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13話(4)迫る元カノ?!残された紅い印?!貴方を誰にも渡したくはない!
しおりを挟むやっと、やっと仕事が終わった。残業はない。頑張った。数字を見過ぎで、目元が重い。退社するために、デスクの上を綺麗に片付けていく。
後ろからポンっと、肩が叩かれた。
「やれば出来るじゃないか、佐野くん」
「はは……定時で帰りますよ、俺は」
ちらりと神谷の方を見る。まだ業務をこなしている。GPSばっかり見てるからぁ~~。
「志田さんって女の子が呼んでるよ」
「えぇ……用事があるのでテキトーに断っておいてください……」
「自分で断れ。お疲れ」
片手をヒラヒラさせ、上司は帰ってしまった。まだ業務が終わらない神谷に声を掛けた。
「まだかかる?」
「あと少し」
「ちょっと蒼に呼び出されたから行ってくる……終わったら待ってて」
「気をつけて」
神谷が仕事をする手を止め、俺を見る。大丈夫! 神谷にウインクをする。とはいえ、心情は鬱だ。
経理課を出た側で、蒼が立っていた。少し聞きたいこともある。この際、話し合おう。人気の少ない、自販機の前まで移動する。
自販機に小銭を入れ、飲み物を見つめた。
「なんでこの会社に?」
「それは睦月くんが居るからぁ~~」
でしょうね。心の中で相槌を打つ。はぁ、と溜め息を吐き、カフェラテのボタンを押した。
「宴会場でくれた水、何か入れたよね?」
「何かって? 何を? 証拠もないのにやめてくれる?」
落ちてきたカフェラテを、自販機の下から取り出し、蒼を睨む。
確かに証拠はない。でもあの水を飲んでから眠くなり、記憶が途切れている。気づいた時には部屋だった。
「何が目的?」
「睦月くんが欲しい。ただそれだけだよ? 男の恋人なんてやめれば? 付き合ってどうするの? 結婚も出来ないのに」
俺の目を見て、自分の中でセンシティブな話題を突いてくる蒼から、逃げるようにカフェラテの蓋を開け、口を付ける。
「それは……そうだけど……今はこれでいい……」
「より戻そうよ、睦月くんだって私のこと求めてたじゃん」
とん。
蒼に胸を押され、背中が自販機に当たった。蒼が密着するように、俺に詰め寄る。触れ合う体と、吐息が首筋にかかり、鼓動が早くなる。
少し死角になっているとはいえ、人が来たら非常にまずい。
「いや、あれは事故……より戻すとかはもう考えられない」
「でも体は私を求めてるんじゃない?」
蒼の手が俺の下腹に添えられ、頬が赤くなる。ただでさえ、近い距離。そんなところ触られたら、すぐに反応してしまう。
「…………っやめて」
「直接触ってあげようか?」
蒼の肩を軽く押すが、離れてくれない。好きじゃないのに、添えられた手が少し動くと、バカみたいにドキドキする。
「遅い……って何やってんだよ~~」
神谷がこちらに歩いてきた。俺を見るなり苦い顔をする。神谷が来たことで、ほっとする自分がいた。
「あーー、邪魔した? ごめんね? でも職場ではやめようね?」
「神谷さんっていつもタイミング悪い」
神谷なんてお構いなしに添えられた手が、幹を撫でる。手のひらから感じる柔らかな快感に、肩がビクッと小さく上がった。
「…………っっ」
感じでいる自分を誤魔化すように、顔を横に逸らす。さっきより強めに蒼の肩を押し退け、蒼と距離を取る。
「身体は素直だねぇ。じゃあね、睦月くん」
「…………」
「お前って、雰囲気に流されやすいよね」
「もうやだ……なんなのこの身体」
「男の宿命ですよ」
神谷に背中を押され、とぼとぼと経理課に向かって歩く。神谷が俺の背中をポンポンと叩いた。慰めてるの?
蒼とあんなことがあったせいか、性的に意識してしまい、敏感になっている、気がする。如月という恋人がいるのに、女性にも反応するこの体。
仕方がないこと、と分かっていても、気持ちが割り切れなくて、苦しい。如月に会いたい。
「皐さんの家、行こっか」
「流石にもう如月、帰ったかな?」
「んーー、どうかな。GPS見た感じ、見送りをしたような形跡はなかったけどね」
神谷と一緒に、会社を後にして、皐の家へ向かった。
家に着くなり、神谷は鍵を取り出し、鍵穴に差し、ドアノブを引いた。付き合っていないのに、鍵を持っている神谷に、少し引く。
「なんでカギ持ってるの?」
「作ったから? ちゃんと許可得てるよ?」
さも、自分の家のように、部屋へあがる神谷を見て、ますます、2人の関係性が分からなくなる。
「どんな関係なの、それ……」
「う~~ん。セフレに近いかな……皐さ~~ん、来たよ」
神谷がひとつの部屋のドアを開けた。
ダブルベッドの真ん中に片膝を立てて座る如月と、倒れた腿に両腕と顎を乗せている皐が目に入り、無表情になる。
そして、2人の前でうつ伏せになり、寝転がって教科書を開く卯月の姿に、安堵する。2人きりじゃなかった。
「ほら、なんにもない~~」
「勉強教えてもらってるだけだよ?」
「そうもしれないけど、なんかモヤるんだけど……」
皐の頭を撫でる如月に、少しムッとする。俺以外を触るなよ。
「弥生は手癖が悪いからな」
「まだ言うの? それ」
「……まぁ睦月も手癖が悪そうだな」
皐と如月がじぃっと俺を見つめてくる。何? なんでそんなに見つめるの?
