どうやら俺はラブコメヒロインに転生したようで

ゆい

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第1話「どうやら俺はラブコメヒロインを演じなきゃいけないらしい」

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「ねぇ、美都ちゃん、今日一緒にカラオケ行かない?」



 午前中の授業も終わり、太陽が最も輝く昼を少し過ぎた頃、窓から見える風景を見ていた俺に一人の少女が話しかけてくる。



「いいよ、カラオケ私も行きたかったし。あ、でも、ちょっと予定を確認しないと空いてる日わかんないかも」



 私は窓の外の風景から一度目をそらし、自身の机に掛かっているバッグから一冊の手帳を取りだし、ペラペラとめくり予定を確認する。手帳に書かれた、まるで自分の手帳ではないかのように、一面びっしりと殴り書きで書き込まれた予定を見つめ、ため息が喉から出そうになるのを堪える。



「えっと……今週だったら金曜日の午後からは空いてるかな」



「じゃあ決まりね! 集合は金曜日の十六時に駅前ね。美都ちゃんのことだから約束を破るなんてことはしないと思うけど、ちゃんと来てね!」

 


 私の席に乗り掛かりそうな勢いで少女もとい、香織は私に向かってニコニコと微笑みながら話しかけてくる。



「もちろんだよ。でも、香織ちゃん。まずはこんな話をする前に給食を食べないといけないんじゃない?」




  私は香織の机の上に置かれた皿に残っている野菜たちに目線を向ける。

 すると、香織は私の言いたいことがわかったようで、少し頬を赤くしながら、慌てた様子で弁解してくる。



「やっぱり美都ちゃんは意地悪だよ……。そういう美都ちゃんはそんな余裕そうだけど、ちゃんと食べ終わったの?」




  私自身の頬をまるでハムスターのように膨らませ、文句をいうかのように話しかけてくる。




「私はもちろん食べ終わったよ。まぁこの弁当箱がちょっと小さいっていうこともあるけど」



  私は香織に反論するかのように、自身のすっからかんになってしまった弁当箱を見せつけるかのように取り出すと、香織は「うぐっ!……」と少しオーバリアクションにも思えるような反応をする。やってしまった感オーラを全面に撒き散らしている香織は数秒もすると首を項垂れ、ショボショボとした声で話しかけてくる。



「やっぱり美都ちゃんは意地悪だよ……」



 しょぼくれた様子の香織が私に聞こえないようなボソボソとした独り言をつぶやくと同時に、教室の隅に設置された放送機から少し耳障りなチャイムが響き渡りる。そのチャイムを合図に、クラスメイトたちが一斉に「ごちそうさまでした」という機械的な言葉が口から零れる。

 そんなクラスメイトの声を聴き、自身も感情のない感謝を述べる。机の上に置いてある自身の弁当箱をペンギンの柄がプリントされた布で包み、机の横に掛けてもはや日課となった図書館での読書をしに行こうとすると、右側から震える声が私を引き留める。



「ちょっと待ってぇよぉ……。あともう少しで食べ終わるからさ」



「香織ちゃんごめんね。今日は本を返さなきゃいけないから早く行かないといけなの……」




 そんな当たり障りのない返答をしながら、「待ってぇ……」という香織の震えた声をバッグに図書室へと向かう。

 教室の扉の先に続く長い廊下には、まだ給食の時間が終わってまもないということもあってか、誰一人おらず静寂な時間を過ごしていた。

 そんな廊下の中で、私は堂々とした風貌で図書室へと歩く。廊下の壁に所々に設置された窓からは暖かな日光が差し込み、じめじめとした薄暗い廊下を照らし続けている。

 数秒ほど歩きつづけると、自身の視界に階段が移り、それを一段一段と確実に上っていく。階段を半分ほど
上ると、渡り廊下が現れ、そこに設置された等身大の鏡に映された自身の姿をじっくりと見つめ返す。

 ふっくらとした丁度いい頬、まるまるとした可愛らし大きな黒い目、腰まで伸びた美しい黒髪に、ミニスカートからスラリと伸びた太ももを覆う黒タイツ。そんな美少女が目の前の鏡に映っていた。きっとであれば間違いなく一目惚れをしていたであろう。



「やっぱりこの姿は慣れないな」



 そんなみんなの知っている高坂美都なら絶対に言わないであろう独り言をボソリと呟くと、少し困った表情をしている私が映っている鏡から目をそらし、ゆっくりと再び図書室へと目指す。

 階段を上ったことで少し息が上がり、額に微量ながら汗をかく。やっとのことで階段を上り切り、目の前にある図書室への扉に手をかけ、一瞬躊躇う。



――この静かな空間に入ってもよいのであろうか。




 そんな一意くだらないような考えがよぎり、今まで動いていた手が一瞬止まる。だが、それもつかのま。自身の脳裏に浮かんだ言葉を追い出し、意を決して扉を開ける。

 図書室の中は静かであった。まぁ、それもそうだ、この空間の中では自分なんてちっぽけな存在に決まっている、と当たり前の事実を再び自身を納得させる。

 そんな少し居心地悪い図書室の中を、音を立てないようにゆっくりと歩き、素早く受付にて本を返却する。

 右手に埋まっていた二冊の本を返却し、何をしようか一瞬迷ったのちに、純文学作品が置かれている本棚の方へと歩き出す。



――やっぱり、清楚系美少女は純文学を読まないとね。



 そんなくだらないこと考えながら、私は自身の一番大好きな推理小説を借りるために本が置かれた場所へと手を伸ばす。

………届かない……。

 自身が背がちょっと低いのは自負してたけどまさかここまでとは……。

 ちょっとショックを受けた私が「うーん」と可愛らしい声を言いながら背伸びをしていると、突然自分の借りたかった本が弱弱しい腕によって奪われる。


「あっ」と少し切ない声を出しながら腕の持ち主の方へと振り向くと、そこにいたのは少し頬を赤くして立ちずさむあどけない青年が立っていた。



「本を取れなく困ってたみたいだったから……迷惑だったらごめんね」



 頭を少しかきながら、さっき取った本を差し出してくる青年に軽く会釈をしながら感謝を述べる。




「いえいえ、こちらこそ本をとってくれてありがとうございます」



「当たり前のことをしたまでですよ。ところで……」



 青年は少し恥ずかしそうにはにかみながら、言葉を続ける。



――美都さんは本がお好きなのですか?



 そんな言葉を告げられた私は、ただ既視感を抱くことしか出来なかった。

ただ、あることは一つ言える。学校の中で人気者のである優等生の高坂 美都はであるということだけだ。


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