をねじり上げた拍子に、男の手からバッグが落ちた。
***
「バッグを取り戻してくれて、どうもありがとう」
その後、ひったくり犯は駆けつけた警察官に捕らえられ、私は被害に遭った女性に深々と頭を下げられた。
「いえいえ。無事で良かったです」
「本当にありがとうございました」
私にペコッともう一度お辞儀すると、女性は歩いていった。
さて。無事に解決したし、本屋さんに行こうかな。そう思い、私が歩き出したとき。
「へー。羽生さんって、強いんだね」
後ろから聞いたことのある声がして、私は足を止めた。
こ、この声は……。
何となく嫌な予感がして恐る恐る後ろを振り返ると、クラスメイトの宇山くんが立っていた。
「すごい。相変わらず、高級車ばっかりだなぁ」
校門前のロータリーには車で通学する生徒たちの車列ができていて、それを横目で見ながら私は校門をくぐる。
転校初日以来、もう二度と遅刻なんてしないようにしようと思った私は、朝早く家を出るようになった。
「菜乃花ちゃん、おはよう」
「おはよう、千春ちゃん!」
下駄箱のところで私に明るく声をかけてくれたのは、クラスメイトの江藤千春ちゃん。
栗色の髪を三つ編みにしている千春ちゃんは、とある大企業の社長を父に持つお嬢様だ。
少し前の体育の授業中、急に体調が悪くなった千春ちゃんを私がお姫様抱っこして保健室まで連れていったのをキッカケに、仲良くなったんだ。
「おお、羽生! いいところに来たな」
千春ちゃんと話しながら廊下を歩いていると、職員室の前で数学の先生に声をかけられた。
「1限目は羽生のクラスの担当なんだが、前回の授業で回収した課題のノートを返すから、教室まで運んでおいてくれないか?」
そう言って数学の先生は、私にクラスメイト全員分のノートを渡してきた。
うっ。教科書の入ったスクールバッグを肩にかけた状態で、クラス全員分のノートも運ぶとなると、さすがにちょっと重いけど……。
「先生、用事があるから。悪いけど頼んだぞ」
「は、はい!」
早く学校に馴染みたくて、クラスメイトや先生のお手伝いを率先してやっていたら、こうしてたまに雑用を頼まれるようになった。
でも、人から頼りにされるとやっぱり嬉しいから。頑張ろう!
私は、ノートを胸の前に抱えて歩く。
「菜乃花ちゃん、わたしも手伝うよ」
「ありがとう」
千春ちゃんが、課題のノートを半分取ってくれた。
「でも、菜乃花ちゃんって小柄なほうだけど力は結構あるよね? 今もふらついたりせずに、クラス全員分のノートを軽々と持ってたし。この前も、わたしを横抱きにして保健室まで運んでくれて……」
感心したように話す千春ちゃんに、私の心臓がドキッと跳ねる。
ま、まずい。空手や武道のことは千春ちゃんをはじめ、学校では秘密なのに。
私の身長は154cmと、女子中学生の平均より少し低いけど。昔から鍛えていたせいか、握力や腕力は同年代の女の子よりも強いらしい。
「えーっと。こう見えて私、力持ちなんだよね。おじいちゃんの家が農家だから、お手伝いでお米を運んだりもしてたし!」
おじいちゃんの家の話は、もちろん本当のこと。
必死で誤魔化すと、千春ちゃんは「へぇー!」と納得してくれた。
「それにしても、わたしをお姫様抱っこしてくれたときの菜乃花ちゃん、王子様みたいでかっこよかったよ」
「あはは」
私は、苦笑いを浮かべた。学校で王子様を見つけるどころか、まさか自分自身が王子様みたいって言われるなんて。
やっぱり、女の子をお姫様抱っこしたのはまずかったかな……。これからは、もっと気をつけないと。
心の中でため息をつきながら、私は反省した。
千春ちゃんと話しながら歩いていると、2年A組の教室に到着。
「おはよう、宇山くん」
私は教卓に課題のノートを置くと、自分の席に行く途中、近くの席の宇山くんに声をかけた。
先日、学校に遅刻した私を助けてくれた男の子・宇山彗くんは、私と同じ2年生でクラスメイトだということがあのあと分かった。
「おはよう、羽生さん」
チラッと私を見ると、宇山くんはすぐに文庫本へと視線を戻す。
宇山くんは基本休み時間はいつも自分の席に座り、こうして一人静かに読書してることが多い。
「おーい、宇山。お前、何読んでんだよ?」
「……太宰治の人間失格」
話しかけてきたクラスメイトの男子に、宇山くんは顔色ひとつ変えずに答える。
「へ、へぇー。読書の邪魔して悪かったな」
男子は苦笑いを浮かべると、気まずそうにそそくさと離れていった。
「宇山くんって、いつも何考えてるのか分からないよね」
その様子を見ていた千春ちゃんが、口を開く。
「前髪も長くて目にかかってて、表情とかも分かりづらいし」
確かに。宇山くんは教室ではほとんど話さないし、今みたいに無表情なことが多い。
私を裏門まで連れて行ってくれたときは、口数もあって笑顔も見せてくれていたけど。
あのときと今、どっちが本当の宇山くんなんだろう?
放課後。
今日はいつも読んでいる少女漫画の発売日だったことを思い出した私は今、本屋さんへ向かってひとり街を歩いていた。
よし、所持金は大丈夫だな。
私が財布の中のお金を確認し、スクールバッグにしまったそのとき。
「ドロボーー!」
え!?
突然後ろから女性の叫び声が聞こえて振り向くと、バッグを持ったサングラスの男の人が走ってくるのが見えた。
「誰か! その男をつかまえてーー!」
サングラスの男の人の後ろを若い女性が追いかけている状況から、どうやらひったくりのようだ。
ここに引っ越してくる前、空手や武道のことは秘密にするって決めたけど。
ここは、学校じゃないし……何より、たった今被害に遭っている女性を、見て見ぬフリするなんてできない。
そう思った私は、こちらへ走ってくるサングラスの男の人にドンッと体当たりした。
男は体勢を崩して倒れ込み、私はすばやくその背中を押さえつけ、動きを封じるように腕を固める。
「痛たたたた!」
「さあ、大人しく観念してください!」
私が腕をねじり上げた拍子に、男の手からバッグが落ちた。
***
「バッグを取り戻してくれて、どうもありがとう」
その後、ひったくり犯は駆けつけた警察官に捕らえられ、私は被害に遭った女性に深々と頭を下げられた。
「いえいえ。無事で良かったです」
「本当にありがとうございました」
私にペコッともう一度お辞儀すると、女性は歩いていった。
さて。無事に解決したし、本屋さんに行こうかな。そう思い、私が歩き出したとき。
「へー。羽生さんって、強いんだね」
後ろから聞いたことのある声がして、私は足を止めた。
こ、この声は……。
何となく嫌な予感がして恐る恐る後ろを振り返ると、クラスメイトの宇山くんが立っていた。
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