蜜色キャンバス〜御曹司とオメガの禁断主従〜

霜月@如月さん改稿中&バース準備中

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58話 #『君と結ぶ、ただひとつの証』

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「水都……少しだけ、目を閉じてくれる?」


 薄明かりの灯る寝室で、綾明がそっと俺の手を取った。その声が、いつになく穏やかで優しくて。肩に入りかけていた力が、ほんの少し抜けていく。


 目を閉じると、ぬくもりが頬に触れた。綾明さんの手……。指先が、撫でるように頬を包み込む。その手のひらから伝わる温度が、心の奥まで染み渡った。


「番になるっていうのは、そこが『ゴール』じゃない。これから一緒に歩き出せる『スタートライン』なんだ。……魂と魂が触れ合う運命の番。君と出会って、やっと、その意味がわかった」


 その声が胸に沁みる。真っ直ぐで、あたたかくて、どこまでも真剣で。俺の中の何かが、そっと震えて、ゆっくりと、少しずつ溶けていく。


「俺は……この命が尽きるまで、綾明さんの番でいる」


 そう口に出した瞬間、心の奥にあった小さな不安が、少しだけ形を失った気がした。


 綾明が俺に額を寄せる。自然に呼吸が重なって、同じ鼓動を刻んだ。熱くもないのに、なぜだろう。涙が出そうなほど、あたたかかった。


「これはただの『番の契約』じゃない。……僕と君だけの、『誓い』だよ」


 それは誓約でも契約でもなく、もっと深いところで交わりあう、ふたりの『絆』だった。


 綾明の想いが、まるで光のように俺の内側へ流れ込んでくる。怖くない。寂しくない。もう、ひとりじゃない。


 これが番になるということなのかもしれない。


「水都……これからも、僕のそばにいてくれる?」
「……うん。ずっと、綾明さんの番だよ」


 お互いの口唇が重なる。静かに、けれど何かが確かに繋がった。言葉では言い表せない、深い場所で、俺たちは『ひとつ』になった。


 ーーでも、それでも、まだ足りない。


 きっと、綾明さんも同じ気持ちだったのだろう。目を見つめたまま、綾明がそっと顔を寄せてきた。


「水都……僕から、君に誓わせて」


 囁かれる声は、まるで祈るように穏やかで。そのまま、綾明の牙が、俺の首筋に触れる。


 ちくりとした感覚と共に、熱が体の奥に流れ込んだ。優しく、けれど消えない強さで刻まれた、『愛の証』。


 綾明が、俺を見つめて微笑む。その眼差しに、胸がじんわりと満たされていく。


「……今度は、水都の番として、僕を繋いで」


 その言葉に、胸がぎゅっとなった。震える手で、綾明の首筋に触れる。大切なこの人を守りたい。ただ、それだけだった。


「……俺も、綾明さんを、守りたい」


 決意を込めて、そっと肌に牙を立てる。ほんのわずかな傷がついた。でも、そこに込めた想いは、何よりも深い。


「……これで、おそろいだね」
「うん。君と僕の、世界でたったひとつの『誓いの証』だよ」


 綾明が照れたように頬を赤く染め、俺の隣に腰を下ろした。そんな様子が、愛おしくてたまらなくて、頬が緩む。


「……あのさ、水都……」
「うん?」
「……その……僕たち、長いこと身体を重ねてなくて……。水都も少し安定してきたし、無理のない範囲で、もし……よかったら……その……」


 どんどん小さくなっていく声に、つい吹き出しそうになる。


「まぁ、ちょっと腹は出てきたけど~~、そんなに変わってないし。……でもあんまり激しくはしないでよ?」
「それはもちろん。水都が痛かったり、やめたくなったら、すぐにやめる」
「ありがとう」


 そのまま綾明の膝に跨り顔を近づけた。綾明の頬を両手で包み、唇を重ねる。今日は俺から愛を伝えたい。


 何かを察したように、綾明の口唇が薄く開く。上手に出来るかな? 恐る恐る舌先を差し込み、ざらりとした口蓋をなぞった。


 ぎこちなく舌先を絡めると、綾明がそっと舌先を絡め返してくれた。


「んんっ…ん……ぁ…はぁ……んっ…ふ……」


 口付けだけで、胸がいっぱいになる。優しくて、あたたかくて、甘い口付けに、目尻がとろんと下がってくる。


 綾明の手がTシャツの裾を捲り、素肌を這う。久しぶりの指先の感覚に、身体がびくりと跳ねる。指先が胸の突起を優しく擦った。


「はあっ……ちょっ…あっ…だっ、だめっ…」
「……だめって言われるとやめた方がいいのか迷うんだけど」
「あ~~もぉっ! 前は『ダメってことは~~』とか言ってたくせに! 遠慮すんな! 嫌ならぶっ飛ばすから」
「……物理的なストップだけは勘弁して……」


 笑い合いながらも、綾明の指先が撫でるように俺へ触れる。俺たちの間にある体温は、熱い、というよりはあたたかかった。


「ここだったかな?」
「っあっ…やっ…んっ…はぁっ…あやめさっ…そこはっ…だめっ…ぁあっ」


 潤滑剤がくちゅりと音を立て、窄みから入った指先は、柔らかに肉壁を辿り、感じるところを優しく押し上げる。


「『だめ』じゃなくて、『綾明さん、気持ちいいですっ』って言ってほしいな~~」
「んっ…もぉっ…あっ…なにそれっ…ぁっあっ…はあっ…やっ」


 頬は赤く染まり、脳が甘く蕩ける。気持ち良さで下がってくる瞼のせいで、瞳がしっかり開かなくなる。けれど、綾明さんは、それ以上、踏み込もうとしなかった。


 綾明の服をぎゅっと掴み、琥珀色の瞳をじっと見つめる。


「…はぁっ…んっ…綾明さん、俺からも愛させてっ…あっ…」
「……無理しなくてもいいよ」
「遠慮してるの?」
「お腹の子にね」


 その言葉が嬉しくて、でもちょっとだけくすぐったくて、笑みが溢れる。窄みから指先がゆっくりと引き抜かれた。俺は綾明を押し倒し、覆い被さった。


「ん~~、それはちょっと違うかな?」
「なにもぉ~~っ!! わがままだなぁ!!」


 綾明の腕が俺を抱きしめて、ごろんとふたりで寝転ぶ。抱きしめられたまま、そっと目を閉じた。


 ーー結局、俺ばっかり気持ちよくなっちゃったな。


 綾明の顔を腕の中から見上げると、優しく微笑んでいた。


 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー

 ーー朝


 やわらかな陽射しが、窓から差し込む。隣には、眠ったままの綾明さんがいた。その横顔を見て、ふっと笑みが溢れる。


(……俺、番になったんだ)


 凍えていた日々も、孤独だった夜も、今は遠い。これからきっと、試練も痛みもあるだろう。だけど。


 今はーー綾明さんがいる。


「綾明さん……俺、がんばるよ」


 そっと、お腹に手を添える。少しだけぽっこりとした、小さな命がそこにいた。


「ふたりとも……がんばるからね」


 お腹を優しく撫でながら、綾明の額にそっと、口付けを落とした。
 


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