隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか

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第2章

ドキドキの体育祭②

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借り物競争がスタートすると、色々なところで声が飛び交う。

「ガラケーを持ってる人がいたら、貸してくださいー!」
「お題が“髪を三つ編みにしてる人”なんだけど。三つ編みの人、いませんかー?」

お題が書かれたカードを手にした子たちが、クラスの応援席のところまで走ってくる。

「千春ちゃん、三つ編みだよね!?」

栗色の髪をいつも三つ編みにしている千春ちゃんに、私は声をかける。

「あっ、うん。はい! わたしで良ければ、いきます!」

千春ちゃんが、私たちと同じ白チームの男子と一緒に駆けていく。

借り物競争は順調に進み、いよいよアンカーの彗くんや蓮くんの番がやって来た。

私は、走り出した彗くんの姿を目で追いかける。

落ちていたお題のカードを拾った彗くんは、その場で足を止めた。

あれ? どうしたんだろう、彗くん……もしかして、難しいお題を引いちゃったのかな?
高級時計とか、きれいな女性……とか。

私がヒヤヒヤしていると、お題のカードを手にした彗くんがようやく走り出す。
それを見てホッとした途端、周囲がザワザワし始める。

「きゃあ。蓮くんがこっち来るよ」

どうやら蓮くんが、私たちのクラスの応援席に向かって来るみたい。

隣のクラスで青チームの蓮くんが、わざわざ白チームの応援席に来るなんて。

一体どんなお題を引いたんだろう?

「速水くん、何のお題引いたのー?」
「教えてー?」

他の女の子たちは蓮くんが口を開くのを、身を乗り出して待っている。

蓮くんは白チームの応援席までやって来ると、私の前で足を止めた。

「菜乃花ちゃん、僕と一緒に走って!」
「……へっ?」

わ、私!?

まさかの指名に、私だけでなく周りの女の子たちも目を見開いている。

「僕に協力して欲しい」

蓮くんの手にあるカードには、『白色のハチマキをつけた女子』と書いてあった。

白色のハチマキをつけた女子なら、何も私じゃなくても……一瞬、そう思ったけど。

蓮くんが、せっかく私に声をかけてくれたんだし。私で役に立てるのなら……。

そう思い、私が蓮くんの手を取りかけたそのとき。

息を切らせた彗くんが、応援席の前まで来て。

「菜乃花!」

私の名前を、大声で呼んだ。

「菜乃花、俺と一緒に来て!」

彗くんの大きな手が、差し伸べられる。

「ちょっと、彗。僕が先に、菜乃花ちゃんに頼んでるんだけど?」

蓮くんが彗くんを、軽く睨む。

ど、どうしよう。蓮くんと彗くんの二人から、手を差し伸べられるなんて……。

私は、どっちの手を取ったら良いんだろう。

「頼む、菜乃花。俺のお題は、菜乃花じゃないとダメなんだ」

彗くんの声には、これまでの彼からは想像できないほどの真剣さがこもっていた。その声にハッとしたのとほぼ同時、彗くんの大きな手が、私の手を取った。

「ごめん、蓮くん。私、彗くんと走るよ」

蓮くんに謝ると、私は彗くんの左手をしっかりと握り返した。

彼の決意と、私を必要としてくれているという思いが、手に伝わってくる。

私は彼と一緒に、ゴールを目指して走り出した。

途中で足がもつれて転びそうになったけど、何とか堪える。

「菜乃花! あと少しだから、頑張ろう」

時折声をかけながら、私のスピードに合わせて走ってくれる彗くん。

「うんっ」

やがて、目の前にゴールテープが見えて。
私は彗くんと手を繋いだまま、ふたりで一緒にゴールテープを切った。

「ワーーッ!!」

ひときわ大きな歓声が、グラウンドを包む。

二人で懸命に走りきった結果、私たちは2位でゴールすることができた。

3位まで得点が入るから、チームに貢献できてひとまずホッとする。

「お題を見せてください」

無事にゴールした私たちは、係の男子生徒にお題の提出を求められた。

彗くんがお題のカードを渡すと、係の男の子は私とカードを見比べる。

「えっと。宇山くん、お題のものは羽生さんで間違いないですね?」
「はい」
「それでは、2位のところに並んでください」

係の人にほんの少し間があった気がしたけど……お題は何だったんだろう?

「急にごめんな?」

2位の列に並ぶと、彗くんはようやく手を離してくれた。

「ううん。ちなみに、お題は何だったの?」

一緒に走った以上は、やっぱり気になる。

「あー、やっぱり気になるよな」

彗くんが、ガシガシと頭をかく。そして、私の耳にそっと口を近づけて囁いた。

「……大切な人」

──え?

「大切な人?」

オウム返しすると、彗くんが頷く。

えっ。たった今一緒に走ったってことは、彗くんの大切な人ってもしかして私なの!?

彗くんが私に見せてくれたお題のカードには、確かに『大切な人』と書かれていた。

その文字を見た瞬間、私の心臓はドクン、と大きく音を立てた。

「菜乃花は、いつも俺のそばにいてくれて。俺のことを、守ってくれてるから……」

そう言って、彗くんはふいっと私から顔をそむけた。その横顔は、ほんのりと赤らんでいる。

「~っ!」

ようやく彼の言葉と行動の意味を理解した私は、顔がぶわっと熱くなるのを感じた。

まさか、彗くんが私のことをそんなふうに思ってくれていたなんて……!

『大切な人』なんて、家族でも友人でも良いはずだ。

それなのに、彼は私を選んでくれた。その事実が、たまらなく嬉しい。

だけど、それは……やっぱり私が今、彗くんのボディーガード兼カノジョだからかな?

偽とはいえ、学校のみんなには私が彗くんの彼女だってことが知れ渡っているから。あの場合、私を連れて行くのが一番無難だったのだろうし。

そう思うと、なぜか胸がチクッと痛くなった。

「言っておくけど、菜乃花が俺のボディーガードでニセカノだからとか、そういう理由で選んだわけじゃないからね?」
「え?」

まるで私の心の中を読んだかのように、彗くんが口を開く。

「菜乃花は、俺にとって本当に大切な人だって思ってるから」

彗くん……。

彼の言葉が、私の心にしみ渡る。

「いつもありがとう。これからもよろしく」
「こちらこそだよ」

頭を優しくポンポンしてくれる彗くんに、胸がキュンと高鳴った。

私にとっても彗くんは、間違いなく大切な存在になりつつある。

彗くんと一緒にいると、最近はドキドキしたり。彼の言葉ひとつで、元気になったり。

この感情が何なのか分からないけど……これからも、彼の近くにいたいと思っている自分がいるんだ。

このあとも競技は続き……。7時間にも及ぶ花城学園の体育祭では、私たち白チームが見事優勝し幕を閉じた。
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