どうやら俺はラブコメヒロインに転生したようで

ゆい

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第2話 「どうやら美都さんは友達とカラオケに行くそうです」

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――暑い……。




気温は炎天下32度、五月とは思えない程の炎天下に晒され、なんでこんなに暑いんだと悪態をつきながら、学校中の人気者である高坂 美都はある場所へと向かっていた。




「確か、ここら辺のはず何だけどな……」




炎天下の中を歩いて来た私は、額汗から滲み出る汗をポケットに忍ばせていたハンカチで拭き取る。辺りを見回すと、都心部ということもあってか、駅前の大通りには人がたくさん行き交っていた。




「こんな都心部に行くのは初めてだけど、やっぱりテレビで見るより何倍も人が多くいるように感じられるなぁ」




そんな気楽な独り言を呟いていると、お店が立ち並ぶ商店街の方から、聞き覚えのあるような声が聞こえてくる。



「おーい、美都ちゃん! こっちこっち!」




改めて声のした方へと目線を向けると、少し控えめな印象を受ける服を着た香織たちが腕をブンブン振りながらこちらに話しかけてきているのが見えた。




「ごめん、ごめん。今行くから!」




こちらも香織たちと同じように手をブンブンと振り回し、騒音にならない程度の大きな声で話しかけると「あんま走ってケガとかしないでね!」と返答されたのでその言葉に甘えてゆっくりと香織たちの方へと歩きだす。


商店街と駅前の広場を分ける大きな道路からは水分が蒸発しているところが目視でき、今日のいような暑さを改めて再確認することができた。




「みんな一緒に揃ってるみたいだけど、もしかして少し待った?」




「私たちも今来たばっかだよ! それに、まだ約束の時間の五分前だし」




香織は口元に薄い笑みを浮かべながら、ミサンガを着けた右手をブンブンと振り回しながら言葉を口にする。


そして、「それに、ほら!」と駅前に設置されている大きな時計を指で差す。私が、目を細めながら見つめると、おぼろげな時計の秒針は香織のいうとおり集合の時間の五分前を示していた。




「それでは全員集まったことだし、早速カラオケ屋に行きますか!」




私が駅前の時計台から目線を元に戻すと、香織たちは「おーっ!」と小さな雄叫びを上げ、それと同時に拳を突きだすという行動を繰り返していた。そんな下らないことを繰り返して三回、一人の友達が暑いと言い放ったことによって、この儀式は幕を閉じた。



※※※※※※※※※※



「では、本日借りられるお部屋はこちらから見て――」



先ほどの出来事から数分後、クーラーによって適度な気温を保っているカラオケ店の受付まで、私たちは無事にたどり着くことができた。


先ほどまで無限に出てくるのではと思っていた額の汗は無事収まり、冷えた汗によって額はひんやりとした感覚に囚われていた。


そんな気持ちの悪い感覚に蝕まれながら、顔を左右に動かすと、ほんの数分前まで「疲れたぁ」「ちょっと休憩しようよぉ……」と弱音を吐いていた香織の友達である二人組が自由に持っていっても良い、という文字が印刷された張り紙の貼られたバラエティーグッズ置き場の方を向き、キャッキャッと騒いでいるのが目に映る。調子のいいやつめ。


そんなことをぼーっと考えていると、いつの間にか受付での手続きが終わったようで、貸し出しされた鍵をくるくると回しながら香織がこちらの方へと歩いてくる。




「じゃあ、受付で鍵を貰ったことですし、そろそろ始めますか!」




香織は心底楽しそうな表情をしながら、私に言葉を投げ掛ける。




「そうだね。あんまり時間もないことだし、早く行きましょうか」




私が香織に向かってそう呟くと、香織はとても嬉しそうな表情をして、私の右手を握りしめる。




「そう来なくっちゃ! じゃあ、早く行こう、 美都ちゃん!」




香織はそういいながら、私の右手を引っ張って奥の方へと歩みを進める。若干二名を置いていっているように感じるが、そんなことは関係ない。私はただ、そんな当たり前で素晴らしい日々に身を委ねながら少し笑みを浮かべ、ちょっぴり友達もいいものだなと考えるのであった。



◆西村香織


よかった、美都ちゃんが笑ってくれて。よかった、本当によかった。


 美都ちゃんは私のヒーローなんだもん。日陰にいた私を連れ出して、楽しい日々を過ごさせてくれて。でも、ただそれだけ。


 私は美都ちゃんの笑顔を見たことがない。いや、そういう言い方よりもこっちの方があってるかも。私は美都ちゃんの本当の笑顔を見たことがない。


 美都ちゃんはいつも貼り付けたような笑顔をしている。きっと、ただ人並に関わっているだけじゃわからない、そんな笑みを。


 みんなでバカみたいに騒いだり、遊んだりしても、彼女は薄い笑みを浮かべるだけ。


 私は美都ちゃんを恩人と思っているし、一人の友達だから。私は美都ちゃんの笑顔を見たかった。それに、私といて楽しいと思ってほしい嫉妬もあったかもしれない。私は美都ちゃんが大好きで、親友だと思っている。そんな気持ちを、美都ちゃんと共有したい、そんな思いもあったかも知れない。


