俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

文字の大きさ
14 / 173
第二章 「ゴールデンクロス」

第11話 「契約」

しおりを挟む
 俺とアイラは、魔法士ギルドでの契約を終えて取引所へと向かっていた。

「取引魔法士の登録を終えたら、アルカナプレートの登録も必要だそうです」

 アイラが、手続きの説明書を読み上げながら、時折ちらりと俺を見る。表情にはどこか不安が残っているが、先ほどの契約時よりはだいぶ落ち着いているようだった。

「そうだな。まずは登録を済ませよう」

 そうこうしているうちに取引所の入口までやってきた。取引所の入口をくぐり、再びあの騒がしさと熱気に包まれたホールに足を踏み入れる。相変わらず、多くの魔法士と投資家が行き交い、魔導スクリーンには、市場の最新情報が忙しく映し出されている。

 アイラの方を見ると、すこし怯えた様子で回りを見渡している。

「アイラ、行くぞ」

「あっ、はいっ」

 俺とアイラは受付に向かい、手続きを進めることにした。対応したのは黒髪の女性だ。

「取引魔法士の登録ですね。手続きの準備をしますので少々お待ちください」

 そう言って、黒髪の受付嬢はバックヤードへと姿を消す。戻ってきた受付嬢の手には、見慣れない魔道具が握られていた。

「こちらにどうぞ」

 受付嬢は、そういって俺たちを取引所の奥へと案内した。薄暗い階段を下りていくと重厚な扉が俺たちを迎えた。黒鉄くろがねに金の縁取りが施されたその扉は、まるで宝物殿の入り口のような威厳を放っていた。

「この先が、契約室です」

 受付嬢はそう言うと、先ほどの魔道具を取り出した。表面には複雑な術式が彫り込まれており、見慣れぬ符号が淡い光を放っていた。

「これは……鍵か?」

「はい。この鍵がなければ、この扉は開きません」

「よいしょ!」

 受付嬢がそう言ってその魔道具を扉の中央にあるくぼみにめ込むと、術式が一斉に輝き出し、鈍い音を立てながら扉がゆっくりと左右に開いていった。

 静寂の向こうに広がったのは、幻想的な空間だった。高い天井には満天の星のような光が浮かび、床には半透明の魔法陣がいくつも刻まれていた。

「……ここは?」

 思わず問いかけると、受付嬢が優しく答える。

「取引広場の地下にある契約の間です。ここは、トークンコアから発せられる魔力場の影響が強いため、契約魔術の儀式に最適とされております」

 なるほど……この空間全体が、トークンコアの影響下にあるというわけか。

「では、儀式を始めましょう。契約者は右の陣に、魔法士は左へお願いします」
 
 部屋の中心には、円形に配置された魔方陣が二つ。相対するように設置されている。そこへ立つようにと受付嬢に促され、俺とアイラは互いの顔を見てから頷き合い、所定の位置に立った。

「緊張してるのか?」

「……は、はい。こんな儀式、初めてで……」

 受付嬢は手慣れた様子で手続きを進める。

「おふたりの名前、そして心を込めた誓いが、この儀式の核となります」

「それでは、アルヴィオ・アディス様、契約者としてご自身のアルカナプレートをご用意ください」

 俺は懐からアルカナプレートを取り出し、中央の台座に据える。その瞬間、部屋全体にほのかな震動が走る。まるで、空間そのものが目覚めたかのようだった。

 受付嬢が続ける。

「アルヴィオ・アディス。アイラシア・ルミナス。ここに、相互の信頼と意思をもって、トークンコアの加護を受けし契約を結ぶことを誓いますか?」

「……誓う」

「わ、わたしも……誓います」

「それでは、アルヴィオ・アディス、アイラシア・ルミナス、それぞれの血を、アルカナプレートにお示しください」

 差し出された銀針が、指先に触れた。ほんのわずかな痛みが走り、にじんだ血がアルカナプレートに染み込んでいく。

 続いて、アイラもそっと自分の指先を傷つけ、赤い滴を落とした。

 アイラの血がアルカナプレートに触れた瞬間――空間が一変した。

 星空のような天井に魔法陣が浮かび上がり、二人の身体を中心に螺旋を描きながら光が収束していく。現実感が薄れ、魔法だけが世界を支配しているような感覚。

――そのとき、かすかに、耳の奥で声が聞こえた。

『……見ぃつけた!』

 女の声だった。だが、アイラは気にしたそぶりはなく、まるで何も聞こえていないようだった。

――気のせい……か?

 振り払うようにその思念を打ち消す。

 目の前では、空間を包む光が静かに収束していく。

 最後に、二つの名前が魔法陣の中心に刻まれた。

――『アルヴィオ・アディス』

――『アイラシア・ルミナス』

 その文字がまばゆく輝き、空気中に消えた瞬間――

「……契約、完了です」

 受付嬢の声が、空間を現実へと引き戻す。アイラは少し驚いたような表情を浮かべる。

「……なんだか、少し温かい感じがします」

 アイラがそう呟いた。

「これで正式に取引魔法士として登録が完了しました。おめでとうございます」

「取引魔法士と契約者の間には魔力的なパスが形成されています。特にトークンコアの近くでは、念話が可能になります」

 受付嬢の説明に、俺とアイラは顔を見合わせた。

 念話――つまり、言葉を発せずとも意思疎通が可能になるということか。

「試してみるか」

 俺はアイラを見つめ、意識を集中させた。

<――アイラ、聞こえるか?>

<――えっ!? 聞こえます……! すごいです、アルさん!>

 直接脳に響くような不思議な感覚だった。これは確かに便利だ。市場が混雑する場面でも、瞬時に連携が取れる。

「手続きは完了しました。お二人には私、リアナが今後の担当受付としてお手伝いさせていただきます」

「よろしく頼む」

「よろしくお願いします」

 アイラは小さく頭を下げる。リアナが深々と頭を下げ、俺たちは再び部屋の入り口へと戻った。

 だが、俺の目は、反対側の扉に向いていた。

 儀式の間中、開かれることのなかったその扉には、刻まれた魔法陣が淡く光を帯びている。

「なあ、リアナ。この奥って、何があるんだ?」

 俺の問いに、リアナはほんのわずかに口元を引き締めた。

「あちらは……トークンコアの真下にあたる区域です。詳細は、私どもにも知らされておりません。ただ、職員の間では古くから伝えられる噂があります」

「噂?」

「ええ。ここだけの話ですが、トークンコアの真下には、古代の遺構……ダンジョンが広がっているのではないかと言われてます」

 アイラが小さく息を呑んだ。

 ダンジョン――魔素の濃度が極めて高い危険地帯。だが、同時に莫大な魔力(=富)と財宝が眠る可能性を秘めた場所でもある。

 取引所に上場する冒険者クランやパーティーの多くが世界中のダンジョンに挑んでいる。ダンジョンの発見はその地域の経済を大きく変えるニュースだ。
 
――そんなものが、公にされずにここにある?
 
 不思議な話だった。トークンコア――この世界の経済と魔法の中心とも言える存在。その真下に、未知の領域が広がっている。

 俺は再び、扉の文様を見つめた。

 この奥にあるものは、果たして財宝か、それとも破滅の種か。だが今はまだ、その扉を開ける理由も資格も、俺たちにはない。

「行きましょうか、アルさん」

 アイラの声に振り返ると、控えめな笑みを浮かべていた。俺はうなずき、扉に背を向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す

ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。 筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。 そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。 魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く—— 「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、 常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

処理中です...