俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

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第二章 「ゴールデンクロス」

第15話 「休日」

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 休日のリアディスの空は晴れ渡っていた。

「アルさん、あそこがリアンス広場です。週末になるとたくさん露店が並ぶんですよ」

 アイラが嬉しそうに指差した先には、色とりどりの布を掲げた露店と、活気に満ちた人々の姿が広がっていた。

 香辛料の匂い、鉄と油の混じった魔道具の煙、商人たちの呼び込みの声が、五感を刺激する。

「投資のヒントになるようなものが、どこかに転がってるかもしれないな」

「そういうの、やっぱり気になりますか?」

さがってやつだな」

 アイラがくすっと笑った。

 運河沿いの市場、異国情緒あふれる商店街、魔道具が並ぶ工房通り。見て回るだけで情報の宝庫だ。

「アルさん、ここは絨毯屋さんですよ。南のサヴェナリア国から輸入されていて、最近は値段が上がってるとか……」

「サヴェナリアの交易が活発になってる証拠か。輸送コストが上がってるのか、需要が増えてるのか……調べる価値はありそうだな」

 アイラの何気ない一言が、新しい投資のヒントを与えてくれる。案内役としても、なかなか頼もしいじゃないか。

 職人が細かな作業をしている様子を見たり、珍しい魔法具の解説を聞きながら歩く時間は有意義だった。世界経済の中心、リアディスの息遣いを知ることができたのは、大きな収穫だ。

「……やっぱり、すごい街だな」

「そうですね。住んでいると慣れちゃいますけど……アルさん、少し疲れてませんか?」

 そう訊かれて、自分でも意識していなかった疲労に気づいた。たしかに、朝から歩き回っていれば当然だろう。アイラの案内は丁寧で、どこも興味深かったが、それなりに体力は使っていたらしい。

「少し休もうか」

 リアンス広場の一角、空いたベンチを見つけて腰を下ろす。

「アイラ、今日はありがとな。俺一人じゃ絶対に見逃してた場所ばかりだったよ」

「ふふ、喜んでもらえたなら、よかったです」

 アイラは、やさしく微笑む。

 俺は立ち上がり、アルカナプレートを確認する。

「じゃあ、お礼に飲み物買ってくるよ。あっちに冷えたジュース売ってたしな。アイラはここで待っててくれ」

「えっ、そんな……いいですよ、わたしが行きますよ」

「お礼だ。素直に受け取っとけ」

「……じゃあ、えっと……柑橘系の、甘くないやつが好きです」

「了解」

 そう言って手を振り、俺は露店の並ぶ通りへと足を向けた。

 露店の列を見つけて並び始めた時だった。

 ドンッ、と重い爆発音が広場を揺らした。

「何だ!?」

 振り返ると、露店の一角で炎が見える。

 周囲の人々が悲鳴を上げて逃げ出していく。

 炎の中心は、……魔道具だ。

 店先に並べられていた魔道具の一つが、暴走し火柱を上げていた。炎の勢いは凄まじく、あたりの露店を飲み込もうとしていた。

「まずいな…」

 広場は一瞬で混乱に包まれた。

 逃げ惑う人々、叫び声、そして炎の熱気。それらが入り混じる中、俺の目に一人の子供が映った。子供は驚いてその場に立ちすくんでいた。親らしき人物は、混乱ではぐれたのか見当たらない。