 でも、よかった。美都ちゃんが笑ってくれて。


 私とぎゅうっと手を握りしめ、笑ってくれてありがとう。




「私と美都ちゃん、親友同士っていうこといいんだよね……」



 心細く、そして自分自身に言い聞かせるようにポツリと呟くと、隣にちょこんと座っている美都ちゃんが「おーい」といいながら私の顔を覗き込む。




「香織ちゃん大丈夫? ちょっとぼーっとしてたみたいだけど」




「ぜんぜん大丈夫だよ!よし、バンバン歌っちゃうよ~!」



 私の望みは美都ちゃんは楽しく過ごしたい、ただそれだけ。


 私は限りある時間を噛み締めるように、マイクを手に取り、スタートボタンを押すのであった。



◆高坂 美都




「今日は楽しかったね! もう私歌いすぎて喉がカラカラだよ……」




 カラオケ店の出入り口の近くで、少し喉が痛そうに咳を鳴らす香織がそこには立っていた。


 辺りはすでに赤みかがった色に染まっており、所々に闇がさしている。気温も昼間に比べれば過ごしやすい環境になり、あちこちからカラスの鳴き声が耳に響く。




「そうだね。私も今日はぐっすり眠れそうだな~」




 私がそう呟くと、周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。その笑いが耳に入り、私が「なによ」と呟くとさらに笑い声が大きくなる。




「あはは、美都ちゃん。面白すぎだよ……」




 ついにはあの香織までもが私を笑ってきた。香織、許すまじ。




「あ、もうこんな時間か……。私、そろそろ帰らないと」




 グループ自体が和やかな雰囲気に包まれていると、一人の一言によって現実に戻される。あちこちから「私も帰らないと……」という声が聞こえ始め、最終的に少し早いが解散することになった。




「ねえ、美都ちゃん。一緒に帰らない?」




 みんなが帰りの用意を始め、私も流されるように準備を進めていると、隣のほうから香織が飛び出し話しかけてくる。どうやら、話を聞くと香織は私と一緒に帰りたいようだった。




「ごめんね香織ちゃん。私、ちょっと本を買いに行きたいの」




 私がそう呟くと、香織は残念そうに項垂れる。しかし、すぐ切り替えたのか、すぐニコッと笑みを作り、私に話しかける。




「じゃあ、またいつか遊ぼうね!」




「うん!」



 私の答えを聞いて満足したのか、香織は私の方に背を向けて歩き出した。そして、私も、それと同時に本屋の方へ歩みを進めるのであった。



**************




 夕方を少し過ぎたころ。都内にそび立つビルの一角にて、少し明るい電灯の下で、私は本屋で推理小説を読んでいた。


 推理小説を読むにつれ、少し露出の多い肌に、クーラーから吐き出される冷たい空気がふわりと触れる。



――よし、これにしよう。




 物語も終盤に入り、そろそろクライマックスというところで私は本を閉じ、レジの方へと歩いていく。


 店の中にはまだ夜になったばかりということもあってか様々な人が歩きまわっている。


 私はその人らを避け、レジの方へと並ぶ。レジには店にたくさん人がいたのに対してぽつぽつと人がいるだけであった。そのこともあってか、レジはスムーズに進み、私はレジの方へと歩みを進める。すると――。




「「あ」」




 同時に二人の声が共鳴する。私が改めて前の方へと目線を移すと、目の前には前に図書室で本をとってくれたあの少年であった。


 少年は、黒縁の眼鏡に緑色のジャージと、部屋着のような服装をしていた。



「あっ、この服装は好きだった本の発売日だったのを思い出して――」




 少年は私の目線に気付いたのか、自身の服装について弁解を始める。




「いえ、別に大丈夫ですよ。あと、一つ気になることがあるのですが、その本を買いに来たというならなんで本を一冊も持っていないんですか?」



 一通り少年の話を聞いた後に、私は少年の姿を見たときに感じた疑問を口にする。さっき聞いた話によれば、少年は欲しかった本を買いに来たようだが、少年の手には一冊の本も持たれていない。


 自身の妙な推理をしたいという感情にとらわれ、少年にそのことを聞くと、少年は「あぁ」といいながら話を始める。




「それは、欲しかった本が売り切れてて……って、あ!」




 少年は話を始めたかと思うと急に声を上げ、私の右手に持つ推理小説を指でさす。




「それ、ぼくが欲しかった本ですよ!」




「えぇ!」




どうやら少年は私の持つこの本を買おうと本屋にきたところ売り切れてしまっていたらしい。


 そんなことを少年から一通り聞くと、少年は物欲しそうな目で私を見ながら言葉を投げかける。




「すいません、よければ何ですけど美都さんが本を読み終わったら僕に貸していただけないでしょうか?」




 私の脳内に、少年の言葉が動き回る。

 

 私の海馬は少年の言葉の意味を様々な観点から考えて、一つの結論に至る。




「別にいいですよ」




「よっつしゃぁ!」




 少年はまるで子供のようにはしゃぎ、「ありがとう!」といいながら、胸元でガッツポーズを作る。



「では、今度の学校の時に借りにくるので、持ってきてくださいね」




 少年はそんなこといいながら、手を振り、出口のほうへ走り始める。


 


――まるで嵐のような人だったな……。




 私はレジの店員さんに呼ばれているのも聞き流し、ただ茫然と彼の後ろ姿を見つめることしかなかった。

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