如月さん、拾いましたっ！

5話 カップルに見えてもリア充とは限らない！

　今日は待ちに待った誕生日だ。勉強漬けの日々でストレスが溜まっていただけに、すごく楽しみだ。

「んふー、どう似合う？」私は如月に訊く。
「良い感じです。私はどうですか？　あんまりモノトーンでコーディネートはしないんですけど……」
「違和感なし！！　しいて言えば少し重め？　丸メガネかけたら？　今日はワイドタイプのテーパードなんだね～～」楽しく話していると、兄が憤怒の形相で割り込んできた。
「黄色のワンピースはどうした！！　なんでお前らモノトーンで服合わせてんだよ！！」これは相当なお怒りだ。

　買ったよ、買ったさ。黄色のワンピース。次の日すぐに届いた。でも遊園地へ行くなら、双子コーデとかやってみたいな～～って思っちゃったのさ。
　卯月と如月私たちは、届いたその日に服をネットで買い直し、今に至る。
　注文して次の日に届くってすごくいい。

「双子コーデ、よくない？」私は兄に自慢気に見せる。
「よくないわ！！　如月もなんでもかんでも買い与えるな！！」怒りの矛先が如月に向く。
「自分が服モノトーンじゃないからって八つ当たりやめてくれます？」如月は手招きして卯月を自分の前に座らせる。

　私の髪に如月がそっと触れる。櫛でといてくれるようだ。私たちの様子を見るなり、兄はさらにイライラしている。
　甘い良い香りのベタベタするものを髪の毛に馴染ませ、更に櫛でとく。私は「何を付けてるの？」と訊いた。

「ヘアオイル。低めのツインテールにしようかなって」温めてあったヘアアイロンで卯月の髪を巻いていく。
「ほぉ～～」およそ、10分程度カントリースタイルの編み込みツインテールが完成した。
如月から鏡を渡され、見てみる。

「かわいいーー！　早く星奈に見せたい！」
「俺も双子コーデしたいんですけど～～」兄が羨ましそうにこちらを見ている。結局、八つ当たりだったのか。最初からそう言えばいいのに。
「卯月さん、睦月さんと場所チェンジお願いします」今度は兄のヘアアレンジをするようだ。私は兄と場所を入れ替わる。

「卯月さん、私のオーバーサイズの白Tと睦月さんの黒のチノパン持ってきてくださ～～い」
「り！！」私は和室に隣接する洋室へ向かい、頼まれた服を探しに行く。
「痛かったら言ってください」如月は睦月の左耳の上から編み込みを始めた。

「持ってきたよぉ～～」
「ありがとうございます。ほら、出来ましたよ」耳に沿って、上から下へ編み込みがされていた。
「星奈がもうすぐ来るから早く着替えて」私は持ってきた服を兄へ渡す。

　兄は渡された洋服を持って脱衣所へ向かった。
　私はその隙に、如月と一緒に自撮りをする。星奈に言われてから、如月はイケメンだと思うようになった。そして私にとって、仲の良い友達ポジションになりつつある。
　たんたんたん。軽やかに階段を駆け上がる足音がする。

「星奈、きたかも」
「卯月ちゃーーん！！　来たよーー！」大きな星奈の声がドアの向こうで聞こえる。
「星奈！　一緒に行けて嬉しいよ！　楽しみだね！」私はドアを開けて歓迎した。

　睦月は脱衣所から戻り「なんかチャラくね？」と如月に訊く。
「その見た目でチャラいとか気にします？　てか、なんですか、そのシルバーチェーン。なんでパンツに付けるんですか」如月は顔をしかめる。
「カッコいいでしょ！！」


　星奈は三人をみるなり、怒りで肩を震わせながら言った。

「なんでみんなモノトーンなのよ！！　双子コーデするなら私にも連絡入れなさいよ！　黄色のワンピース着るんじゃなかったの？！　流れ的に黄色のワンピースだったでしょ！！　おかしいでしょ！！　相談してよ！！　私だけデニムのワンピースとか変でしょ！！　ホウレンソウしなさいよ！！！」ごもっともだ。
「「「すみませんでした」」」三人は土下座して謝ったが星奈に職員室のスリッパで順番に叩かれた。