「誰か、助けて…!」

 子供の小さな声が聞こえたが、その声は混乱の中でかき消されていく。火の手は子供すぐそばまで迫っていた。

「くそっ!間に合わない!」

 その時だ。

 子供を守るように、小さな魔法陣が展開される。

――アイラだ。

 近くにいたアイラが駆けつけ、子供を守ろうと防御魔法を展開する。しかし、その魔法陣は小さく、子供一人を守るのにも不十分だ。

――魔力不足。

 炎の勢いに対して、防御の膜はあまりに薄く頼りない。

「アイラ!」

 俺は叫びながら駆け寄った。

 アイラは必死の表情で防御を維持していたが、炎の勢いは増すばかりで、周囲の露店にも次々と燃え移っていく。アイラの額には汗が滲み、顔は緊張と焦りで固まっていた。

「アルさん…! このままじゃ…!」

 アイラの声は不安と焦りに震えていた。
 
 ポーチの中にあった、青色の結晶――オルソン爺さんからもらった魔力石を取り出し、俺はアイラに差し出した。

「これを使え! 魔力石だ!」

「で、でも…!」

「いいから使うんだ!」

 俺の言葉に、アイラは迷いを振り切ったように魔力石を受け取る。アイラが、魔力石に手をとると、魔法陣が輝きを増した。

 魔法の壁が炎を押し返す。
 
「アルさん、お願いします……!」

 その意味を理解するより早く、俺はアイラの背後に回り、子どもを抱きかかえるようにしてその場を飛び出した。

「もう大丈夫だ!」

 母親が、子供の名前を叫びながら駆け寄ってくる。俺は子どもを無事に渡し、安堵する母の姿を確認して、再びアイラのもとへと戻った。

 炎はいまだ消えず、魔道具の残骸がぜる音が続いている。

「もういい、逃げよう!」

 そう促した俺に、アイラは――かすかに首を振った。

「でも、まだ火が!」

「アルさん、魔力石の残り使ってもいいですか?」

 アイラの金色の瞳が、真っすぐ俺を見つめていた。そこには迷いがなかった。

 俺は頷いた。

「アイラ、行けるか!」
 
「はい!」

 アイラは魔力石を胸元に当て、静かに目を閉じた。そして、そのままの姿勢で魔法陣を展開し始める。

 その速さは、常識を逸していた。アイラの周囲には、魔法陣の青い光が幾重にも輝いている。

 5つ、6つ、7つ……優に10を超える魔法陣が展開されている。

 それらが全て、わずか数秒のうちに完成した。

――魔法の多重展開。

 俺は息を呑んだ。

 早すぎる。恐らく並の魔法士なら、これだけの術式を同時に起動するのは不可能だ。恐らくクロエでも数十秒はかかるはずだ。それを、アイラは数秒でやってのけた。
 
「おねがい!」

 アイラの声と共に、青い魔法陣から水が勢いよく吹き出し、炎に向かって飛んでいった。

 魔法陣が次々に水を放ち、暴れる火を飲み込んでいく。炎を一気に包み込み、蒸気が立ち込める。

 炎は徐々に小さくなり、やがて完全に鎮火した。

 水の飛沫が広場に広がり、大きな虹ができていた。

「ふぅ…やった…」

 アイラは肩で息をしながら、魔力石を握りしめていた。

 その顔には疲労が浮かんでいたが、同時に達成感もあった。

 膝に手をつき、深く息を吸い込んだ。

 周囲の人々からは安堵の声が上がり、拍手が巻き起こった。

 「助かった!」「ありがとう!」という声が次々に聞こえ、広場にいた人々がアイラに感謝の気持ちを伝えていた。

 子供の母親が涙ながらにアイラに頭を下げ、感謝を述べる姿を見て、温かい気持ちになった。

「お疲れ様。アイラがいなかったらどうなっていたか…」

「アルさん…ありがとうございます。でも、魔力石の魔力をたくさん使ってしまいました…ごめんなさい」

 アイラは申し訳なさそうに魔力石を俺に差し出したが、俺は笑って首を振った。

「気にするな。アイラのおかげであの子供は、助かったんだ」

「はい、ありがとうございます、アルさん…」

 アイラは少し恥ずかしそうに笑った。

 俺は、その笑顔に一瞬見とれてしまった。

 気を取り直して魔力石を受け取り、そのまま残っている魔力をアルカナプレートに吸収させる。僅かに残高が増えるのを確認した俺は、思考を巡らせる。

 この騒動のおかげで、アイラのことを少し理解できた気がする。魔力石は失ったが、アイラの能力の一端を垣間見えたことは大きな収穫だ。

 広場を後にした俺たちは、街の喧騒の中を進んでいた。通りには華やかな装飾が施されていて、人々の笑い声や音楽が響いていた。

 魔法で動く小さな人形が、店先で踊っているのを見て、アイラが少しだけ目を輝かせていた。

「アルさん、あの人形…可愛いですね」

「そうだな。年末だからか、こういう飾りがたくさん出てるな。あっちにも出てるぞ」

「あっちのは、あんまりかわいくないです」

 俺とアイラは、視線の先にある人形を見て笑いあう。

 住民の笑顔や子供たちの歓声が溢れるこの街の雰囲気は、どこか暖かく、希望に満ちているように感じた。
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