「卯月さん、続きは家でやりましょう」
「はぁい」
「皐、今日はありがとう。助かったよ」
勉強道具を片付ける卯月の傍らで、皐の脇の下に手を入れ、持ち上げて腿の上から下ろす如月に、腹が立つ。
(……それアリなの? 今絶対、胸に触れたじゃん)
「いいんだ。役に立てたなら良かった。ん? なんだ? ヤキモチか? 醜いな」
「違うわ!!!」
如月がベッドから降り、俺の目の前に立つ。如月の顔が俺に近づき、さらさらとした毛先が、俺の頬を撫でる。キスかな? 静かに目を閉じた。
「…………如月?」
いつまで経っても重ならない口唇に、閉じた瞼を開け、如月を見る。眉間にシワを寄せ、すごく嫌な顔だ。
「…………くさい」
「え?」
「穢らわしい女の匂いがする。悪い虫がついた」
襟元が人差し指でトンと、叩かれ、目線を襟に向ける。口紅のようなピンクの化粧品が綺麗についていた。何これ!!!
親指で顎が上に持ち上げられ、如月と目が合う。
「その汚い女をどうにかしろ。反吐が出る。帰る」
「あぁっ!!! もぉっ!!!」
「ちょっと待ってよぉ~~」
頭をぐしゃっと掻き、部屋から出ていく如月の背中を追いかける。俺の後ろを卯月がバタバタと着いてきた。
*
「またケンカですかぃ~~」
「そうではない。ペットへの躾だ」
私の隣に座る湊の腿に、両腕と顎を乗せる。怠そうに、手の甲で頬が撫でられた。
「調教の始まりだよ」
「調教って……佐野に何するんですか……」
「……ふふっ、それを言ったら、私がされてきたことがバレてしまうだろう? なぁに、心配することはない。愛欲に溺れるだけだ」
手を伸ばし、湊の顎を引っ張り、自分に近づける。早く私にキスをしろ。
「皐さん、セフレ止まりは勘弁してよ?」
「……考えておく」
優しく唇が重なる。湊のワイシャツに手を伸ばし、ボタンを上から順に少しばかり外す。ふわりと身体が浮き、湊の膝の上に座らされた。
湊の手を掴み、そっと自分の胸の上に手を乗せる。
「お弁当美味しかった、また作ってよ」
「嘘をつけ。アレのどこが美味しいんだ」
しばらく無言で見つめ合い、甘い果実を貪るように、唇を重ねた。
*
睦月に近づいた瞬間、甘い、鼻に付くような悪臭がした。すれ違っただけで、付くようなものではない。
襟元にはピンク色の化粧品が付着していた。あんなところに化粧品を付けるには、密着しなければあり得ない。
頭の悪そうな女に見えたから、そこまで害はないと考えていたが、意外と粘着している。睦月さんも自分の筋を通すタイプのクセに、迫られると流されやすい。
完全につけ込まれている。色々面倒くさい。
後ろから呼ぶ声を無視して、家へ向かう。職場で浮気紛いなことをしていることは、気に入らないが、それに対して怒りは、さほどない。
それよりも、たかが女1人突っぱねることが出来ない、流されやすい睦月に腹が立つ。
どうしてくれようか。
「如月、待って! 少し話そう」
「言いたいことは全て言った。話すことはないし、怒ってはいない」
後ろから服を掴まれ、足を止める。掴まれた手をそっと、私から離す。
「そんなの絶対嘘……」
睦月を無視して、止まった足を進める。もうすぐ家だ。
「とりあえず、家の中で話し合えば? まぁでもさぁ、私が彼女だったとしても、この口紅は嫌かも~~」
「うっ……」
先に、家に入り、リビングへ行く。腰を下ろし、テーブルに頬杖をついた。睦月が私を追うようにリビングへ来て、私の側に座った。
睦月さんから私以外の匂いがする。はぁ、くさい。その口紅を見るのも嫌だ。
「まず、着替えて風呂に入ってこい」
「……はい」
返事以外は何も言わず、睦月が私の元を離れた。浴室から水の流れる音が聞こえる。睦月と入れ替わるように、卯月が私の隣に座った。
「体調はすっかりいいけど、機嫌は悪いね」
「これは予想してなかったですから。同じ会社なら接触はありますよねぇ」
「でも別れてるんでしょ?」
「えぇ。彼女と決着をつけるには、無理な要求をされるかもしれませんね……まぁ、大体何を要求してくるか想像出来ますから、ちゃんと調教しておかないとね」
風呂から上がったのか、火照った顔で睦月が私の側に寄る。指先で濡れた髪に、そっと触れる。
「お風呂、上がった……」
「…………」
睦月の髪先から水滴が落ちた。熱を持った頬は赤く染まり、肌着は濡れて、透けている。薄く浮き出ている胸の突起が、いやらしくて、気持ちが昂る。この期に及んで、私を誘っているのか?
睦月の顔をじーーっと見つめる。
「ごめんってばぁ……」
早めに調教しないと取り返しがつかなくなりそうだ。まだ若いし、これから色んな選択が出来て、好きな人生を歩めるような人を、こちら側に引き込むつもりはなかった。
なのに、どうしても睦月さんを誰にも渡したくない。本人も望んでいるし、問題ないよね……?
睦月を優しく抱きしめ、頭を撫でる。
「ご飯作って? 食べたら少し出かけましょ」
「う、うん……?」
「卯月さん。出かけたら、今日は帰らないかもしれません。すみません」
「えっ? きさ……ら…ぎ………? どういう意味……?」
「ん~~どういう意味だと思う?」
私の言葉に赤面する睦月の頬に、軽く口付けする。ちゅ。固まる睦月が可愛くて、クスッと笑ってしまう。今晩は、逃がさないよ。
「ぇえ~~、まぁいいけど。朝食までには帰ってきてね」
「了解です」
私たちをみて、卯月がニンマリと笑った。
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