【fashion】
　卯月　ビッグフリル白ブラウス×黒テーパードパンツ／兄からもらったネックレス

　睦月　オーバーサイズ白Tシャツ×黒チノパン／謎のシルバーチェーン

　如月　オーバーサイズ白シャツ×黒ワイドテーパードパンツ／睦月から奪ったピアス

　星奈　デニム半袖ワンピース×白カーディガン肩掛け／連絡を怠った罰として、如月にやらせた編み込みハーフアップ

　
　私たちはレンタカーで遊園地『アルゴルスーパーランド』へ向かうべく、家を出発した。

　運転は会社で社用車に乗る機会がある兄だ。如月も免許を持っているが、もう、10年くらい運転していないらしく、任せるのをやめた。
　車で2時間ほどかかり、アルゴルスーパーランドに着いた。

「やっと、車とめれた～～」運転の疲労で睦月はぐったりしている。
「お兄ちゃん！　早くいこ！！」私は兄を急かす。
「へいへい……」

　しばらく歩くと、入園券のチケット売り場までたどり着いた。ゴールデンウィークだけあり、大行列だ。
　如月はショルダーバッグから封筒を取り出し見せた。

「全員分の入園券とフリーパスを用意しました～～」封筒の中から取り出し見せた。
「ぉお～～！！」私は拍手する。
「睦月さんは社会人なので、後で私にお金を返すか、1日私とデートするかどちらか選んでください」

　睦月はケチだった。
　入園券とフリーパスを足すと一万ちょっとかかる。如月にお金を返すよりも、デート（仮）の方が安く済むのでは？
　例えば、割り勘にしたり、如月に奢らせるなど、ちょっと工夫して、ランチをするプランを組んで、デート（仮）をすれば、お金を返すよりも節約になってお買い得！！

「デート（仮）デートします」
「へぇ～～、約束しましたからね」如月は不敵な笑みを浮かべる。
「私はママからお金もらったから、払います」星奈は財布を取り出し、一万円札を取り出した。
「半分でいいです。残りは遊園地で美味しいものたべましょう」如月はニコッと笑いかけ、一万円を受け取り、五千円を返した。

　四人はフリーパスを身につけ、遊園地へ乗り込む。色んなアトラクションが目にとまり、迷ってしまう。
　私はパンフレットを見ながら「どれから行く？」とみんなに訊いた。

「星奈はお化け屋敷に行きたい！」私にウィンクをしてきた。これは協力要請だろうか。
「じゃ、お化け屋敷行こう！」私は同意した。

　私はお化け屋敷が苦手だ。人の悲鳴や、暗闇、混沌とした雰囲気が、まるで予期せぬ事態が起きたように錯覚してしまう。
　鬱々としながら、並んで待っているうちに二人中へ入ったら、自分の番というところまで来てしまった。

「卯月さん、顔青いですけど、大丈夫ですか？」心配そうに如月がこちらをみてくる。
「得意ではない……」そんなことお構いなしに星奈はまた私にウィンクをした。

（お兄ちゃんと二人で行かせろってことかな……）

「お兄ちゃん、星奈、先入っていーよ」どちらにしろ今入る勇気がない。
「そう？　じゃ、先入るね。行こっか、星奈ちゃん」二人は暗闇の中へ消えていった。

「星奈はお化け屋敷怖くないのかな？」如月に訊く。
「お化け屋敷に入る目的が睦月さんに近づくためだから、お化けとか興味ないでは？　大事なアシストアイテムみたいな感じかと」
「如月はお兄ちゃんと入りたかったんじゃない？」申し訳ないなと思う。
「いえ全く。今日はダブルデートですよね？　女性をリードしないといけませんからね」如月はクスッと笑い、私の手を取り、指を絡め、お化け屋敷へ足を進めた。